159 マリーカ、肉親を罵倒する
俺、大困惑。
「兄!? どういうことですか!? キミに兄弟がいるなんて初めて聞いたんだけども!?」
「言ってなかったから知らないのも当然よ」
何故言わない!?
俺たちおしどり夫婦として隠し事なんて一切ないと思っていたのに。
隠し事あってはいけないと思ったから、俺なんて魔王軍時代の過去すら包み隠さず話したのに!?
「誤解しないでアナタ。アタシはね、故郷を捨てて出ていったアイツらのことなんか家族とは全然思っていないの」
「酷いな」
「アイツらのことなんか隠し事でもなんでもないわ。ただ言う価値もないどうでもいいことというだけよ」
マリーカさん肉親に対して辛辣すぎやしませんか?
いやでもたまに見せるよね、そういう苛烈さ。
マリーカの母親のエリーカさんもその父親であるセンターギルド理事長に辛辣極まりないし。
遺伝か? 母娘二代に渡ってか?
「何やら因縁があるのはわかったが……!?」
傍で聞いていたアランツィルさんも困惑混じりで話に加わる。
「もう少し詳しく聞かせてくれないか。ダリエルの婚家の話なら私にとって無関係な話ではない。ダリエルの結婚相手の兄弟といえば、……私にとっても息子になるのだから!」
アランツィルさんイキらないでください。
本人が聞いたら感動のあまり卒倒しそうなセリフだなあ。
「そんな大層な話でもないんですのよ? ウチの村、昔は大層な田舎村だったじゃないですか? 何もないし、自然消滅寸前だったし……!?」
「? 以前お邪魔した時には栄えているように見えたが?」
「それはダリエルさんが来てからです。村を繁栄させたのは一から十までウチの人の才覚ゆえなんですから」
「そうなのか! さすがは我が息子!」
変なところで俺へのヨイショが始まった。
恥ずかしいからやめてほしい。
ちなみにだが、我が息子グランは退屈っぽい話に飽きたのか、母親の胸に抱かれながら周囲をキョロキョロ見回していた。
バストの大きい女冒険者でも物色しているのだろう。
「で、まあ……、ダリエルさんが来る前のラクス村は寂れていたんです。アタシの兄だった人はそれに我慢できなかったようで……」
「『だった人』言うな」
「『オレはこんな田舎で朽ちていく男じゃない! 都会に出て一旗当ててやる!』と言って出て行ってしまったんですわ。それからもう十年近くたちますけど何の音沙汰もなく……」
「それで俺も存在すら知らなかったのか……!?」
俺が村に定住し始めたのって一年か精々二年前だからな。
しかしマリーカはおろかお義父さんお義母さん。地元も人からも話すら聞かないって、どういうこと?
「だって村の皆アイツのこと嫌いですもん」
「皆から嫌われてるのか!?」
「本当なら村長の長男としてラクス村を支えなければいけないのに。自分の故郷を好き放題罵倒して出ていったヤツですから。アイツに触発されてあとを追うように出て行った若者も数知れず。アイツのせいで村の衰退が加速したようなものです!」
そういえば俺が初めて訪れた時、村は老人ばっかりだったしなあ。
若者といえばマリーカとガシタ程度のものだった。
そんな事態の立役者だから嫌われてる?
「そういうわけで偶然にもこんなところで再会しましたけど間違っても声をかける気にはなれません。あくまで村を捨てて出ていった赤の他人なので」
「な、なるほど……!?」
マリーカ肉親に厳しいなあ、と思ったが厳密には違った。
正確には裏切り者に容赦ないのだ。
何処の血統から受け継がれてきた非情さなのだろう、これは?
「ちょっと待て、彼に関する資料が届いたぞ」
とアランツィルさん。
早い!?
「名はスタンビル。これに間違いないな?」
「はー? 久しく忘れていて自信がないけれど、多分そうだと思います?」
ちゃんと覚えてて!!
「所属はレイハントン街の冒険者ギルドだな。階級はB。A級昇格試験を受けにセンターギルドに来たようだ」
昇格試験。
そういや近いと言ってましたもんねえ。
「A級への昇格試験はセンターギルドでしか行われないからな。D級C級はどこの冒険者ギルドでも認可が出せるし、B級もある程度大きな市街なら認定できる。しかしA級だけはセンターギルドが直接判定して相応しいかどうかを判断しなければならないのだ」
そうそう。
ガシタもB級昇格試験受けるために遠くの街まで出かけて行ったことも過去あった。
さすがにラクス村みたいな小村じゃせいぜいC級の認可しか出せないし。
あっ、そうだ。
せっかくセンターギルドまで来たんだしラクス村のギルドでもB級承認できるように運動していこうかな。
そうすればラクス村のギルドはより便利になって冒険者たちも集まってくるだろう。
余談だった。
「つまりキミたちが訪れたのがこの時期でなかったら擦れ違うことすらなかったというわけだ。運命的なものではないか」
「嫌な運命ですねー」
マリーカが苦々しい顔つきをしている!?
「それで一つ思いついたのだがダリエル」
「はい?」
「お前も昇格試験に参加してみないか?」
「はいぃッ!?」
いきなり何を言いだすのか?
「格試験って!? 全ギルドから集まってきたB級冒険者がA級に昇格するための試験ですよね!? 無理無理無理無理!?」
だって俺、もう既に冒険者じゃねーし!
マリーカと結婚して村長になる時『兼業はできないから』と冒険者の方はスッパリ辞めたのだ。
まあそれでも狭い村だから!?
緊急時に人手不足もあるだろうから冒険者の紋章はそのままにして戦えるようにはしてあったし、実際村の危機にはヘルメス刀をもって戦いに出たことも一度や二度ではない。
それでも……。
「引退を決めた時の最終的な階級はDだし、とても試験を受ける資格なんかありませんよ! 辞退させてください! たいへん光栄ながら!」
「誰がお前に試験を受けろと言った?」
「は?」
言ったでしょうアナタが?
もうボケてきたんですかグランくんの祖父?
「お前にやってほしいのは試験を受ける側ではない。試験する側だ」
「と言いますと?」
アランツィルさんが言うには、冒険者ギルドのA級昇格試験には試験官が必要となる。
当然のことですが。
慣例では既に試験合格してA級の資格を持ち、なおかつ実績豊かで後進を指導するに資格ありとされた熟練冒険者が試験官になる。
「今回の試験官には私が勤めることになっている」
しかも破格だった。
A級どころか最上級の功績を立て続けた最強勇者アランツィルさんに直接試してもらえるとは。
受験者たちも気合が入るだろう。
「既に引退した暇人だから、これくらいの役には立とうと思ってな。無論、私一人では数十人という受験者を捌ききれないので他にも試験官が必要だ。その一人をゼスターにやらせることにした」
「ああー」
元『鎚』の勇者ゼスターなら大いに資格ありだろう。
そもそもA級冒険者で、一時期勇者まで拝命したゼスターの実力は本物。実際に戦った俺もその強さは骨身に染みている。
「だが、できればあともう一人欲しいと思っていたところなのだ。ダリエル、やってくれんか?」
「だから俺、引退したD級なんですって!?」
そんな最終経歴しょっぱいオッサンを受験者どころか試験官に起用しようなどと無茶が過ぎるのでは!?
「問題ない。お前の実力は私がよくわかっている。私が一番よくわかっている」
二回言った。
たぶん二回目には公にできない枕詞が付いていたんだと思う。
『(グランバーザよりも)私が一番よくわかっている』
……って感じなんだろうな。
「等級とは強さを表すものでしかない。あくまで強さが主、等級が従だ。等級などなくてもお前が最強の人間族だと示すいい機会ではないか」
アランツィルさんが言った。
いかにもこの人らしい直截すぎて直接的な手段だ。
かつて魔王軍に所属していた時代、敵味方に分かれていた頃に何度この直接さで権謀術数を打ち砕かれてきたことか。
強者に小細工はいらないということを体現するのが、この人だ。
「それにだ」
なんか小声で言い出した。
「どんな形でも、嫁のお兄さんとの接点を見出していくべきじゃないのか? 試験官になれば自然、試験を受ける兄と接することになるだろう?」
前言撤回。
案外小細工を弄する人だった。
マリーカ当人は蛇蝎のごとく忌み嫌ってはいるが、ラクス村でお待ちのお義父さんお義母さんは違うかもしれんしなあ。
ここで和解の取っ掛かりでも試みるべきか。
「あーらグランちゃん、あっちのお姉ちゃんのおっぱい大きいわねー?」
そして当のマリーカは、話にも飽きてグランをあやすのに集中していた。
グランの目が『あっちはC、こっちはEだな』という感じで物語っていた。
あの場合のABCDは冒険者等級とは価値の順が真逆になるのだろう。






