156 ダリエル、偉い人たちに会う
そしてついにセンターギルド本部の建物に入る。
魔族領側で言えば魔王城に相当する場所だろうが、それだけに巨大だった。
「うわああああ~~、凄いわねえ」
マリーカも驚きと共に宮殿を見上げる。
そう、宮殿と言っていいぐらいに大きく豪華だった。
「この建物の敷地だけでラクス村より大きいんじゃないの? どんなことをするために、こんな大きなもの建てなきゃならないのかしら?」
「案外特に理由なんかないかもな」
権力を示す事物って大抵そんなもんだ。
さてどうやって中に入ったものか?
理事長さんに上手く取り次いでもらえるだろうか? と心配していたら、そんな杞憂は即座に解消。
なんと玄関前に出迎えの方が待機していた。
「ダリエル様とそのご家族様でございますね。お待ちしておりました」
随分丁寧な物腰で歓迎してくれる。
「長旅でお疲れのこととは思いますが、理事会の面々がアナタ様との顔合わせを心待ちにしております。到着早々で慌ただしいこととは思いますが、会談の席へおこしいただけますでしょうか」
「よいですよ」
予想はしていたがセンターギルド。俺のことで持ち切りのようだ。
案内役の人に促されて建物内に入った途端、俺へ集中する無数の視線。
「想像以上の注目度だなあ」
あまりの視線圧に、隣でマリーカに抱かれていたグランがむずがり出した。
コイツこの歳でもう他者の気配を敏感に察しとるようになってるとは……。
……さすが俺の子だな!!
ところで、ここまで同行したレーディだがセンターギルド本部へ入ると別行動になった。
「勇者様には、勇者様でお待ちの人がおります。こちらへお越しくださいませ」
「ダリエルさんまたあとでえ~……」
売られていく子牛のように別れていくレーディの物寂しさがなかなか印象的だった。
ま、それはそれとしてセンターギルド内部は相当居心地が悪い。
皆が皆、俺に注目してくるからだ。
冒険者らしいいで立ちの物も、明らかにそうではない事務員風や用務員風の人たちも。
俺のことをバケモノでも見るかのような視線で不躾に注目してきやがる。
「……あれが噂の?」
「全然似てなくね? 雰囲気もゆるいし……?」
「いや、目元に何となく面影が……?」
ヒソヒソ話もバッチリ耳に届いてくる。
せめて本人に聞こえない音量でヒソヒソしてほしいものだ。
「アナタのこと、皆さん見てるわね……?」
一般人のマリーカですら気づくほど濃厚な視線。
視線そのものの数が多いこともあるが。やはり人の量も質も田舎ラクス村とは格段に違う。
都会の洗礼を受けた気分だった。
しかし珍獣扱いされるだけでもなく。
見知った懐かしい顔との再会もあった。
「よく来た!」
アランツィルさんであった。
大勇者みずからお出迎えとは。
「ご無沙汰しています」
「何を他人行儀な! お前の父ではないか、もっと気さくに挨拶してくれてもいいのだぞ!?」
そうは言ってもアナタ怖いんだもん。
日頃の気迫もさることながら、俺には魔王軍時代の敵として相対した時の怖さが原体験として刻み込まれているのだ。
「そしてグランも来たのか? そんなに爺ぃに会いたかったのか? 愛いヤツめハハハハ……!」
そう言ってグランにもかまい始める。
最強勇者のテンションがおかしい。
元からこんな人だったか? やはり肉親を取り戻したことで性格に著しい変化が表れたとか?
周囲から……。
「息子!? やはり噂通り!?」
「アランツィル様のあんなにはしゃぐ姿を見たことがない」
「孫まで!?」
……とヒソヒソ声が上がる。
「……さてダリエル」
「はい」
唐突に真面目になった。
「お前がここまで来た用向きは聞いている。災難に巻き込まれたな」
「前々から覚悟はしておりましたが……」
「ここはムジナの巣だ。美味そうなエサがあればすぐ寄ってくる。私の関係者と知られれば放っておかれるはずがないと思い、秘密を守ろうとしていたのだが……」
「こういう話はどこからか漏れ出るものでしょう」
「今回は、どこから漏れ出たかわかっている。しっかり後始末は付けておいたぞ」
この人の言う『後始末』のフレーズは凄く怖い。
「……ゼスターに何かしたんですか?」
俺も今回の秘密が漏れた経路には当たりがついている。
『鎚』の勇者ゼスターだ。
いや、今となっては『元』が付いているかもしれないが。
アイツが俺とアランツィルさんとの血縁を知っていて、ポロッと口を滑らせて、ローセルウィが来た。
そこから全体に広がっていったようだ。
「例の口の軽い男だがな……。私が稽古をつけている。信頼されて告げられた事実を易々漏らすような軽い性根を叩き直してやらねばな」
ゼスターにアランツィルさんが直々の稽古を?
それむしろご褒美になってませんかね?
アイツ、アランツィルさんの大ファンじゃないですか?
「これから理事どもと顔合わせするそうだな?」
「はい」
「お前に心配は不要だと思うが充分気をつけてかかれ。ヤツらは他人を利用するのし上がってきた連中だ。寄生することにかけて超一流でなければ、あそこまで肥え太ることはできん」
めっちゃ痛烈。
予想できたことだが、アランツィルさんは理事会に対していい感情を持っていないようだな。
さもありなん勇者であったアランツィルさんは徹底した現場主義者だし、後方にいるお偉いさんなんかは、前線で血を流す戦士たちの勝ち取った利益を掠め取り、命の危険もなしに暖衣飽食貪る輩としか見えまい。
「会談の場には私も付き添おう。私が目を光らせていればヤツらも都合のいいことをおいそれとは言えまいからな」
頼もしいことではあるが、いい歳になって公の場所に父親同伴というのはちょっと恥ずかしい。
「あのー……、盛り上がっているところ、ごめんなさいだけど……!」
マリーカが口を挟んできた。
「グランちゃんがお勤めしたいらしくて、何処か落ち着ける場所はないかしら……?」
ああ、おむつを替えるのか。
我が家の業界用語でおむつを替えることをグランのお勤めと呼ぶ。
「案内の人、お願いします」
「か、畏まりました……!?」
俺たちをここまで連れてきてくれた案内の人が急きょ休憩場所を探す。
「アランツィルさんも付き添ってあげてくれませんか。俺はその間に理事会の方々とカタをつけておきます」
「何をそこまで急ぐ? 理事会のムジナどもなど待たせておけばいい。グランのおむつを替えるのならお前も付き添って一緒に行けばいいではないか?」
「面倒なことは早めに済ませておくに限ります」
元からグランとマリーカを理事たちの前にまで連れていくことは気が引けていた。
かと言ってセンターギルドのただ中に二人だけ残していくのもどうかなと思っていたので、その間アランツィルさんが守ってくれていたら助かる。
「ふむ……、よく考えたら可愛い孫をあんな穢れた連中に触れあわせるのも嫌だな。わかった。孫と嫁のことは私が引き受けよう」
「お願いします」
「お前なら一人でも、あのムジナどもの手玉に取られるようなことはあるまい。安心して暴れてくるがいい」
「暴れませんけどね?」
一旦マリーカたちをアランツィルさんに託し、俺は理事会の下へ向かうことにした。
道順は既に聞いてあったので迷わず行ける。
センターギルドの建物内でも一際大きな扉までたどり着いて、俺はドアをノックした。
「入りなさい」
許可が出たので入室。
内側の想像通りだだっ広い部屋には、いかにも平均年齢の高い一団が規則正しく並んで座っていた。
「ようこそ勇者の息子よ。冒険者ギルドの中枢へ」
中央に座る理事長が言った。
まさしくここが冒険者ギルドの中枢、引いては人間族全体の中枢。
センターギルド理事会か。






