163 ダリエル、公に強さを見せつける
「何言ってるのコイツ……!?」
妹が苛立ち混じりに剣をかまえる。
「お兄ぃ、もう順番なんていいわよ。一気に畳みかけちゃいましょう。土台武器も持ってない丸腰に丁寧にコンビネーションやる必要もないんだわ!」
「あッ、サリーカ待て……!?」
「アタシ一人で充分よ! この双剣で膾切りにしてあげるわ!」
突出する妹。
即座に俺との距離をゼロにして……。
「そんなに死にたきゃ望み通りにしてあげるッ!!」
左右から挟み込むようにして同時に双剣を繰り出してきた。
このままならば俺は、獣の上顎と下顎に挟み噛まれるがごとく両断されてしまうだろう。
「挑発に乗せられての突出。……減点対象だな」
無論、俺は右にも左にも逃げられない。
ではどうするかというと……。
逃げなかった。
むしろ真っ向から受け止めにいった。
「はいぃッ!? 何ですってッ!?」
オーラで強化された剣刃に対して、こっちは素手で。
正気の沙汰だと思われまい。受け止める手が斬り落とされるだろうと誰もが予想した。
しかしその予想は外れる。
双剣を受け止める右手も、左手も、しっかり刃を握って離さない。
「ひッ? うそッ!?」
その結果を一番間近で見て妹さんは恐慌した。
自分の必殺である双刃が素手に負けているのだから混乱するのも仕方がない。
「う~む……?」
「なッ、何よ?」
「間近で見るとやっぱり美人だな」
「!?」
ウチのカミさんに似ているだけあって。さすが姉妹。
それはともかく。
素手で剣を握り止めたタネはもちろんある。
自分自身の体にオーラを流し込んだ。しかも意味化されていない素のオーラではなく、立派に意味化されたガード(守)のオーラを。
自身の体に素のオーラを流し込んで身体能力を強化するのは、一定の実力を持った冒険者なら誰でもやっていることだ。
しかし斬突打守の意味化されたオーラは、繊細すぎる人体に流すのは危険すぎる。
コントロールが微妙になりすぎて下手をしたら体を壊してしまいかねないからだ。
しかし俺は、訓練でオーラ操作を習熟させ、ついにある程度なら意味化されたオーラを自分の体に宿すことに成功した。
その結果がこれ。
素手で武器を受け止められるのである。
「いいぞサリーカ! そのままヤツを抑えていろ!!」
すかさず長男が空を跳ぶ。
チャンスを見極める判断の速さはさすがだな。
「何を自慢したいのか知らんが動きを止めたのが運の尽きだ! 我が必殺の『急転落盤崩』を受けて砕け散れ!!」
妹に動きを止めさせて、兄がとどめ。
皮肉にもここまでの流れは、ヤツらの必勝パターンに沿っている。
「サリーカの双剣なんぞを握ったのは失敗だったな! 両手が塞がって防御すらできんぞ!」
「そうだな。……だから他の手を使わねば」
「は? ……ぐばああッ!?」
急転直下する長男が、ある瞬間を境に逆方向へ飛んだ。
真上へ。
俺は彼に一指も触れていない。
まるで彼自身が見えない力に押し飛ばされたかのように急上昇した。
そのまま弧を描いて、俺から離れた地面に墜落。
「ぐッ、ぼあッ!? なんだ今のは見えない壁に押し返されたような……!?」
「きゃああああああッ!? ごっぶッ!?」
「サリーカ!?」
ついでに俺を斬りつけていた妹ちゃんも押し飛ばされていた。
無論長男に当てたのと同じ力で。
「空気だ」
俺は解説してやった。
一応試験だしな。
「周囲の空気にオーラを流し込んで操作し、空気圧を生んだんだ。一人や二人余裕で吹き飛ばせる程度のな」
「そんなッ!? ……そんなオーラの使い方が存在するのか!?」
あるんだなこれが。
さてこれで彼らの攻撃は跳ね返したぞ。
つまりはこっちにターンが回ってきたということだ。
「攻めない理由はないし、征かせてもらおうか」
無手のまま突っこむ。
普通ならば正気を疑われる蛮行だが、既に彼らは俺の徒手空拳に充分な脅威を感じていることだろう。
「ひいッ!?」
「くっそリェーベケ!!」
兄に呼ばれ、それまでずっと様子を窺っていた次男が飛び入る。
「やっとオレの出番が来たぜ!!」
弟くんの使う武具は盾。
防御の一切を担う、チームプレイでは欠かせない要だ。
けっして侮れない。
俺の繰り出すパンチを、正面から盾で受け止める。
素手対盾。
尋常に見れば、どちらが勝つかなどわかりきっている。
「まさか素手パンチ相手にオレの盾を使うことになるとはね。でもだからこそ絶対オレの盾は破れないよ?」
「そうかな」
「はぁ? うわあああああああッ!?」
これまでの芸は、前のリーリナ戦で見せたものだ。
だから今度は少し違うこともしよう。
弟くんの盾が、瞬時にしてちぎれてバラバラになった。
「うそ!? なんで!? 全力でしっかりガード(守)オーラを込めてたのに!?」
「だからだよ」
武器を失って立ちつくす弟くんに講義してやる。
「盾に流し込まれたのはキミのオーラだけじゃない。実は俺も流し込んだ」
「は?」
「俺のオーラを。一つの武具に二つのオーラが同時に流し込まれる。するとどうなると思う?」
単一物質内で二種のオーラがひしめき合い、場の奪い合いを始める。
そしていたるところで反発力が生まれる。
「キミの盾は、俺とキミのオーラが引き起こすひしめきに堪えられなくなって自壊したんだ。オーラ使いの、オーラ使いだけに対して可能な武器破壊法だな」
「ほへぇ……!? ぶげッ!?」
呆然と立ち尽くした弟くんに掌底を決めて吹っ飛ばす。
「驚いたとはいえ戦場でボンヤリしすぎだ」
吹っ飛ばされた弟くんは、ちょうど後方にいた長男と妹ちゃんのところまで転がり込む。
三兄弟が一ヶ所に固まった。
そこで俺は初めてヘルメス刀を抜いた。
「『凄皇裂空』」
放たれるオーラ斬刃が、……三人には命中しなかった。
彼らの上方を素通りして、屋内修錬場の壁に当たって粉々に打ち砕いた。
「ギャー!? 破片がーッ!?」
「大崩壊ーッ!? 誰か、誰か修復班をーッ!?」
周囲が煩く騒ぐが、それはまあいい。
「わざと外したこと、わかるな?」
ちゃんと狙っていたら、盾も失い一ヶ所に固まった三兄弟。まとめて地上から消え去っていただろう。
「スタンビル、リェーベケ、サリーカ。キミたち三人は今死亡した。クエスト失敗だ」
父親譲りの『凄皇裂空』で完膚なきまでの勝利を見せつけた。






