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161 マリーカの兄弟、たくさんいた

 試験はどんなことをするのだろう?

 どんな風にして受験者たちの実力を計るのだろうか? A級に相応しいラインを引くのだろうか?


 答え至極単純だった。


「実戦形式だ」


 アランツィルさんが得意の杖棒を持って言う。


「我々が直接受験者と戦って、実力を検分する。それが何よりハッキリと闘者の実力も何もかも把握する方法とお前ならわかるだろう?」

「はい……」


 何でも効率的ならばいいというわけでもなくてですね……!

 段階を踏む大切さと言いますか……!


「基礎体力とか、そういうのの試験は……!?」

「そんなものB級に上がるまでの過程で試されているだろう? A級昇格試験の受験資格はB級冒険者であることだ。彼らはここに到達するために幾重もの試験を受けている」


 まさしくその通りですね。

 D級の俺は知りませんでした……!


「だからこそできる限り簡略化していかねばな。今回の受験者は、たしか七十四人。その全員を私たち三人だけで捌いていかねばならん」

「なんでそんなに少人数なんですか!?」


 試験官が。

 もっとたくさんいてもいいでしょうに!?

 直接対戦方式で試験するならなおさらッ!? 俺とアランツィルさんとゼスターだけで回る!?


「試験官によって不公平があってはいかんからな。私が試験官として働く以上、それに近い実力で揃えられるのがお前とゼスターしかいなかったということだ」

「光栄です!」


 またゼスターが尊敬する人の言葉へ無闇に感動している。


「お前たちの出す不合格判定なら、私も無条件に納得できる。それ以外は二度手間だ。というわけでよろしく頼む」


 試験はマジで実戦形式。

 試験官が受験者たちと戦い、A級を名乗るに相応しいかどうかを判断するらしい。


 評価基準は試験官の感覚のみ。

 責任超重大。


 要項を聞くだけで緊張によってお腹痛くなってきた。


「……あの、ちなみに合格者は何人程度を予定して……!?」

「三人から五人だな」

「少ないッ!?」


 受験者七十何人中のたった三~五人とは!?

 超狭き門。


「これぞという者がいなければ合格者なしでもいいぞ。無理して合格させても、すぐ死んでソイツのためにならんからな」


 その上、合格者ゼロもあり!?

 厳しい!?

 さすが冒険者の最高峰を決める試験!?


「これは思ったより気を引き締めてかからないとダメなかも……!?」


 より具体的な試験の進め方だが。


 俺とアランツィルさんとゼスターが適度な間隔を開けて並び、受験者たちが自由に選んで挑戦するという方針のようだ。


 受験者七十四人だから三人で割っても一人の受け持ちが二十人超という計算。

 しんどいな。

 アランツィルさんは、あのご高齢でそこまでの人数を捌けるのか心配だ。体力的に。


「侮るな。お前ほどの使い手ならともかく、A級に受かるかどうかのヒヨッコが何十人来ようと体力を底尽かせるなどできないさ」


 考えを読むように断言してきた。

 まあ往年の最強勇者ならそうなるか。


 そして肝心の受験者たち。

 試験も開始されたので、我が運命よ拓けゴマとばかりに果敢と先達たちへ挑みかかる。

 そして一瞬で吹っ飛ばされる。


「うぎゃああああああッ!?」

「あごおおおおおおおッ!?」

「ずどおおおおおおおおおッ!?」


 アランツィルさんどころかゼスターまで容赦なかった。


 アランツィルさんは斬突打すべてのオーラ特性を駆使できる自慢の杖棒で。

 ゼスターは、かつて彼を『鎚』の勇者たらしめた必殺ハンマーで。


 若き挑戦者たちを千本ノックとばかりに吹き飛ばしていた。


「厳しい……!?」


 試験なんだから、挑戦者の特性とか実力とかを計るために、あえて受け身に回るとかしないのか?

 瞬殺でどうやって合格不合格を決めるの?


「俺はもうちょっとゆっくりやろう……!?」


 俺も試験官の立場である以上は、受験者たちもこぞって押し寄せてくるはずが、なんだか反応が弱い。


「おい、あれに向かって行っていいの……!?」

「ちゃんと判断してくれるの?」

「勢い余って倒しちゃったら合格……!?」


 警戒感が物凄い。


 やはりA級冒険者が務めるべき試験官に、A級冒険者でもない俺がいたら違和感バリバリだよなあ。

 どこの馬の骨かってヤツ。


 だから迂闊に突っこめず、様子を窺うに留まっている。


「おい、誰か行けよ……!?」

「嫌よ、あれに突っかかること自体で不合格になったらどうするのよ?」

「そういう引っかけ問題!?」

「ダメだ、オレやっぱりアランツィル様の方に行くぜ……!?」


 実に余所余所しい。

 もしや俺、ただボケッ突っ立ったままで試験終了? と思われたが……。


「テメエら合格する気がないのか? ならオレが先に行かせてもらうぜ!」


 と勇み出たのはお兄さん。

 マリーカのお兄さんらしきヤツだ。


「偽物でも紛い物でも、試験官として登場したならソイツを倒せば合格。そういうことでよろしいですね理事の方々」


 お兄さんが問いかけるのは、観覧席にいるセンターギルド理事会の皆様。


「よいとも」


 理事長以外の理事の面々も、俺の実力を直接見るまたとない機会なので『誰でもいいから突っこんでくれよ』という心境らしい。


「そういうわけだ、オレたちはお前をぶっ飛ばして化けの皮を剥がすついでに、颯爽とA級に昇格してやるぜ。文句は言わせない。こんな紛い物を試験官に据えたセンターギルド側の落ち度だから、責任はセンターギルドに取ってもらう!」


 彼らは俺を倒す気満々。

 戦いに臨む。


 ……ん?

 今なんて言った?


「『オレたち』?」

「そう、お前を断罪するのはオレたち、レイハントン街ギルドの最強三兄弟だ!」


 なんかいつの間に、お兄さんの両脇に二人並んでいた。

 計三人。


 あれ? 三兄弟?


「まずはこのオレ、長男にしてハンマー使いのスタンビル!」


 昨日から俺に突っかかってきたお兄さんが言う。

 さらにそれに続いて……。


「次男、盾使いのリェーベケ!」


 新登場の弟さんが大見得を切る。


「そして末っ子のサリーカ! 双剣使いよ!」


 一際年若い妹さんが言った。

 背後で何か爆発しそうなぐらいの勢いある自己紹介だったが……。


 ……どういうことなの?


 マリーカの兄弟は一人だけじゃなかったの?

 どうして増殖してるの?


 観覧席に座っているマリーカへ視線を送ったら、力強く頷き返された。

 マジか!?


「あのー、つかぬことを窺いますが……!?」


 俺もさすがに動揺を抑えきれずに聞いた。


「キミたち兄弟なんですか? 三人兄弟?」


 率直に受け取れば何を聞いているのかわからない質問だろうが、彼らは普通に答える。


「いかにも、まあ実は四人兄弟ではあるがな」

「アタシたちに同意せず田舎に残ったマリーカお姉ちゃんが加われば完璧だったでしょうけれど……」

「しかしオレたちが都会で一旗揚げれば姉ちゃんも親父たちもオレたちを認めるはず! その手始めに今日オレたち三人揃ってA級に昇格だ!!」


 若者らしい夢を臆面なく語る兄弟たち。


 これが俺の試験する相手かよ。

 やりにくいな。

 俺は素直にそう思った。

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