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140 偽魔族、見破られる(勇者side)

 戦闘開始。

 手筈通りに援護の弾幕が四天王ゼビアンテスから放たれる。


「二人に当てないように、二人に当てないように……!?」

「そこまで神経使うの!?」


 しかし、そうした援護がしっかり効果を発揮し、敵側は風弾に当たる危険を警戒してか動きが鈍い。


 そうこうしているうちに早速ガシタの矢の間合いに入る。


「ここまで近づけば……!!」


 ガシタはすぐさま弓に矢をつがえ、引き絞って放つ。

 速くはあるが少しも雑然さのない動作。

 ガシタの射勢はもはや名人芸の域であった。


 一射にして二つの矢が弓から放たれる。


「うぎゃあッ!?」

「ぐえええッ!?」


 二矢は、それぞれが違う相手の足を貫いた。

 その狙い寸分も狂いがない。


「ガシタくん……、凄い……!?」


 勇者であるレーディすら舌を巻く精密さだった。


「姉御の手を煩わせるまでもねえ! テメエらオレの生まれ故郷に手ェ出そうとしたんだ。一生歩けなくなくぐらい覚悟はできてんだろうな!!」


 脅しをかけつつガシタは既に次の矢を用意していた。

 また二本。


 このペースなら本当にレーディの出番なく敵を制圧できそうだった。


 ガシタから放たれる矢が地を舐めるように駆けていく。

 次もまた当たり前のように敵の足を貫くだろう。


 そう思われたが、敵とて木石ではない。

 足を使い物にされてなるものかと対応に出た。


 ただその対応が誰もの予想を裏切るものだった。


「風よ!」


 凶相の一団から、そんな叫びが上がった。

 それと同時に男たちの前に旋風が巻き起こり、矢も吹き煽られて軌道を逸らす。


「なんだって!?」


 結果、矢は掠めるだけで標的を素通りしていった。

 風に軌道を狂わされた。


「なんだ今のは……!? まるで、まるで……!?」


 魔法。

 魔力によって地水火風の四象を操ることは、まさに魔法の領域であった。


「魔法で風を操った……!? つまりアイツらは……!?」

「魔族……!?」


 レーディとガシタに冷や汗が浮かぶ。

 一つの現象が伝える事実は、彼らの想像を飛躍させた。


「魔王軍が攻めて来たって言うのか!? こんな田舎村にどうして!?」

「まさか、私がこの村にいることがバレた? ……それ以外に魔王軍が襲ってくる理由が……!?」


 ガシタもレーディも、裏にちらつく魔王軍の陰に戦慄した。

 その動揺が隙を与えた。

 一転、凶賊たちの反撃が始まる。


「水よ!」

「火よ!」


 敵が使ってきたのはまたしても自然物を利用した攻撃だった。


 敵はたいまつに火をつけ、その火をかざしながら掛け声と共に火弾を飛ばす。

 いかにも凶悪な火の玉は、たいまつの炎より分け散るように飛んでくる。


「うわあああッ!?」


 火弾を慌ててよけるガシタ。


 しかしその隙をさらにこじ開けるように飛んでくる水の刃。

 凶賊の一人が水筒から水を撒き散らす。その水がカッターのように飛ぶ。


「この人たち……、やっぱり魔法を……!?」


 レーディですら思考の虚を突かれ考えがまとまらない。

 その混乱を侵食するように凶賊たちは進行してくる。


「……考えるのはあと、今はこれ以上敵を進ませない……!?」


 そこは歴戦の精神力で素早く切り替えようとしたところ。


「まったく情けないのだわ」


 突如降り注ぐ竜巻によって敵が吹き飛ばされる。

 そのあとに軽やかに着地したのは四天王ゼビアンテスだった。


「ゼビちゃん!?」

「よく考えたらわたくしが援護射撃なんておかしいのだわ。わたくしが前線に出たらすべて済むことなのだわ」


 敵のほとんどは突風に吹き飛ばされて目を回していた。


「ゼビちゃん!? この人たちって、あの……!?」


『アナタと同じ魔族』。

 という言葉が、喉まで出かかったところで抑えつけられる。

 レーディは何も言えなかった。


「コイツらは魔族じゃないのだわ」

「ええッ!?」


 聞きにくいことの回答が勝手に出た。


「でも、この人たち魔法を……!?」

「こんなの魔法じゃないのだわー。素人さんは誤魔化せるかもしれないけど魔導士の頂点に立つ四天王の一人、このゼビアンテスの目は欺けないのだわ!!」

「四天王がこの辺フラフラしてること自体ありえないんだけどなあ……」

「魔法というのは!」


 専門家が語る。


「魔力を地水火風いずれかの象形に変換することなのだわ! コイツらはまったく違うのだわ!」

「そう言えば……!?」


 今、敵が見せた『魔法らしきもの』は、あくまで既にある自然物を利用したものだった。

 たいまつにともした炎とか、水筒の中の水とか。

 風の場合、空気はどこにでもそこら中にあるだろう。


「魔法で火や水や風を生み出したのではなく……。元からある火や水や空気に力を込めた……!? ……オーラをッ!?」


 レーディがすぐさまその結論に達したのも、過去にダリエルが空気にオーラを宿らせた技を実見していたから。

 でなければ、そう容易に発想は出なかったであろう。


「自然物にオーラを込めて、魔法のように振る舞わせている!? あたかも!?」

「まあでも、当然ながらそんな方法、何の足しにもなっていないのだわ。威力は本物の魔法に格段に劣るし……」

「オーラの使い方としてなら普通に武器に込める方がずっと強い……!?」


 二人がこうして悠長に議論できているのも、勝負が既についたと判断できたからだった。

 凶賊は既にゼビアンテスの竜巻に吹き飛ばされ、入念にガシタの矢で足を貫かれていた。

 これでは立って逃げたり、まして反撃する恐れなど万に一つもない。


「じゃあ、彼らがこんな無意味な戦法をとった意味って……」

「そんなの魔族に成りすます以外にないのだわ」

「ラクス村を襲って、その罪を魔族になすりつけようとしていたのね? 何て卑劣な……!?」


 それでも何故犯人は魔族の仕業に見せかけなかったのか、という疑問は残るが。

 これから当人たちに、ゆっくり聞けばいいことだった。

 尋問の用意はできている。


 そう思われたが……。


「ん……?」


 戦いを終えたつもりのレーディたちの耳に、何やら遠い音が聞こえてきた。

 カンカンカンと。

 金属を何度も叩きまくるかのような音。


「鐘の音……?」

「警鐘だ。村の緊急事態の時に鳴らす鐘の音だ!」


 最初に気づいたのはやはり村生え抜きのガシタだった。


「こんな時に緊急事態……、まさか!?」

「敵はコイツらだけじゃなかったのだわ!?」


 十人程度の一隊は制圧できたレーディたちだが、何もこれが敵のすべてだなどと誰も言っていない。

 これで終わりという保証はどこにもないのだ。


 もしやこれを起点とし、様々な方向から村を襲いに来ているのでは。


「姉さん! 急いで村に戻りましょう!!」

「そうね……! セッシャさんやサトメを残してきたのは正解だった……!」


 村にはまだ充分冒険者がいて防御態勢も確立されているはずだった。

 レーディたちもすぐさま戻って助けに……、と思われた矢先。


 終わっているはずの戦況がまだ終わらずにいた。


 竜巻に吹っ飛ばされたはずの敵が、起き上がり始めたのである。


「ウソッ!?」

「まだ立ってくるのだわ!? 充分痛めつけたはずなのに!?」


 ダメ押しとばかりに足は矢で貫き、動きもままならぬはずである。

 それなのに、矢傷が悪化するのもかまわず立ち上がってくる。


「やめろ! 一応、完治するように刺してあるんだぞ! 無理に動いたらそれこそ取り返しがつかねえ!」


 ガシタが必死に制止するものの、相手は少しも思い留まる様子がなかった。

 赤い目をなおも血走らせて、動かぬ体を狂気で動かす。


「そんな……!? 何なのこの人たち……!?」


 明らかなる異常に、レーディも圧倒される。


「殺せ……! 赤ん坊と母親……!!」

「え?」


 泡と共に口元から零れる声。


「なんとしても……!! 赤ん坊と母親……!! 勇者を憎しみに引きずり込むために……!! 妻と子どもを……!! 殺す必ず……!!」

「!?」


 そのうわ言に、レーディの表情が凍り付いた。


「まさか、それって……!?」


 指しているのはマリーカとグラン。

 この凶賊どもの狙いはダリエルの家族。

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