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165 合格者、案外たくさん出る

 試験を行ったのは、当然のことながら合格者を決めるためである。

 だから決めようじゃないか。


 俺たちはそのために丸一日不毛な戦いに明け暮れていたのだから。ここで何も決めなかったら本当に不毛の極みになってしまう。


「まずゼスター。お前だけとしか戦わなかった受験者は全員不合格な」

「御意」


 アランツィルさんも見てるところはちゃんと見ていた。


 受験者の中には無難な合格狙いでゼスターとしか戦わないヤツが一定数いた。


 何故ゼスターに狙いを絞ったか?

 ゼスターのことを一番弱いと目したからだ。


 強い者たちに挑みかかって醜態を演じるよりは、無理なく凌いでいい印象を残しておこうという魂胆だろう。


「そんな卑屈な考えの者にA級の称号は相応しくない。よって不合格」

「「さんせーい」」


 俺とゼスターの合意の下、アランツィルさんは対象となった受験者の書類を火の中にくべた。


 書類には各受験者の経歴や特色が記してあったが、炎の中で黒く焦げ散り二度と読めなくなった。


「これで十人ぐらい一気に減った」

「残りもさっさと精査してしまおう。私も早く作業を終えてグランと遊びたい」


 だからもうグランはこの時間寝ちゃってるっつーの。

 明日まで待て。


「ではもう率直に合格者から決めていきますか? ……ダリエル様、誰か『これは』という者はおりましたか?」

「う~む」


 ゼスターに促されて、今日の一連の戦いを思い出す。

 その中で飛び抜けて印象に残る戦いぶりを見せたのは……。


「……ウチのガシタかな?」

「ちょっと待って」


 アランツィルさん、残りの書類を律儀に見返してから言う。


「ガシタって誰だ? 受験者の中にそんな名前のヤツはいないぞ?」

「いませんからね」


 我がラクス村の冒険者ガシタは、今こそ俺の留守を守ってラクス村に残っている。

 よって試験に参加しているわけがない。


「いやいやいや……! 言っただろう? 試験の合格者を決めるの! なんで受験してないヤツの名を挙げるのだ!」

「だってさあ……!」


 聞いて。

 俺とて何の意味もなく試験に関係ないヤツを話題に出しているわけじゃない。


 今日一日多くの冒険者たちを対戦した。

 皆すべて、A級という最上位に挑戦する資格を持った手錬たちだった。


 だが、ソイツら全員と武器を合わせて思ったこと。


「……ガシタより強いヤツが一人もいなかった」


 どういうことよ?

 たしかにガシタは、俺が直接鍛え上げたラクス村最強の冒険者だけど。

 何処に出しても恥ずかしくない程度に鍛え上げたつもりだったが、だからこそ比較できる。


 日頃の訓練でガシタが俺に与えてくる脅威。それ以上を感じさせる対戦者に今日一度も出会うことがなかったのだ。


「多対一での対戦ですらだよ。意外だけど実感したよ。ガシタは俺が認識しているより遥かに強かった!」


 世間一般的に!


「アルタミルを相手に純粋な弓矢勝負で競り勝った青年ですな? 『弓』の勇者と選ばれたアルタミルを凌駕したなら、たしかにA級の資格はあるでしょう!」


 ゼスターも賛同する。


「いや待つのだ。だからどんなに強くても受験者じゃないだろう? 大体そんなに有望な若者ならなんで昇格試験に寄越さんのだ!?」


 ガシタ自身が断るんだよなー。

『自分の等級なんかより村を守る方が大事ッス!』って言って。

 A級昇格試験を受けるためにはセンターギルドまで行かないといけないし、今回は同じタイミングで俺までセンターギルドに出かけたから……。


『アニキの留守中村を守るのがオレの役目ッス!』


 と言ってテコでも動かなかった。

 村を捨てて出ていった三兄弟と出会って実感したが、それと比べて元から郷土愛に溢れた人物だったんじゃないかガシタは!?


「わかったわかった……! ではそのガシタとかいうヤツ、A級合格!」


 本人の知らないところで最上等級への昇格が決まった。

 アランツィルさんもけっこう適当に決める人だ。


「じゃあ他の合格者を決めるぞ? くれぐれも言っておくが今日試験を受けた者の中からだからな!」

「はーい」


 そしていよいよ真面目な選別が行われた。

 実際に戦ってみて実見した能力、技術、気迫、知恵、判断力、高潔さなどを総合して、A級となるに相応しい基準を越えた者たちをピックアップした結果……。



「問題が発生した」


 アランツィルさんが言う。


「合格者が多すぎる」


 話し合いした結果『コイツは合格だろう』と太鼓判を押した者が予想より遥かに多めになってしまった。


 約二十人。

 合格枠が三~五人程度とあらかじめ言われていたのだからまだ全然絞り込めてない。


「二人ともまだまだ全然厳しさが足りんな」


 何故か俺とゼスターがアランツィルさんから怒られた。


「少しも絞り切れておらん。判断が甘い証拠だ。もっと厳しく非情に徹しなければ試験官たる資格はないぞ?」

「えええ~? そうは言いますが……ッ!?」


 ここまで絞り込んだ二十人。ガチで一人残らずA級の資格あると思いますよ。

 オーラの強さも身のこなしも、ピンチの判断もなかなか手練れたものだった。


「それがしも同意見です。多すぎるからと言って条件を満たした人員を除いてしまうのは本末転倒。彼らのためにもギルド全体のためにもよくありません」


 ゼスターも抗弁する。

 アランツィルさんに心酔するあまり何でも肯定するイエスマンになるかと思いきや、案外自分の意見をしっかり述べる。


「二人ともまだまだ若僧だな……。どれ私が、相応しい者と相応しくない者を選り分けよう……」


 と言ってアランツィルさん、いまだ残る書類二十枚ほどを見回していく。


「………………………………」


 そして一向に動きがない。


「やっぱりアンタも決めかねるんじゃないかッ!」

「いや違う! 違うのだ! コイツらの特色があまりに似たり寄ったりで選別しにくいのだ! ……まったく近ごろの若い者は本当に無個性になった!」


 年寄り臭い言いわけするなッ!?


 とにかくこのままでは下せる決断は二つしかない。


 今なお候補に残り続ける二十余名。

 全員合格か、もしくは全員不合格だ。


「全員合格させることはできんから、やっぱ全員不合格な」

「待ってッ!!」

「やめてください! それはあまりに無慈悲すぎます! どうかどうか!?」


 俺とゼスターが取りすがって制止するも、やっぱり二十人全員合格はダメらしい。

 なんで?

 いいじゃん別に!?

 とは思うのだがあまりみだりに合格者を出してもA級の権威が損なわれるってことなのだろう。


「……仕方がない。こうなればもう一つの手段を採るしかなさそうだな」

「えッ? 他にまだ何かあるんですか?」


 手段が?


「二次試験を行う!」

「「二次試験!?」」


 そんなのがあったんですか!?


「一次試験で絞り込めなかった場合に追加される項目だ。試験官の判断力に疑問を持たれるからなるべくやりたくなかったのだがな……」

「ですがそれほど珍しいことではありません。やはり、全ギルド支部から選りすぐられた精鋭冒険者を一度の試験で判別し尽くすことは無理なのでしょう」


 ゼスターからの補足説明によると、二次試験が行われる割合は三回のうち二回程度なんだそうだ。

 ほぼ例年やってるじゃねえか。


「じゃあ別に揉めたりせずに即、二次試験に向かえばいいじゃないですか? 無駄な時間使った……!?」

「いや、違うのだ! お前やグランにいいところを見せたくて一回でビシッと決めたかったわけじゃなくてな!」


 そんな下心を持ってたのか?

 ダメですよ。受験しに来てる冒険者たちは将来がかかってるんですから……!


 そんなわけで今年も開催が決まりました。


 二次試験。


 もしかして俺も付き合わなきゃいけないの?

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