166 ダリエルたち、二次試験会場へ向かう
そうして一次試験で選別しきれなかった二十余名の強者たちを、改めて二次試験で精査することになった。
彼らは引き続きセンターギルドで試練を受けることになる。
「選び抜かれた強者たちよ。しかしお前たちはまだ困難の途上だ」
試験開始の前にアランツィルさんが訓辞を述べるようだ。
「二次試験の厳しさは一次試験の比ではない。油断すれば大ケガを、場合によっては命を落とすこともある。しかし手心は加えん。それだけA級の称号は重いのだと心得よ」
厳しい口調で、その称号をまだ得ていない若者たちに告げる。
嫌でも緊張して身が引き締まる流れであった。
「ではこれより試験会場へ移動する。気を緩めることなく、既に戦場にいるつもりで続くように」
アランツィルさんが先頭に立ち、二次試験に臨む二十名を引率していく。
一体どこへ向かおうとしているのだろう?
ここは既にセンターギルドから遠く離れた鬱蒼とした森の中。
こんなところで行わなきゃならないのか二次試験は?
「というか俺たちまで同行する必要がある?」
列の最後尾の位置で俺は言う。
そこを受け持つようアランツィルさんに言われたからだ。
最先頭を先代勇者。最後尾を俺。
まるでそれこそ敵地内を進む戦列のような布陣ではないか。
「警戒もやむなきことです」
そういうのは並んで進むゼスターだった。
本当に凄い警戒っぷりだな。最後尾に最高戦力を二つつけるとは?
「この森はセンターギルドによって禁足区域に指定されています。ベテラン冒険者の間では『おろしの森』などと呼ばれて忌まれています」
おろし?
「この森にはいつ頃からか強力なモンスターが巣食うようになり、幾度か討伐クエストが組まれましたがことごとく失敗し、討伐不能モンスターに設定されました。ただ強いながらも執拗に追ってこなかったりして生還率は高いため、冒険者の腕試しとして使われるようになったのです」
「なんだそりゃ?」
そんなモンスターが人間側にいたとは。
「つまり二次試験って、受験者たちをそのモンスターと戦わせようと?」
「さすがダリエル様、察しが鋭い」
褒められてもあんまり嬉しくない展開なんだが……!?
マジか。
この受験者の子たち、これからモンスターと戦わされるのか!?
いくらなんでも実戦的すぎない!?
「一次試験で最強格の冒険者との対戦を済ませていますからな。これ以上資質を見極めるには実戦しかないと……」
人間族の最強と戦っても所詮模擬戦。生きるか死ぬかの実戦でなければ垣間見れない真価もある。
それゆえ特殊なモンスターと戦わせると……!?
「アランツィルさん、まーた無茶言って……!」
「いえ、これは昇格試験の恒例行事なのです! 例年二次試験は『おろしの森』のヤマオロシノカミに挑むことになっていまして、決してアランツィル様の思い付きとかでは……!」
ヤマオロシノカミ?
それがこの森に住むというモンスターの名前か?
「しかしなあ……、俺、ここ最近アランツィルさんと一緒に過ごしてきて認識が変わってきたんだけど……!」
アランツィルさん、意外と超適当な性格。
現役勇者として敵味方に分かれていた時はさほど感じなかったが、一個人としてはなかなかに頼りない。
コミュニケーションも苦手だし、自分の知っている範囲以外は本当に何も知らないし、加減を知らなくて冷や冷やさせる。
「あの人自身、そうした自分を見せまいと必死なところがなあ……? 何というか最強勇者の見てはいけない部分を見てしまったというか……!?」
「それがよいのかもしれません」
ゼスターが言った。
「それがしを含め、多くの者たちがアランツィル様を神聖視しすぎているように思います。魔族と激戦を繰り広げし英雄。歴史に残る最強者。あの方の強さに心酔するあまり、あの方を人間とは別物のように見てしまっている」
「あー、わかる。俺に突っかかってくる人とか大体ね」
「そうかもしれません。アランツィル様に息子がいる。あの方も一人の人間として恋もすれば親にもなるということが許せないのかもしれません」
「それで俺のこと目の敵にしてくるのかー?」
ゼスターは、ここ最近アランツィルさんのしごきを受けてきた。
それは裏を返せばこれまでになくアランツィルさんと行動を共にできたということ。
伝説の登場人物ではない、生のアランツィルさん接することができたということだ。
「この数十日で実感しました。アランツィル様もまた人間なのだと。泣きもすれば笑いもする強さも弱さもある人間なのだと。……いえ、もしかしたらあの方は、アナタと再会したことで人間である自分を取り戻せたのかもしれません」
「…………」
「このようなことそれがしから頼まれるのも筋違いと存じますが……。お願いいたします。あの方の取り戻した人としての時間を大切にしてやっていただきたい」
「…………」
俺は無言しか返せなかった。
最強勇者はかつて奪われた。家族と、家族と共に過ごすはずだった豊かなる時間を。
だからこそ彼は戦鬼となって、無限に溢れ出る憎しみを魔族にぶつけるしかなかった。
そして生まれた最強伝説……。
「しかし俺ももう三十過ぎてさー。今さら父との絆をどうこういうのは恥ずかしくてねー」
「それは……」
「だからできる範囲でやってくよ。孫という最終兵器もいることだし……」
こういう時グランの存在が光るものだ。
どんな男だろうと孫の前ではメロメロになることを許される。
「まあ俺としては、修復しなきゃならない絆が他にもあるんだけど……」
嫁の方のな。
「ダリエル様!」
ぼんやり進んでいると。
前を進む列から声を掛けられた。
例の三兄弟だった。
「このたびは! 我々のことをお引き立てくださりありがとうございます!!」
「また派手に態度が変わったねえ……!?」
当初は俺のことを目の敵にする勢いであったが、何がきっかけでこんなに馴れ馴れしくなった?
「当然です! オレたちは間違っていました! ダリエル様はまさにアランツィル様の御子息に相応しい実力の持ち主です!」
「強いし! 知略もあるし! そして『凄皇裂空』まで使えるというのだからまさに第二のアランツィル様!」
「失礼ぶっこきまくったオレたちを落とすこともなく二次試験まで通してくださった心の広さに感服するしかありません!! どうかこれからもご指導ください!!」
注がれる憧れの視線が痛い。
何故アランツィルさん関連で突っかかってくる輩は叩きのめすと手の平返すパターンなんだろう?
その元祖であるゼスターに視線を送ると、目を逸らされた。
「我々はダリエル様を尊敬します。是非ともこれからの冒険者ギルドを引っ張っていく旗手に!」
「もはやダリエル様が勇者になってもいいのでは!?」
「ダリエル様ならきっと魔王を倒せます!」
三兄弟だけじゃない、他の受験者たちも俺へ送る視線がなんか様変わりしている。
純粋な憧れの視線!?
「……一次試験で存分にやらかしましたからなあ」
ゼスターに視線を逸らされながら言われた。
俺そんなにやりすぎたっけ?
一次試験ではまったく本気じゃなかったよ、結局最後までヘルメス刀を出すこともなかったし。
「凄いことは全然しなかったじゃないか」
「「「あれでッ!?」」」
受験生たちの盛り上がりがあまりに度が過ぎてしまったため、業を煮やしたアランツィルさんにゲンコツされて隊列が組み直された。
「既に戦地にいるつもりでと言ったはずだ。全員不合格にされたいか?」
「「「すみませんでした……」」」
久々に大勇者の威厳を見せたアランツィルさんに皆委縮し、キチッと隊列を作って進むと……。
「やっと会話できるようになったわね~」
「うわマリーカッ!?」
背後にマリーカがいた!?
付いてきたの!? グランまで一緒に!?
「だってせっかくの旅行なんですもの。片時でもアナタと離れるのは嫌だわ」
そりゃ俺も嫌ですけど……。
でもこれから向かうところは危険ですよ。
「安全なところに下がっているから大丈夫よ」
「そういうことならいいか……」
いいのか?
「でもせっかく一緒にくるならお兄さんたちに挨拶しないの? 結局まだ存在すら明らかにしていないんでしょう?」
そのことも俺気になってるんだが。
兄さんだけでなく弟妹さんまでいるというのに……。
「気にしなくていいわ! 村を捨てて出てった連中なんて、何処で死んでもドンと来いだから!」
「だからなんでキミらは、そんな肉親に未練がないの!?」
『キミら』=マリーカとお義母さんのこと。
嫁の恐ろしい一面を知った気がしつつ、俺たちは試験会場へと進んでいく。
試験科目となる討伐不能モンスター。
ヤマオロシノカミとやらの下まで。






