160 ゼスター、ボコボコにされていた
結局引き受けることになった。
センターギルド主催、冒険者A級昇格試験に。
A級になれるかどうかを判断する試験なんだから、試験官がA級じゃない、B級ですらない、ましてC級でもないというのは大問題なのではないか?
と当初不安でもあったが案外何でもなかった。
いまだ俺に関する利権を巡って紛糾していたセンターギルド理事会にことを諮りにいくと、意外なほど速やかに承認された。
彼らも、俺の強さを実際に見てみたいということなんだろう。
大勇者アランツィルの猛烈さを俺がどの程度継承しているか。
A級昇格試験に俺が出るのは、もってこいの機会というわけだ。
「たしかめるべきは受験者の方なんじゃ……!?」
というツッコミ心が湧き上がるのも仕方がない。
本来義務あるヤツらが疎かな分、俺がしっかり見てやらねば!
若い彼らの未来が懸かっているんだからな!!
◆
そして試験当日になりました。
「まさか翌日だったとは……!?」
つまり俺たちがセンターギルドに訪れたのは前日。
急だ。
日が近いとは聞いていたが、こんなに近づいていたとは想定外だ。
むしろこんな間近になるまで試験官が決定していなかったという、その慌ただしさに戦慄する。
大丈夫なのかこの試験!?
大丈夫じゃなかったら俺が頑張って何とかせねば! という謎の使命感まで湧いてしまう。
すぐ使命感に駆られてしまう四天王補佐時代からの悪い癖だ。
試験会場は昨日見学した屋内修錬場だった。
何もかも昨日そのままだった。
「これから試験を開始するが……」
アランツィルさんが試験官代表として訓示する。
「試験官は、この私アランツィルを代表に、我が弟子ゼスター、そして我が息子ダリエルの三人とする。不満がある者は今すぐ試験会場を去れ」
無茶苦茶言う。
皆、冒険者の未来を拓くために自分の将来を懸けて試験に臨もうというのに。
俺が気に入らないってだけで帰れるわけがないではないか。
『嫌なら帰れ』は現場で一番言っちゃいけないヤツ!
「さすがアランツィル様! 有無を言わせぬ口調が強者の貫禄!」
しかし全肯定している巨漢がいた。
ゼスターだった。
今日も壁が迫ってくるような巨大な肉体。
「久しぶりだなあ」
「ダリエル様! ご無沙汰しておりまする!」
センターギルドを訪ねてから、これがゼスターと最初の接触。
かつては『鎚』の勇者と名乗り色々やらかした彼だが。
今はそのやらかしの清算とばかりにアランツィルさんにしごかれているとか。
「ダリエル様……! 誠に申し訳ない、私の口の軽さによってダリエル様にご迷惑をかけてしまい……!」
「本当だよ」
そもそもこの子がローセルウィに秘密を漏らしたことが全部バレたきっかけなんだからな。
「ですが! それは仕方ないのです! あの男がダリエル様のことを侮辱するような口ぶりで!!」
「仕方なくねーよ」
それでゼスターくんは、お喋り罪の報いとしてアランツィル直々のしごきを受けているという。
「それでそんなズタボロなんだ……!?」
そう、久々に会ったゼスターは、戦場帰りかと疑うほど惨状だった。
体中の至るところに包帯が巻かれていて、生傷絶えないといった風だった。
これ全部アランツィルさんとの訓練でついた傷だというのか。
「本当に夢のような日々です! アランツィル様直々に稽古をつけてくだされるなど!」
しかしゼスターは溌剌だった。
俺が見てきた中で一番輝かしい表情かもしれない。
「最初にアランツィル様が訪ねてこられた時は、どんなお叱りを受けるものかと戦々恐々しておりましたが、まさか直々に稽古をつけてくだされるとは! これこそ勇者の器の広さ! このゼスター感服いたしました!」
いやそれ、多分『秘密をバラした報いでシゴキ抜いてやる』ってことだよ。
充分怒っているよ?
「アランツィル様は仰りました。『ダリエルが認めた剛の者なら、さぞかし鍛えがいがあるだろう』と。子息を信頼し、ダリエル様が認めた私のことを信じてくださる。まさに親子の以心伝心!」
いやそれ多分、皮肉で言ったんだと思うよ?
「おかげでアランツィル様の下で自分を磨き、日々高みへと昇っていく自分自身を実感しております! これもまたダリエル様アランツィル様のお陰と感謝の使用がありません!!」
これアレだ。
アランツィルさん側としては充分な制裁のつもりなのに、受けてる側は『我々の世界ではご褒美です!』ってなっちゃってるアレだ。
以前ゼビアンテスが部下を鞭で打ってるのを見かけて思わず注意したら『この子たちにとってはこれがご褒美なのだわ!』とか言い返されて『マジかよ!?』と思ったものだが……。
まさか本当に、そんな人種がいたとは!?
「本日もアランツィル様のすぐ傍らでの補佐が叶い感無量です。ましてダリエル様も参加されるとは!!」
「成り行きでね……!?」
「この最強親子二代のお仕事に私ごときも加われること、我が身の誉れ! 私ごときの微力などお二人にとってはカス程度のものでしょうが、粉骨砕身で尽させていただきます!!」
「いや頼りにしてますよー……」
ゼスターの元気ぶりが恐ろしい。
肉体はボロボロであるというのに。精神の高揚が肉体を凌駕するということもあるというが、それだけに何かの糸が切れた途端ポックリいかないだろうか心配だ!?
そんな風に俺とゼスターで話が盛り上がっているが、今日の主役はあくまで受験者たちである。
試験の結果如何によって、さらに先に進めるか、その場で足踏みするかが決まる。
人生の分かれ道と言っていい。
挑戦者である彼らこそ、この舞台の主役であるはずだが。
「ヤツが試験官?」
「一体どういう意図なんだ?」
「ちゃんと合格できるの私たち……!?」
動揺でヒソヒソ声が大きくなっている。
そりゃ不安になるわな。
既に実績、称号共に華やかアランツィルさんゼスターは誰も疑えないだろうけれど。
それに加わるどこの馬の骨ともわからないヤツ、俺。
こんなのが試験官に交じってるだけで皆不安に思うことだろう。
俺が受験者でも不安になる。
やっぱりこれアランツィルさんの計画ミスなんじゃないのか? と一瞬思ったが……!?
「いいじゃねえか」
自信たっぷりに進み出るヤツがいた。
あれは昨日も見た顔。俺に突っかかって来た冒険者。
つまりマリーカのお兄さんだった。
本人に確認してないのでいまいち実感ないけれど。
「あの紛い物の化けの皮を剥がすいい機会だ。この試験でアイツの実力を見てやろうじゃないか。アランツィル様の息子に相応しいか実力があるかどうかのな」
不敵に言う。
「試されてるのはどっちかな? それも本番でハッキリさせてやるぜ」
どうやら彼は、この試験、俺への敵意最優先で動くようだった。
大丈夫? それでちゃんと合格できるの?
とこっちが不安になるが……!?
さらに不安になることが……!?
「アナター! 頑張ってー!」
試験の観覧席から妻マリーカが声援を送っていた。
一応俺の関係者ということで試験を見学するための席を設けてもらったようだが。
その席にはギルド理事とか各地のギルドマスターとかお偉い面々が座っていて、マリーカと彼女に抱きかかえられたグランの場違い感が半端ない。
大丈夫!? さらに悪目立ちしない!?
俺は戦々恐々であったが……。
「おのれ紛い物……! あんな綺麗な嫁さんまでひけらかして許せねえ……!」
お兄さん歯軋りしていた。
あれ? 気づかないの? 彼女キミの妹さんではないの!?
十年近く会ってないなら互いに変わりすぎて見分けがつかないのも無理からぬことかもしれないけど……。
妹さんは十年越しのアナタに気づけましたよ!?
本当に彼がマリーカのお兄さんなのか益々不安になってきた。
マリーカからは『この先もアイツと関わり合いになりたくないからアタシのことは伏せといてね』と釘を刺されているので、俺からこの人に何も言わない。
マジで肉親に厳しい。
とまあそんな感じで愛憎悲喜こもごもが混じり合いながら。
A級冒険者昇格試験が始まるのだった。






