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16 四天王バシュバーザ、転落開始(四天王side)

 魔王軍四天王『絢火』のバシュバーザは機嫌がよかった。


 勇者打倒の報せがまだ届いたわけではないが、独自に行っている魔法研究が順調なことから、彼の機嫌は珍しくよかった。


「ねえねえバシュバーザ……、うおッ!? 何これッ!?」


 風の四天王ゼビアンテスが研究室に入る。

 そしてバシュバーザが熱中する魔法実験物に驚く。


「なんだ? 我が研究室に勝手に入ってきて無礼な?」

「いや急用があったからなんだけど……。何これ? ちょっとスルーするには無理があるシロモノなのだわ?」


 仮にも四天王クラスの大魔法使いを驚愕させるほど、魔法実験物は物々しい。


 規模も大きく、注入されるエネルギー量も大きい。


 バシュバーザは一体何を成そうとしているのか。


「聞きたいか? 気になるだろう? 秘中の秘だが、同じ四天王であるお前なら聞く資格はある。特別に教えてやろう」


 バシュバーザは兼ねてから自慢したかったようで、もったいぶりながらも率先して説明する。


「これは凝縮魔法爆弾を製造しているところだ」

「凝縮魔法爆弾?」


 聞き覚えがあるのか、ゼビアンテスはこめかみを指先でグリグリする。


「ちょっと待つのだわ。……それってたしか、魔法吸収率の高い材質を超圧縮することで作り出せる爆発兵器だって聞いた気がするのだわ」

「よく知っているではないか。一応四天王に選出されただけあって多少はものを知っている」


 とは言いつつもバシュバーザは自身の解説の機会が奪われて不機嫌そうだった。

 気を取り直して語る。


「そう、これは恐るべき魔法爆弾」


 説明する。


「ミスリルを主原料に、他複数の魔法原料を決まった割合で混合して圧縮し続けると、ある時点から無尽蔵に魔力を吸収する特質が生まれる。元々魔力吸収率の高いミスリルだが、この処置を施すことによって何百倍もの魔力を溜め込み、一気に放出できるようになる……!」

「そうすることで超強力な爆弾に加工可能ってことね?」


 ゼビアンテスが脂汗を浮かべる。

 その超爆弾がもたらす被害を想像して。


「どの程度の威力を想定しているの?」

「人間どもの街を跡形もなく吹き飛ばすぐらいだな。しかもかなり大規模の」

「またドエライものを製作するものだわ……!」


 これが完成したなら、魔族と人間族とのパワーバランスに著しい影響を与えることだろう。

 たとえば勇者が滞在している街ごと消し去ることも可能となる。


「でもこの爆弾を作り出すには、途轍もない量のミスリルが必要だと聞いたのだわ? ただでさえ高級品のミスリルなのに、コスパが合わな過ぎて実用不可能だと聞いてるけれど?」

「凡人の尺度で合わせればな。しかしボクは魔王軍の頂点、四天王のリーダー、不可能なことはない!」


 まさに今、バシュバーザは四天王の権力をもってミスリル鉱山に命令を発し、通常の四倍のミスリルを納めるよう迫っていた。


 それが届けば、いよいよ超爆弾の完成。


 最初は特に肝いりのプロジェクトではなかった。


 問題となるミスリル鉱山は、かつてダリエルが担当官となって、良質なミスリル鋼を安定して供給した要所でもあった。


 あのダリエルの功績が残る場所。

 そう思えると、わけもなく虐めてやりたくなるバシュバーザだった。


 大量のミスリルを消費する口実作りのために、費用対効果の悪さからお蔵入りにされたミスリル凝縮爆弾を無理やり復活させた。

 しかし完成が近くなると、それを使って巻き起こる惨劇に胸躍り、作製に熱が入った。


 この爆弾で勇者を吹き飛ばした時、自分は歴代四天王の中でも最高の評価を得るだろう。

 バシュバーザの功名心が疼く。


「この爆弾作るのに、一体どれだけのミスリルを投入したの?」

「我が魔王軍の備蓄分すべてだな。それでも足りないので、急ピッチで掘り出させているところだ」


 新たに鉱山から掘り出されたミスリルが届けば爆弾は完成し、勇者の滞在する街に撃ち込む予定だった。


 鉱山では、無茶苦茶な要求に大混乱が起きていることだろう。

 しかしバシュバーザにとって、下々の苦悶などどうでもいいことだった。

 鉱山で働くノッカーが苦しもうと、血を吐き死のうと。

 下等種族は、バシュバーザのような高等種のために死ねるなら喜んで死ぬべきだ。


 本気でそう考えていた。


「それでゼビアンテス。お前は何しにボクのところへ来た? 急用だとか言っていたではないか?」

「ああ、そうだった。忘れていたのだわ」


 風の四天王は、今思い出したとばかりに報告してきた。


「ミスリル鉱山が離反したのだわ」

「は?」

「なんか、鉱山で働くノッカーたちが反乱を起こしたんだって。それで担当官を追い出してしまったそうだわ」


 ゼビアンテスは何の気なしに言うが、報告を受けるバシュバーザは事の重大さをだんだんと実感する。

 血の気が引く。


 鉱山が離反したと言うことは、そこで掘り出される鉱物も送られない。

 産出されるのはミスリル、つまりバシュバーザが今まさに製造している凝縮爆弾の材料がなくなるということだった。


「何をバカな! 魔法爆弾は今まさに製造途上なのだぞ! ミスリルを少しずつ加えながら圧縮工程しているというのに、それが途中で止まったら……!?」

「止まったらどうなるの?」

「圧縮工程は中断できない。止まったら圧縮中のミスリルは元の特性すら失って、ただの金属クズに……!?」

「今魔王城にある分じゃ足りないの?」

「凝縮爆弾をつくるには最低限の必要量があるんだ! それに達しないと魔力を無限吸収する、爆弾化に絶対必要な特性が得られないんだ!!」


 つまりミスリル鉱山から新たにミスリルが届けられなければ、魔法爆弾は完成しないどころか、これまで使用してきた貯蔵ミスリルもすべて無駄になる。

 最悪の結果になってしまう。


「くそッ!! なんで? なんで反乱などが起きる!? 鉱山で働いていたのは何者だ!?」

「ノッカーらしいのだわ」

「ノッカーごとき下等種が、このボクに逆らうなど!! 愚かしいにもほどがある! 今すぐボクみずから乗り込んで皆殺しにしてやる!!」

「でも続報があるのだわ」


 ゼビアンテスは、最初からずっと他人事のような口調だった。


「ノッカーどもが離反してすぐ人間の冒険者が鉱山に入ってね。完璧に占領しちゃったらしいのだわ。これを落とすには相当な戦力が必要だって」

「なにぃ~~ッ!?」


 凶報に凶報が続いた。

 それでは鉱山奪還には時間がかかり、魔法爆弾の製造は間違いなく頓挫してしまう。


「バカなぁ……! ボクの計画が、完璧なシナリオが、こんなつまらないことでぶち壊しに……!? ノッカーごとき下等種にぃ……!?」

「お怒りのところ申し訳ないけど……」


 ゼビアンテス、追い打ちをかけるように言う。


「ことはアンタのオモチャ作りが頓挫するだけで済みそうにないのだわ。ミスリル鉱山はわたくしたち魔王軍にとっても重要施設。それを失ったとなっては大失態だわ」


 しかも事態はより深刻。

 バシュバーザが魔法爆弾作りのためにミスリルの貯蓄を使い果たしてしまったのだから。


 本来なら貯蔵分が尽きるまで実質的な影響は出ないだろうし、対処する余裕もあるだろうが。

 バシュバーザの気まぐれによってそうした余裕が吹き飛んでしまったのだ。


「これでは新しい魔導具が一切作れないのだわ。わたくしも、勇者との戦いで壊れてしまった魔導具の代わりが欲しいのに……」

「煩い!!」


 苦言する同僚を一喝し、バシュバーザは爪を噛む。


 そもそも反乱が起ったのは、彼の無茶苦茶な要求でノッカーたちを圧迫したから。

 そこを指摘されればバシュバーザはさらに窮地に追い込まれるというのに彼は少しも考慮していなかった。


 自分が悪いという意識を少しも持ち合わせなかったからだ。


 彼は四天王であり、魔王軍の最高権力者であり、彼の下した決定には誰もが従わねばならない。

 だから自分の言うことは正しいのだ。

 逆らう方が悪で愚か。責められるべきは常に自分以外の誰かなのだと当たり前のように信じていた。


 だから今回の事件も、罪あるのは離反したノッカーたちであり、自分には少しの落ち度もないと疑いすら持たないバシュバーザだった。


 しかし。

 現実が常に彼の認識に寄り添うとは限らない。


「ねえねえバシュバーザ」

「なんだ!? まだ何かあるのか!? ボクは今誰とも話したくない気分なんだ!」

「そういうわけにもいかないのだわ。もう一つ伝えるべきことがあって、アナタと話したい御方がいるのだわ」

「話す!? このボクにアポなしで会見を求めるなどどこの身の程知らずだ!?」


 現在バシュバーザの機嫌は最悪。

 このタイミングで下手に刺激する者がいたら八つ当たりを受け、魔王軍における居場所を失う恐れすらあった。


 しかし実際そうなることはないだろう。


「なら当人に会って直接文句を言ったらいいのだわ」

「いいだろ! すべての称号を剥奪して魔王軍から叩き出してやる! 誰だ、そのバカ者は!?」

「魔王様だわ」


 言われた途端、バシュバーザの表情が凍った。


「魔王様が直々にアナタをお呼びなのだわ。ミスリル鉱山が離反したこと。ミスリルの在庫使い切っちゃったこと。全部お耳に入っているらしいわよ?」


 魔王軍の頂点に立つ四天王でも、真実万能の権力の持ち主ではない。


 彼らから見ても同等、もしくはより高い地位にある者はいる。


 魔王はその一人。


 すべての魔族を支配し、魔王軍すら彼の掌握する一機関に過ぎない。


 四天王バシュバーザといえど、魔王に対しては地べたを這って阿らねばならなかった。

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