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158 ダリエル、兄に出会う

8/6発売ヤングマガジンサードにて『解雇された暗黒兵士(30代)のスローなセカンドライフ』コミカライズ版が新連載です!

どうぞよろしくお願いします!

 紛糾する理事会のことは放っといて俺たちは外に出た。


「う~む……!?」


 同行するアランツィルさんは難しそうな顔をしていた。


「あの理事長がグランの曽祖父……!? いかん、いかんな……! グランバーザのヤツが義理の祖父である以上に好ましくない……!」


 とブツブツ繰り返していた。

 どうやら彼の理事長さんとマリーカの血縁は聞き及んでいなかったらしい。

 さっき他の理事と一緒に知ったようだ。


 本当にあの手の謀略巡らす人は、本当に伝えなきゃ受けないこと以外なら何でも隠そうとするさまが目に浮かぶ。


「ダリエルよ、今の内に対策を講じておいた方がいいぞ! あの妖怪の好きにさせていたらグランの人生がどれだけ歪められるかわからん!」

「どんだけ理事長さんに騙されてきたんですかアナタは?」


 そんな過去がなければ出てこないアランツィルさんのセリフだった。


 何となく想像がつく。

 勇者と理事長の関係である。きっと信頼の一言ではとても言い表せない清濁併せた攻防があったのだろう。


「いや……! ちょっと警戒しすぎじゃないんですか? 理事長さんだって俺たちのことそっとしてくれるって約束してくれましたし……!」

「ダリエルよ……! センターギルドの内実を知らないお前のために教えてやろう。アイツらにとって約束は、破るためにある!」


 やっぱり?


「気づいたら成長したグランが勇者になるとか言い出しかねんぞ! 唯一の望みは、……ヤツももういい歳だし、グランが分別のつく年齢になる前に死んでくれることだが……!」


 あの人、百歳越えて生き続けそうだがなあ。

 先の話は置いとくとして。

 マリーカが投げ入れた爆弾によって理事会も紛糾してしばらく終わらないだろう。


 収束するまでは俺も時間を持て余してしまうし、その間もう一つの重要目的である観光でもするか。


「おお! それなら私に任せておけ! センターギルド指折りの楽しい場所に連れて行ってやるぞ!」


 アランツィルさんが何やら肩肘張っていた。

 これを好機に父親らしさというか祖父らしさをアピールしたいのだろう。


「…………」

「…………」


 しかし会話が続かない。

 俺とこの人は血を分けた親子であろう。しかし三十年もの間別々に生き、会話もろくにしたことがない。

 いきなり打ち解けろと言う方が無理だ。


 ラクス村では皮肉にもグランバーザ様との口喧嘩で場がもっていたが、俺とアランツィルさんだけでは何を話していいやら……!

 周囲が俺たちの親子関係で騒ぎまくるから、そこでも意識して。


「アナタいいじゃないの。お義父様に色々案内してもらいましょう」


 恐れを知らないマリーカは大勇者に観光案内させる気満々であった。

 しかしこれはいい機会。

 触れあいの時間を多く持って少しでも親子の形を取り戻せたらと思った。


 しかし……。



「期待した俺がバカだった……」


 観光案内としてアランツィルさんが連れてきてくれたところ。


 修錬場。

 冒険者たちが日々の鍛錬を行うスペースだった。


 ラクス村の冒険者ギルドにも修錬場はあるが、野外の適当な更地を好きに使え的なスペースで何の工夫もない。

 しかし今、目の前にあるセンターギルドの修錬場は室内にある。

 屋根がある。

 つまり雨が降って地面がベシャベシャになって使うと泥まみれになる、ということもないということだ。

 しかも室内だからと言って狭いわけでもなく、広い。

 ラクス村の修錬場より確実に広いどころか何倍もある。そんな場所で何十人という冒険者が鍛錬に励んでいた。

 実に活気がよい。


「見たか。これがセンターギルド特設、屋内修錬場だ。センターギルド所属の冒険者たちがここでクエストの準備をするのだ」


 アランツィルさんが自慢げに言う。


「センターギルド直属の冒険者は、全領土から選りすぐりにして集められた強者どもばかり。B級が最低条件だ。もうすぐA級への昇格試験も近いので皆気合いが入っている」

「はー、なるほど……!」


 ラクス村とはまったく違う冒険者たちのハイレベルぶりは、たしかに勉強になる。

 しかし……!


「ここ、明らかに観光地じゃないですよね?」

「う……ッ!?」


 薄々勘付いていたが大勇者。

 日常生活に関するスキルがあまりに低い。


 自分が長年慣れ親しんできたセンターギルドですら観光によさげな場所を知らないなんて。

 あまつさえ女子どもが絶対喜びそうにない訓練場などに連れてくるとは!


「さっきの案内役の人に聞こう。きっとよさげな観光スポットを教えてくれるに違いない」

「待ってくれ! もう一度チャンスを! きっとグランが喜びそうな愉快な場所に案内するから!」


 俺の背中に追いすがるアランツィルさんは最強勇者の威厳もなかった。


 それがいけなかったのか……。


「待て」


 敵意ある声がかけられた。

 俺へ。


 修錬場で励んでいた冒険者の一人が勇み出ていた。


「アランツィル様へ何と言う野放図な口の利き方。無礼だ。人間族の英雄、すべての冒険者の目標となる方へ向かって……!」


 静かだが苛立ちを含んだ声だった。

 それなりの場数は踏んだ気配は察せられるもののまだまだ若く。童顔っぽい顔つきはあまり歴戦を踏んだものという印象を受けない。


 修錬場の冒険者たちがチラチラとだがこちらへ視線を向けていたのはわかった。

 そりゃアランツィルさんのご入場だから注目するのも仕方ないだろう。


 しかし、そんなアランツィルさんと気さくに会話する俺。のことがどうにも許せないようだ。

 神聖さを侵される、とでも思ったのかな。


「控えろ」


 それに厳しい口調で窘めるアランツィルさん。


「誰かは知らんが家族の話に口を挟むな。彼は私の息子だ。息子が父親と気軽に話して何が悪い?」


 その言葉にどよめきが大きくなる。


 皆噂程度で伝え聞いていたのだろう。

 それが実際に視界に現れたことで抑えきれない動揺となる。


「で、ですが……!」

「無礼なのは貴様だ。これ以上我ら親子の間に立ち入ってくるなら敵とみなすぞ」


 いかにも跳ねっ返りそうな冒険者が、しかしさすがに大勇者の威圧には抗しきれずに後退した。


「し、失礼しました……! ……しかし!!」


 ギリッと突き刺す視線が俺へ向く。


「お前のことは認めない! オレはお前のことは認めない! 血の繋がりというだけでアランツィル様に馴れ馴れしく接するお前を、ここにいる冒険者は皆認めていない!!」


 実に挑戦的な口調だった。

 周囲の気配は同調したり、関わり合いになりたくない的な空気を出したりが半々だった。


「いずれお前の化けの皮を剥いでやる! お前などアランツィル様の隣に並ぶ資格もない弱者だと! 真の強者こそがアランツィル様と同じ目線に立つことができる! 忘れるな! ……ぐぼッ!?」


 殴られた。


 そりゃ既に警告されておきながらまだ悪態を続けるんだからしょうがないよな。

 何なんだ彼は?


「……すまんな。昨今の冒険者は躾がなっておらん」

「それだけアランツィルさんに憧れているということでしょう」


 こういうことは今まで何度もあった。

 ゼスターやらリーリナやら、もはや崇拝という域でアランツィルさんを信奉していて、その神聖さを汚す者は即、殺すという勢い。


 今回もそんなパターンか、もう飽きたなと思っていたところでアランツィルさん当人が打ちのめしてくれて助かった。


「変わらないわねえ、あの人も……」


 といったのは妻マリーカ。

 その腕の中でグランが『興味ないです』とばかりに寝息を立てている。


「最後に会ったのは八年前だったかしら? それでも頭アホなのは変わりないからすぐわかったけど、あっちはアタシのこと気づきもせずに……」

「えッ、マリーカ何その口振り?」


 さっきの難癖冒険者に向けて言ってるの?

 まるで旧知の人みたいないい方じゃない。


「ええ、だってあの人アタシの兄だもの」

「は?」

「昔、ラクス村の田舎っぷりに嫌気がさして出ていった兄よ。『都会で一旗上げてやる!』って息巻いていたけど、まさかこんなところにいるなんて……!?」


 思わぬところに思わぬ関係者がいるものだ。

 というかマリーカに兄弟がいたこと自体に初耳なんだけど!?

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