162 ダリエル、袋叩きにあう
マリーカの兄弟。
まさか一人ではなく三人もいたとは。
彼らの言動と年格好から察するにマリーカの兄一人、マリーカの弟妹が一人ずつ。
マリーカは二番目当たりのポジションかな。
でもまあ、たしかに少し考えてみれば当然だ。
俺も婿入りしてよく知っている。マリーカの両親お義父さんお義母さんの仲よしっぷりを。
あんなラブラブ夫婦で拵えたのがマリーカ一人などということはたしかにありえぬ。
しかし総計四人も作製していたとは。
「……故郷を捨てて、こんなところで何をしてるんだい?」
俺はこれも聞かずにいられなかった。
彼らの存在すら知らなかったのは、彼らが本来いるはずの生まれ故郷から離れていたから。
何故そんなことになったのか?
「……お前にはわかるまい。何にもないクソ田舎に生まれた者の悲哀を」
なんか語り出したのは長男。
三人組の中では、飛び抜けて年齢が高い印象だ。
間に入るはずの長女がいないから、そういう印象になるのだろうが。
「何もない。店もなければ馬車もない。カッコいい冒険者が所属するためのギルドもない」
「そんな何もない田舎で一生過ごすなんて真っ平だったのよ! アタシたちの人生は、もっと輝くべきだわ!」
言い継いだのは妹。
まだ少女と言っていいほど幼い印象だが、冒険者として鍛えているのか活発的な印象だ。
そして血の繋がりのせいか、マリーカを一回り小さくしたような印象でもある。
「オレたちは何のために生まれてきたんだ!? 何をするために生まれてきたんだ!? 少なくとも、田舎で何もせず燻っていくためじゃない! 自分の生まれてきた意味を見つけるためにも今日まず、合格してA級冒険者になる!」
最後に弟。
兄よりさらに幼い印象。
ただ兄弟に共通して言えることは、やっぱり体の各所のパーツにどこかしらお義父さんを思い起こさせる共通点があることだった。
「そのついでに紛い物! お前の化けの皮を剥いでやる! そのついでにオレたち三兄弟の名が広まれば儲けものだぜ!」
と好戦的に迫ってくる三人。
別に俺も試験官という立場上、挑まれれば応えるのみだが。
「でもこれ、いいの?」
三対一。
こんな不均等な戦いが試験で認められているのか否か?
「もちろんいいとも」
隣のブースで戦いながらアランツィルさんが答えた。
「冒険者としての適性を調べるための試験だからな。ただ強ければ冒険者というわけではない。それはお前もわかっているだろう?」
「それは、まあ……」
「冒険者はパーティを組むもの、その連携や指揮力もA級冒険者として欠いてはならないものだ。それを見るためにも受験者たちは群れてもらわなければ……」
そう語るアランツィルさん当人も、説明しつつ受験者四人のパーティに囲まれつつ、語り終る前に殲滅していた。
さすがの最強勇者。
そして語ることには理がある。
自分一人だけが強くて他を顧みない強者は人々の助けになるどころか、却って迷惑になるだけだ。
「わかりました」
俺は三兄弟へ向き直る。
「三人一緒にかかってくるといい。お前たちの資質がA級に相応しいものかどうかたしかめてやる」
「偉そうな口を利く。だがお前は試す者じゃない、狩られる者だ」
長男……、スタンビルという名だったか。
得意武器らしい柄の長いハンマーをかまえる。
……そういえば。
元冒険者だったお義父さんも得意武器はハンマーだったな。柄を長めにして遠心力を得ることで威力を高める戦法をとっていた。
離れて暮らそうとも親子どっか似るものなのか。
俺とアランツィルさんのように。
「お前はモンスターさながらオレたちに狩り立てられ、オレたちの強さをギルド理事の面々に示すのだ。お前はそれだけの存在だ!」
「アタシたちのアピールする相手はあくまでアンタじゃないってこと」
「さあ、とっとと勝負を始めようぜ! お前も武器を出しなよ!」
妹弟も挑むように武器を突きつけるが、まだ襲ってくることまではしなかった。
それには理由があった。
俺が武器を持っていないからだった。
いかにこれが試験で、嫌う相手であっても丸腰では襲えない。
冒険者としての最低限の矜持は持っているようだ。
「このままでいい」
「なに?」
無論懐には基底状態のヘルメス刀を忍ばせている俺であったが取り出すことはない。
「キミたち相手に武器を使うまでもないということだ。これは試験だ、素手で充分だ。俺は手加減してやるからキミたちは殺すつもりでかかってきなさい」
その宣言に周囲はドヨドヨとどよめく。
冒険者対冒険者の戦いで武器を使わないなど前代未聞であるのだろう。
皆が俺の正気を疑った。
「舐めやがって……! 兄ちゃん! やっぱりあんなのがアランツィル様の子どもだなんてデタラメだよ!!」
「その通りだリェーベケ。アイツの化けの皮をオレたちで剥がすぞ。その時こそオレたちは兄弟揃ってA級冒険者だ!」
前口上は終わりとばかりに三兄弟は駆け出した。
俺へ向けて。
最終的な目標は俺だろうが、それぞれ三方に分れて俺を取り囲むような軌道を見せる。
なかなか冒険者らしい動きだった。
「旦那様ー、そのアホ兄弟たちをボコボコにしてやってー」
客席から妻が息子と共に応援してくる。
何か他人事だな!?
「いくぞ! いつも通りの順番だ!」
「つまりアタシからね!!」
三兄弟のうち最初に俺に向かってきたのは妹だった。
右手左手にそれぞれ手に持つ刃。
二振りの剣を持っている。
「そういや双剣使いとか言ってたな」
斬りつけてくる刃を、軌道を読んで避ける。
外れればまた斬りつけてくる。これが両手で二本なので目まぐるしい。
ラッシュの速さが、一振りの刃の比ではない。
当然か、二本あるのだから二倍の手数だ。
「アタシの連撃をここまでよけ続けるなんて、さすがね!」
マリーカの妹が言う。
たしかに姉妹だけあって声音までよく似ている。
二振りの剣は、ナイフと言っていいぐらいの短さで、まともに斬りつけても絶命どころか敵の行動を制限する傷すら負わせられなさそうだった。
大きさも重さも足りないのだ。
ただしオーラ特性としてのスラッシュ(斬)を使う場合それは実に適切な運営法だった。
本来斬ることに重さは必要ない。
あくまで刃の鋭さと、刃を適切な角度で入れること。
それらが未熟な際に重さで無理やり切断しようとする。『断つ』という攻撃法はオーラ戦法においてスラッシュ(斬)とヒット(打)が複合された攻撃法だった。
純粋なスラッシュ(斬)オーラで斬れ味を強化すれば、重さに頼る必要が益々なくなる。
小さく軽い刃でも、岩だろうが鋼だろうと楽々斬り裂ける。
そして小さく軽いなら両手で持つ必要もない。片手で持てばいい。片方の手が空けばもう一振り刃も持てる。
彼女の戦闘スタイルはスラッシュ(斬)オーラを究める者として実に論理的だった。
双剣に込められたオーラの質も量も申し分ない。
手数も多ければモンスターの群れに突入しても問題なかろう。
たしかにこれは冒険者の最上階級に挑戦していい腕だ。
「遅いぞサリーカ!」
上空から声。
長男スタンビルが跳躍して天に舞い上がっているではないか。
そして重力に引かれて落下する、その勢いのままに……!
「『急転落盤崩』!!」
振り下ろされるハンマーが、試験場の床を粉砕した。
ハンマーの接した点から亀裂が全方位に向かって伸び、広範囲に伸び、その亀裂が結び合った部分から無数の破片がポップコーンのように飛びあがる。
まあ床が崩壊したのは、俺が寸前に飛びのいて回避したからだが。
「クソ外したッ!」
「バカ兄ぃ早すぎるのよ! もう少しアタシが引きつけてバテさせてからよ!」
見えた、彼らの連携が。
スラッシュ(斬)オーラで極度に斬れるようになった双剣を振り回し、攪乱する妹。
そうして敵の注意を引き、長男が死角となる頭上から必殺の鎚撃を振り下ろす。
それが彼らの必勝パターンなのだ。
「いいなぁ~、兄貴もサリーカも活躍できて。敵がアホで武器持たないからオレの出番がまったくないじゃん。このままじゃオレだけ不合格だよ?」
盾を持った次男が言う。わざとらしいあくび混じりに。
彼の役目は敵が反撃してきた場合の防御役だろう。
攪乱の妹、防御の弟で確実に敵の足を止めて、長男のハンマーでとどめを刺す。
率直に完成された連携だと思う。
このパターンなら大抵の相手は身動き取れないまま粉砕されるだろう。
「……大抵の相手なら、な」
彼らの特性は見定めた。
試験だからな。俺は優しいから、アランツィルさんのように即蹴散らしたりはしないのだ。
「それでは試験の第二段階だ。自慢の連携が通じない相手と当たった時、一体どうする?」






