164 試験、終了する
「試験だから参考までに教えてやる。キミたちに対して俺が使った技。『凄皇裂空』除くすべてが余技だ」
まだ『凄皇裂空』が間近で通り過ぎたショックに立ち上がれない三人に、せっかくなので講釈する。
「曲芸の域を出ていないということだ。まず妹ちゃんに使った、自分の体にガード(守)オーラを流す技だが、あれはごく薄いガード(守)オーラしか流せない」
やはり繊細な人体。
あまり濃く強い意味化オーラを流し込むと耐えられなくなって負担がかかる。
そんなことをみだりに繰り返していたら、五十歳を迎える前に足腰ガタつく寝たきりじいさんになってしまうだろう。
「だか人体の負担を防ぐためにも、ごくごく薄いガード(守)オーラしか流せない。切迫する攻撃オーラ相手には盾代わりにもならないほどのな」
たとえばあのインフェルノ。
ヤツの赤凶刃の前でなら何の意味もない。
薄いガード(守)オーラごと体を、紙のように引き裂かれるのがオチであろう。
「なのに妹ちゃんの双剣は俺の体を引き裂けなかった。何故だ?」
「え? あの……!?」
「俺とキミのオーラ絶対量が違い過ぎるからだ。キミの全力でも、俺の抑えに抑えた手抜きパワーに押し勝つことができなかった」
隔絶するほどの力量差がなければ成立しない戦法だった。
長男に対して使った、空気にオーラを流し込む戦法もそうだ。
前にも言ったが結局、本家本元の風魔法の方が空気を操る威力も、複雑さも圧倒的に勝る。
魔族の魔導士だけでなく、ソイツらと戦い慣れたベテラン冒険者の虚を突くこともできないだろう。
ましてインフェルノのように速く手早く的確な相手なら、逆に奇手の隙をついて致命傷を狙われかねない。
やはり本気の戦いには使えない余技に過ぎなかった。
「そして最後、弟くんに使った武具破壊だが……」
「はいぃ……ッ?」
「あれも圧倒的な実力差があったから使えた技だ」
もしオーラの量質が伯仲した相手なら……。
そもそも相手の武器にオーラを流しこもうとしても、相手のオーラに拒絶されて混ざり合うことすらできない。
相手のオーラが自分より弱い場合に限り、ベッドに押し倒すように無理やり融合して反発力を生み出せるのだ。
もし相手がインフェルノなら……。
……これはもういいや。
「わかるな? つまり宴会でのかくし芸程度にしかならない技でキミたちは圧倒された。何故だ?」
「オレたちが弱すぎるから……」
「正解だ。ギリギリで生き残ることができたな」
自分の弱さを認められるものは長生きできる。
無謀な進攻は、弱さを自覚できないことで強行されるのだから。
「これで試験終了だ。下がって休みなさい」
「くそ……ッ!? オレたちは不合格なのか…ッ!?」
長男くんが床に拳を打ちつけた。
今は純粋に、A級冒険者への道が断たれたことを悔しがる。
「それはどうかな?」
「えッ?」
少なくとも彼らが見せたコンビネーション。
それは本当に見事だった。
あれがA級に相応しいものかどうか見極めるためにも、より多くのサンプルが必要だな。
「さあどうした? 昇格試験はまだ続いているんだろう?」
周囲で、これまでの戦いを見届けていたギャラリーがたじろぐ。
しかし彼らは真の意味でギャラリーではない。
彼らも戦いに参加する受験者なのだ。
観戦しているのは順番待ちであるからに他ならない。
「A級になりたかったらかかってくるがいい。三人の中で唯一A級冒険者じゃない試験官だぞ? 一番簡単なコースだ。早い者勝ちだ、我先にと群がるべきじゃないか?」
「ウソだ! 一番弱いとかウソだ! 絶対罠だ!!」
受験者の人ゴミから鋭いツッコミが来た。
「ど……、どう思う……ッ!?」
「いやあれ絶対強いだろう!? ヘタしたらアランツィル様より…ッ!?」
「アランツィル様もお年を召されているから。たしかに若い息子の方が…ッ!?」
「やはり最強の息子も最強だった…ッ!?」
「子どもの方も『凄皇裂空』が使えるなんて聞いてねえよ…ッ!?」
「なんであの人が勇者じゃないんだ…ッ!?」
ざわめき合い尻込みしている。
躊躇いもいいが、グズグズしてたら終わらないぞ?
グランをお風呂に入れてあげる時間がなくなってしまう。
「じゃあ、こうしよう。さっきの戦いもそうだったが。俺は試験中武器を使わない」
基底状態に戻したヘルメス刀を懐に仕舞う。
「以降、俺にヘルメス刀を抜かせたら無条件で合格ということにしよう。さっきの三人相手のように演出でわざと抜いたりはしないぞ。気合いを入れてかかってきなさい」
それで受験者の目に火が付いた。
やっと試験が本格的に動き出した。
◆
試験の内容は、俺とアランツィルさんとゼスターがひたすら挑戦する受験者たちを叩きのめしていくというものだった。
ただ、この三人のうち誰に挑むかは受験者たちの方に選択権があったため、各試験官に集まる受験者たちに特色ができたように思える。
まずアランツィルさんの下には、純粋に憧れを持つ受験者が集まってくる模様。
既に伝説となった人だ。
打ち合えただけでも生涯の記念になるのだろう。
次に俺。
三兄弟を打倒してから、それなりに数が来るようになった。
挑んでくる者たちの傾向は、やたら瞳に活力があるヤツ。メラメラ炎を瞳に宿していたり、血走っていたり。
極端な上昇志向を持つ者が好んで俺のところへ来る模様。
何故?
「この人を倒してオレは強くなるううううーーーッ!!」
とか叫んでくる。
怖いのでワンパンで気絶させた。
最後にゼスター。
彼も一度は『鎚』の勇者を名乗り、かつA級冒険者。
間違いなくセンターギルド最強の一角であるはずなのだが……。
そこに挑んでくる者たちはなんだか動きが鈍い。
「とにかく合格してしまえばこっちのもの……!」
「そのためにも一番弱い試験官に……!」
とかブツブツ呟いていた。
ゼスターに対して弱いとか失敬な。
そんな心根のヤツに合格は上げられない。
俺のところに来た受験者ではないが、不合格を勧めておこう。
◆
そんなこんなで一日かけて行われたA級昇格試験。
一通りの受験者と戦ったが……。
「大変すぎない!?」
俺は忌憚ない意見を述べた。
今は俺、アランツィルさん、ゼスターの試験官三人が額を寄せ合い。誰を合格させるかの話し合いの最中。
しかしその前に……。
「大変すぎない!?」
俺は率直な主張を述べた。
今日一日ずっと戦い続けた。
休憩もなく、来る挑戦者来る挑戦者次々と。
途中から時間の感覚があやふやになってくるレベル。
「思ったよりたくさんの人と戦ったよ? 最初の説明では受験者七十何人を三人で分けるから一人二十人程度の受け持ちって言ったじゃん!?」
しかし今日戦った人数は多かった。
確実に二十人超えていた。そうでなきゃ一日戦い通しになるわけがない。
「おかげでグランが飽きて寝ちゃったよ! 今日息子と触れ合うことができなかった! どうしてくれる!?」
「代わりに若さと希望に満ちた新人冒険者たちと触れ合えたではないですか」
「あんな連中と可愛い息子を一緒にするな!?」
あんなむさい連中と比べたらウチのグランは天使だよ!
くれぐれも一緒にするな!
「まあ仕方ないではないか。しかし一人二十人とは、何処から出てきた数字だ?」
「え?」
アランツィルさんの指摘に俺、固まる。
「聞いていないのか? 受験者は何度でも試験官に挑戦可能なのだぞ」
「はあッ!?」
何それ初めて聞いた!?
「じゃあ、たとえば俺にぶっ飛ばされた受験者も、そのあとアランツィルさんやゼスターに挑めるってこと!?」
「体力が続き、心が折れない限りはな。そこはホラ試験だから」
そうだな。
単純に勝ったら合格負けたら不合格では、今年は全員不合格だ。
「やはり一人の試験官ではどうしても独断偏見が混じるから、二人ないし三人用意している。その全員が受験者と接すれば、公平な判断ができるだろう?」
「そうかもしれませんが……」
それで負けた受験者も次々再挑戦して戦いが終わらなかったと?
今日百回以上戦った気がしたのは錯覚じゃなかったのか!?
なんか『コイツもう倒さなかったっけ?』って顔のヤツが何回か現れたのも、戦い過ぎで意識が朦朧としたからじゃなかったのか!?
思えばあの三兄弟もあれから何度か戦った気がする!?
「先に言ってよ!?」
「もう知っているものばかり……!?」
アランツィルさんは煩わしいことを気にしない。
そういう質だということを忘れていた。
「アランツィル様とダリエル様に何度でも挑めるとは、今年の受験者は恵まれておりますなあ! 私も受験側に回りたいぐらいでした!」
そしてゼスターも他人事のように言う。
お前は毎日のようにアランツィルにしごかれてるから羨ましがられる立場だろう!?
「とりとめもない感想はそのぐらいにしておこう」
アランツィルさんが仕切る。
そうだ、俺たち三人は文句の言い合いのために集まったのではない。
これをしなければ今日俺たちが無駄に戦った意味がそれこそなくなってしまう。
「それではこれより、試験内容を鑑みて合格者を決めていく」






