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132 サカイくん、銃を作る

 あれからあと、冒険者リーリナから傅かれた。


「本当に申し訳ありませんでした……!!」


 謝罪の言葉と共に。


「アナタのことを疑い、刃を向けてしまったこと愚かとしか言いようがありません。たしかにアナタは大勇者アランツィル様の係累。新たなる時代の担い手です!」

「どうしたのいきなり態度変えて?」


 ついさっきまで『偽物撲滅』と言わんばかりに突っかかってきたのに。


「実際に相対して感じたのです。アナタが発する気迫、アランツィル様に勝るとも劣らぬ……、いやまったく同質のもの。アランツィル様のファン歴十五年の私が言うのだから間違いありません!」

「十五年って……!?」


『なんか他にやるべきことがあったのでは?』とも思うのだが、当人たちが真剣なので何も口出しできない。


「ローセルウィに同調はしましたが今日ここでの振る舞いで愛想が尽きました。この期に及んではアランツィル様の熱き魂を受け継ぐアナタ様の下で学ばせてはいただけませんか!?」

「いや、アナタはセンターギルドに戻ってA級の試験を受けるんでは?」


 たしかそう言っていましたよね?


「A級冒険者の資格などいつでも取れます! 今はそれよりもアナタに師事することの方が大切です! どうかお願いいたします!」

「「お願いしますうううッ!?」」


 いつの間にか他二人の冒険者も平伏していた。

 仕方がないので、彼女らはラクス村の冒険者ギルドに入れて働いてもらうことにした。


 ウチには既にセッシャさんとか成長したガシタとか、A級クラスがゴロゴロいるのに……。

 また戦力が補強される……!?


 ウチのような田舎村じゃ扱いきれない戦力が……。



 ローセルウィが逃げ帰って早五日。


 ヤツの動向は気になるものの。できることもなく俺は俺のできることを営み続けるのみだった。


 即ち、村長として日々ラクス村を維持発展させることであった。


 そのための最重要施設はミスリルを加工する鍛冶場。

 なので俺も、こまめに様子を見に行くようにしているが、今日もそういう目的での視察だった。


「見てください村長!!」


 鍛冶場のトップであるサカイくんが、これまたテンション高かった。


「新作です! 新作なんですよ! オレの新たな傑作を見てください!!」


 何かまた新しいものを作ったらしい。


 それを見て感想を述べてやるのも村長の仕事。

 せいぜい肯定的なことを言ってモチベーションを引き出してやるとしよう。


「で、何を作ったんだ? 剣か? 槍か? 斧か?」

「これでっす!!」


 サカイくんが差し出したのは俺の理解の範疇を超えるものだった。


「……何これ?」


 パッと見で何かわからない。

 刃がついてないから刀剣の類ではなかろう。鈍器というには小ぶりで軽すぎた。

 無論盾ではない。盾というべき平面な構造ではなかった。


 強いて形を説明するなら、短い棒? のような形態といえるが、真っ直ぐではなく途中で折れ曲がっている。


 L字? というような形態だろうか。

 殴って人の頭を陥没させるにしてももっと適切な形があるだろうし


「これは一体……!?」

「わかりませんか!? でしょう!? オレの画期的なアイデアの産物ですからね! では使い方を説明いたしましょう!!」


 いつもながら新発明完成直後のサカイくんのテンションはおかしい。

 ちょっと引くレベルだ。


「持つところはここです! グリップです! 持ちやすくなってるでしょう?」

「はいはい?」


 俺はL字に折れ曲がった棒の、曲がった一辺の方を持たされた。

 サカイくんの説明通り、そちらの一辺の


「そして、よく狙って……」

「狙う!?」

「そこです! オーラを噴出してください!」


 俺は言われた通り、謎の新発明へオーラを注ぎ込んでみた。

 急加速で。


 すると謎の新発明の内部を俺のオーラが駆け抜けていき、持ってる部分の逆側の先端から迸る。


「おおうッ!? 何ッ!?」


 俺が噴出したオーラが飛び出した!?

 しかもけっこうな勢いで。


「うーん、失敗かなあ?」

「何がッ!?」


 俺には成功失敗以前に何が起きたかすらわからない。

 早く説明をプリーズ。


「これは、ある発想の下にオレが開発してみた道具です。オーラそのものを遠方に飛ばすんです」

「オーラそのものを遠方とな?」


 それはまるで俺の『凄皇裂空』みたいなものではないか。


「村長の使う『凄皇裂空』は、凄まじいオーラ量に超絶技巧を組み合わせた奥義でしょう? 誰でも修得できるわけじゃない。なのでそこを道具の機能で補ってみようと思ったのです」


 ほーん。

 このL字型の道具を使って難易度を引き下げようと?


「でもダメですね。威力が想定に全然届いていません。基礎オーラ量がもともと高い村長でもこの威力なら実戦には全然使えません……!」


 よく見ると、俺の前方のけっこう先に的のようなものが立っていた。

 本来はあそこまで届いて的を吹っ飛ばすところまで想定していたのか? でも噴出されたオーラは、あの半分の距離にまでもいかなかった。


「……収束が足りてないんだろうなあ。オーラが早い段階で霧散してしまっている」

「なるほど……!?」

「オーラはそもそも物質に宿らせて使うものだから……」


 だからオーラそのものを飛ばす『凄皇裂空』も、そのための独自の工夫が施されている。


「そういう工夫を、この道具でオーラを飛ばす時にも施すか……。もしくはスティング(突)に意味化するだけでも随分違うと思うぞ?」

「ダメです! これはどんな適性の人でも、玄人初心者に関わらず威力を発揮できるように作ったんですから!」


 高い志だが、さすがにそれは無理があるんでは……?


 誰が扱っても一定以上の成果を上げられる。それが道具のあるべき効果だが、目指すところが『誰でも「凄皇裂空」を撃てる』というのであれば難易度は跳ね上がりすぎる。


「……あら、よさげな武器なのだわ」

「あッ、ゼビ様」


 なんかゼビアンテス登場。

 俺の手から、例の試作品をするりと抜き取ると……。


「こういうのはわたくしに使わせるといいのだわ、バーンだわッ!!」


 ゼビアンテスが、さっきの俺と同じようにL字をもって、力を込めて解き放つ。


 すると道具の先から放たれた透明の魔力が速やかに疾駆し、遠くにある的を撃ち抜くように弾き飛ばした。


「「おおおおーーッ!?」」


 俺もサカイくんも見事な成果に拍手喝采。


「凄いなッ!? 一体どんな工夫を施したんだ!?」

「単に風の魔力を込めただけなのだわ」


 そうかー。

 物質に込めることが前提のオーラに対して、魔力は魔力そのものを地水火風の属性に変換するからな。

 単体で飛ばすならオーラより魔力の方が適しているということか?


「この道具、魔力を集中して飛ばす術の代わりになるのだわ。ああいう術は集中とか遠くを狙うこととか得手不得手が分れることが多いから、こういう補助具があると便利なのだわ」

「だよなー」


 サカイくんはオーラを使う冒険者を助けるつもりでこれを作り上げたが、図らずも魔力補助の方に適しているようだった。


「ズガーンと魔力を放つからガンと名付けるのだわ。サカイくん、このガンを大量生産して魔族どもに売り込むのだわ!」

「ええええーーーッ!?」


 勝手に名前まで付けて。

 しかしガン(命名ゼビアンテス)は、冒険者より魔導士にこそ扱いやすい道具となろう。


「でも……、いいんですか村長?」


 サカイくんが助けを求めるように視線を送ってくる。

 彼の戸惑いももっともだろう。

 最近とみに忘れがちになるが、魔族は人間の敵。その魔族に武器を売るなど敵を利する行為で裏切りではないかと。


「まー、いーんじゃない?」

「村長ッ!?」


 ただ俺にとってはそれほど深刻な問題にも思えなかった。

 基本勇者と戦うのは四天王だけだし、魔王軍にはその他にもモンスターや盗賊山賊への対処も職務に含まれる。


 そうした雑務に、このガンとやらが役立ってくれれば、俺もかつて魔王軍に所属していた者として嬉しい。


「何より魔王軍にガンをたくさん売って大儲けできるからね」

「結局そこですかッ!?」


 今の俺にラクス村を守り富ませる以上に優先させることはない。

 ビジネスチャンスは最大限に生かすべきだった。


 人間とも取引し、魔族とも取引し。

 双方と関係のある俺だからこそできる方法でラクス村を豊かにしていきたい。


 そんな俺に災難が襲う。


 ローセルウィのヤツがついに動き出したのだ。

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