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157 ダリエル、異才を示す

「どうも、ご挨拶に参りました」


 ファーストコンタクトで軽めに挨拶。

 それだけなのにざわざわとどよめきが起こった。

 何故?


「すまんのうダリエルくん。皆あまりに意外で戸惑っておるんじゃ」

「意外って何です?」


 理事長のフォローに益々混乱。


「キミが思った以上に普通の挨拶をしてきて。アランツィルの息子なら一目会った瞬間から罵倒ぐらいしてくるものと身がまえておったのよ」

「なんでそんなことするんです!?」


 あッ?

 アランツィルさん自身がいつもそうしてるから!?

 なんでそんな狂犬テイストなのあの人!?


「強さのみを価値の基準とするアランツィルより、息子のキミの方が柔軟そうじゃ。我々も話がしやすくて助かる」

「立場上、そうでなければいけませんから」


 ラクス村の村長としては。


 さて、俺のことを待ち受けていたセンターギルド理事たちは計八人。

 地味ではあるが豪勢な造りと一目でわかる円卓を囲み、規則正しい等位置で並び座っている。

 何故か一つ、誰も座ってない椅子が余っていたが、すぐ察しがついた。


 ついこの間まであの椅子にローセルウィが座っていたのだろう。


 それ以外の参列者は、皆一様に年寄りで最年少でも四十代後半といった風だった。

 重要な判断を下す立場としては当然だろう。人は歳を重ねるほどに賢明さを兼ね備えるものなのだから。

 建前的にも。


「それで……、一応、念のために確認しておきたい」


 脇に座る理事の一人が言った。

 やけに緊張気味に。


「……キミが本当にアランツィル殿の御子息なのか?」

「どうやら、そうらしいです」


 回答を得た理事の表情が、不可解そうに歪んだ。

 仕方ないか、こんな曖昧な回答を食らっては。


「俺にとってもハッキリしないんでね。迂闊に断言はできません。ただ俺の出自と、アランツィルさんが息子と生き別れた状況を照らし合わせるに、まあそうなんだろうと……」

「アランツィルを襲った不幸は皆知っていることと思う。……好んで言い触らすべきことでもないがの」


 理事長さんが上手いことフォローを入れてくれる。


「アランツィル自身も死んだとばかり思っていた息子が、人知れず生き延びておった。本人も出自を知らぬままにの。それが偶然によって再会を果たし、親子の絆を取り戻すことができた」

「なるほど……」


 一応納得する理事たち。


「ではダリエル殿はアランツィル様との再会までどう生きてこられたので?」

「立ち入ったことを聞きますね」


 俺は思たことを素直に口に出しただけだが、それで一気に雰囲気が変わった。

 警戒度が一気に上がったというか、そんな空気。


「……スターレンワイス殿! デリカシーが足りませんぞ!?」

「物腰柔らかに見えて、垣間見える鋭い意気! ……やはり間違いなくアランツィルの血脈じゃ……!」


 アランツィルさん、どんだけこの人たちから怖がられてるの!?

 おかげで俺まで警戒されるとはとんだとばっちりじゃ。


「大丈夫です気にしないので……! 赤ん坊だった頃に『心ある人』に拾われて、成人するまで育てていただきました」


 その『心ある方』というのが魔王軍四天王の重鎮であることは絶対言わんがな。

 話がややこしくなりすぎるので言うべきでないところは言わずに行く方針。


「ほう……、それは奇特な……」

「なんとも情け深い行いをする人ではありませんか。世の中なかなか捨てたものではありませんな」


 まあ、その情け深い行いをした人っていうのが魔族なんですけど。

 アナタたちの宿敵なんですけど。


「今は訳あって、その方の下から離れて独立しています。幸い俺のことを迎えてくれる村があり、そこで励むうちに村長に就任することができました」

「それは出世しましたな!」

「たまたま行き着いた村で長にまで伸し上がる才覚! さすがはアランツィル殿の血脈と言えよう!」


 ポジティブ要素は何でもアランツィルさんに結び付けようとする傾向。

 俺は別にそれでもかまわんけどさ。


「……さて皆の衆、このようにダリエル殿の才覚、心胆の強さは確認いただけたと思う」


 場を取りまとめるように理事長が言う。


「我らのような冒険者を取りまとめる者たちにとっては、もはや習性と言えようが。異才を見つけるとどうしても取り立て、その力を余すことなく引き出したくなる。このダリエルくんを見て、誰もがギルド理事としての責務をまっとうしたくなるのは仕方がない」


 なんか上手いこと言葉にオブラート包んでるなあ、という気がした。


「しかしダリエルくんの才覚は、もはや一人の権力者が取り立てるには大きすぎるものだ。実際、既に脂の乗り切った世代のダリエルくんは自分自身を充分に磨き上げている」

「たしかに……」


 他の理事たちも同調してきた。


「この際はローセルウィのごとく見苦しい勧誘をせず、ダリエルくんの才覚はダリエルくんの思うままに使わせてあげたらどうか? その方が人間族全体のためになると思うがいかがかな?」

「私も理事長のお考えに賛同します」

「ダリエル殿は既に充分成熟された大人。我々がお節介に導いてやる必要もないということですな」


 皆、それっぽい美辞麗句でまとめてはいるが、要するに混乱を避けて不可侵条約を結ぼうということだ。


 アランツィルさんの血統を継ぐ俺は、権力争いの手駒としてはこの上なく魅力的だろう。

 だからと言って俺のことを味方につけようと皆が乗り出せば、争奪戦となって結局血で血を洗う権力争い本戦に発展してしまう。


 既にローセルウィという犠牲者が出てしまっているわけだし、他の理事たちもなおさらアグレッシブにはなれんだろう。


「俺としてもそうしてくださる方が助かります。今は村長としての仕事をまっとうすることに心血を注いでいますので」

「過ぎた欲は持たぬということですか。なんと謙虚な……」


 俺がこんな大都会まで出てきた目的は、二度とローセルウィみたいな輩に生活を乱されないようにすること。

 こうして偉い人たちがけん制し合う状況を作り出せれば万々歳。


 訪問してすぐさま目的達成できて、あとは気楽に観光して帰るだけだな、と思っていたところでコンコンコンと音が聞こえてきた。


 ノックのあとに扉が開く。


「遅れてしまいすみません……」


 入ってきたのはマリーカだった。


「なんで!? 別室で待ってるんじゃなかったの?」

「だって、お祖父様にお会いになるんならアタシも挨拶しておかないと失礼になるわ。お父さんからくれぐれもって言われてるし……!」


 さらにドアの方に、アランツィルさんが脱力した表情で立っていた。

 この人、嫁を止められなかったな!?

 思えばラクス村を訪問した時からマリーカに弱かったしな。


「誰だ……?」

「見たところダリエル殿のご細君と見受けるが……?」

「赤ちゃんを抱えているものね。やはりあの年頃の子は可愛いわあ……?」

「あの歳で社会的立場もあれば家庭を持つのも当然か……?」

「アランツィル様、怖いッ!?」


 理事の皆様もマリーカ登場で一様に困惑している。

 一人率直にアランツィルさんを恐れている。


 しかしウチの妻は、そんなことにも気にかけずマイペースで……。


「お祖父様! ご無沙汰しております!」

「お、おう……!」


 一目散にセンターギルド理事長さんへと駆け寄った。


「父と母から、よろしくと言付かっています。招待くださって本当にありがとうございます!!」

「……う、うむ、孫娘が喜んでくれるならワシも嬉しいよ。今まで何もしてやれんかったし……!」


 海千山千の理事長さんですら、マリーカの嫁パワーに押し流される。

 困惑を隠しきることができなかった。


「いや、あのな? 今ワシ、ダリエルくんと大事な話の最中だから、個人的なあとでゆっくり……!?」

「グランちゃんもまた大きくなったんですよ! この子も、ひいおじいちゃんに会いたいってずっと待ってたんです! ねー?」


 そう言ってうちの子を理事長さんの前に差し出すので、言いわけのしようがない。


 理事会の場の雰囲気がスッと変わっていく。


「理事長……?」

「これはどういう……?」


 理事たちの氷のような視線が理事長さんを囲む。

 俺はマリーカを引き戻しながら、大切なことに気づいた。


「理事長さん言ってなかったんですね? ウチの妻がアナタの孫娘だということを……!?」

「だって言ったら揉めるに決まってるじゃん!? 絶対抜け駆けしたと思われるよ! そして恨まれるよ!!」


 理事長さんがあられもない本音を露わにした。

 そして他の理事たちも理事長さんを囲んで騒ぎだす。


「理事長! どういうことですか!?」

「孫娘を嫁入りさせたんですか!? 不可侵とか示し合わせつつしっかり自分だけ異才を抱きこんで!?」

「汚い! ズルい! なんでいつもそうなんですか理事長!!」


 婉曲も手心もないガチの罵り合いが始まってしまった。


「……偶然だって誰も信じてくれないだろうなあ」


 ここまで来たら。

 これがあるからマリーカを同行させたくなかったんだが、アランツィルさんが思ったより抑え役として役に立たなかった。


 どうだろうこれ?

 これをきっかけに俺への干渉合戦が始まったら嫌だけど、面倒なので理事長さんの手腕に丸投げすることにした。

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