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130 ダリエル、オーラを使いこなす

 ずっと疑問に思っていたことがある。

 オーラは、武器だけにしか宿らせることができないのか? と。


 スラッシュ(斬)なら剣。

 スティング(突)なら弓矢。

 ヒット(打)ならハンマー。

 ガード(守)なら盾。


 ……とそれぞれの特性に見合った武具に宿らせなさい。そうすればこそオーラの力を十二分に活用できると言う。


 では、それ以外の物体物質に宿らせてはいけないのか?

 たとえば自分自身の体とか。


 斬突打守と意味化されていないオーラをまとって身体強化を行うことは今でも普通にされている。

 手錬の冒険者はそうすることで常人を遥かに超える運動能力を発揮し、さらに意味化したオーラをまとわせた武器も使うことで魔法を使う魔族に充分対抗できる。


 しかし斬突打守に意味化されたオーラを身体に宿らせれば、既にて何でも斬り裂けるし、砕けるだろう。


 武器は道具。

 どうしても自分の手から離れてしまう時もあるからその方が都合がいい。


 しかし、便利だからやろうというぐらいなら俺ごときが思いつく前に誰かが成し遂げているに違いない。

 人間族の歴史は長いのだから。


 俺自身色々試しているうちに、何故オーラを自分の体に宿さないのか、その理屈がわかってきた。


 オーラは、まず前提として物質に宿らなければ効果を発揮しない。

 何故物質に宿るか、宿った物質の『意味』を強化するためだ。


 スラッシュ(斬)なら斬り裂くという意味を。

 スティング(突)なら突き刺すという意味を。

 ……という感じで、どうせ宿らせるなら同じ意味を持った物質の方が都合がいいということだった。


 その点、人体というのは厄介だ。

 一つの中に多くの意味を内包している。


 手の平一つとってみても、拳で打ち砕き、手刀で斬り、五指で握り、あるいは撫でたり触れたりして親愛を表す意味も持つ。


 そうして多くの意味があるゆえに曖昧にもなる。

 多重の意味を持つものから一つの意味だけをオーラで強化するのはとても困難だ。


 大抵すぐさまバランスを崩して強化が解けるか、ヘタをしたら体自体に負荷がかかって自滅してしまう。


 恐らくオーラ運用術の発展の歴史としては、まず単純なオーラで肉体を強化し、そのまま武器を手に取り戦った。

 そのうち武器にもオーラをまとわせることを発想し、より武器の形態に適した斬突打守の特性オーラを編み出していったのだろう。


 複数の意味を持ちすぎる人体に、特性オーラを宿らせるのは無理だ。

 できるとしても相当精密なオーラ操作が必要とされるだろう。


 俺も色々と頑張ってみたが……。

 ……何とか可能になった。



「素手で我々の武器攻撃を防いだ……!?」

「自分の体に、ガード(守)特性のオーラをまとわせたというのか……!?」


 弾き返された冒険者たちは、目の前で起きたことにただ呆然とするのみだった。


 オーラ四特性の中でもっとも防御性の高いガード(守)のオーラを身にまとった俺は、まさに鋼の肉体。

 生半可なオーラをまとわせた武器ではかすり傷も付けられない。


「はあッ」

「「うぎゃああああああッ!?」」


 さらに追い打ちでオーラを放出し、その勢いで冒険者たちを吹き飛ばす。

 特定の意味を伴わない初歩的なオーラで身体を強化するのは、実力のある冒険者なら誰でもやっていることだ。


「凄い……! ダリエルさん自分の体に特性オーラを流し込めるなんて……!!」

「それでも、武器に宿らせた方がずっと効力を発揮できるし、効率的だけどね」


 人間族の冒険者が長い歴史をかけて構築してきた戦法なれば、それ以上に有効な技などそうそうないということだろう。


 しかし自分の体にも特性オーラを宿らせることで、戦術の幅は広がるはずだった。


「素晴らしい……、素晴らしいぞ……!!」


 傍から眺めて興奮する理事。


「これぞアランツィル様の血統……、魔族に完全勝利する勇者の力だ! いいぞ、いいぞぉ!!」

「お待ちくださいローセルウィ様」


 続いて前に進み出る一人。

 先ほど紹介に預かった三人の冒険者の一人だった。


「姉御……!?」

「リーリナの姉御……!?」


 他二人は俺に吹っ飛ばされて戦意を挫かれているので、実質彼女が最後の一人と言っていいだろう。


 周囲からの扱われ方や、当人の放つ気配からも彼女がリーダー格であることが窺い知れた。


「B級冒険者リーリナ」

「次の試験でA級になるってのはキミのことか?」


 ならばA級並の強さと思っておかないとな。


「なるほどたしかにお前には、アランツィル様の子息を騙る最低限の実力はあるらしい。しかし私は、この目この手でたしかめない限りお前を認めない」

「別にキミに認められる必要はないと思うんだがなあ」


 しかし向こうは情熱ゆえか、俺の主張をまったく聞く耳持たなかった。


 ただ激情の赴くままに戦闘態勢に入る。


「おお、なんか大仰な武器を持ち出してきたぞ?」


 大型だった。

 長い柄の先に、槍のようにとがった穂先と、斧の刃がついている。


「ハルバード……!?」


 俺と並んで目撃するレーディが言った。


「珍しい武器を使いますね、今時ハルバードなんて……!?」

「そんなに珍妙なのかい?」

「斧は元来スラッシュ(斬)とヒット(打)を複合するのに適した武器です。それに加え、槍の形態も備えたハルバードは一つで斬突打の三特性を備えた武器になる」


 またそれ系か。


「ですが、常に言われているように全特性を網羅するには持ち主もすべてに最大限の適性を持たなければならない。そんな超越者はまずいない上にハルバードは大型で取り回しも難しく、使い手が廃れたと聞きます」

「でもあの子使ってるよ?」


 リーリナとか言ったっけ?

 気迫はプロでも体型は一般的な女性サイズなのでなおさら大型のハルバードが異質に見える。


「私が目標とするアランツィル様こそすべてのオーラ特性に適性を持つ超越者。ゆえに私もアランツィル様に近づこうと全適性者を目指している! そのためのハルバードだ!」

「……オーラ適性が後天的に変化するって?」

「ないと思いますが……!?」


 レーディの回答に俺も『そうだよなあ』と思う。


 さてどうするか、ヘルメス刀を見せて真の全適性者たるものを見せつけてもいいが、さすがにそれもうパターン化してきたよな。

 たまには別のアプローチを試してみるか。


「アランツィル様に捧げる一撃を食らえ!」

「へーい」


 大型武器だけに大味な大振りの攻撃を難なく避ける。

 彼女、たしかに実力はA級と言ってよいかもだが、やはり武器のチョイスが最悪だった。

 身の丈に合わない重量体積で実力の半分近くが殺されている。


「キミに全力を出すまでもないな」


 そう言って俺は、彼女の前に手の平を差し出した。

 間合い的に手の平は彼女に触れないが、触れないだけで相手は押し潰すように吹き飛ばされた。


「がはあああッ!?」


 リーリナは吹き飛ばされる勢いのまま上空を弧を描いて飛んだ。

 まあA級に合格できるぐらいの実力の持ち主なら、あのまま地面に激突しても大丈夫だろう。


「ダリエルさん!? 何ですか今の!? まったく触れていないのに相手が吹っ飛びましたよ!?」


 レーディが混乱するのも仕方がない。

 今の攻撃法は、これまでの冒険者の技術には存在しないものだから。


「空気にオーラを流し込んだんだよ」

「空気!?」


 空間中にあまねく空気。

 その特定範囲内にオーラを流し込み、操作できるようにした。


 特性を持たせることはなかったが、空気中の圧力を操作して人一人跳ね飛ばすぐらいわけない。


 これもオーラでできることを様々に研究した結果、発見した利用法だが、冒険者にこれを編み出すことはできないだろう。

 何故ならこれは、魔族の魔法運営法を応用した使い方だから。


 俺が魔族として生きていたころ、魔族として魔法を使うために様々な修行勉強をした。

 真の種族が人間族である俺は、結局魔法を使えず無駄な努力をしかたに見えた。

 しかし、真に自分が扱うべきオーラと出会った時、幼少修めていた魔力を扱う感覚が非常に有効に働いた。


 恐らく魔力もオーラも根は同じものなのだろう。

 だからこそ俺はオーラの力に開花してすぐさま完璧に扱えるようになった。


 オーラを空気に浸透させ操る闘法は、風魔法の制御訓練で得た感覚を応用したもの。


 それでも実戦には使えないだろう。空気を操るパワーと精密さにかけては本家の風魔法が圧倒的に上だ。


「空気にオーラを……!? そんなこと考えたこともありませんでした……!?」

「有効じゃないからだろうな。空気に斬るだの突くだのの意味を与えるのは人体へそうする以上に困難だ。せいぜいも特性オーラで圧力を操る程度のものだろう」


 だから主戦力としては無理だが、まあ戦術的に組み合わせて不意打ちなりけん制なりには使えるだろう。

 日々研究なのである。


「素晴らしい!」


 そして理事ローセルウィは興奮しながら駆け寄ってきた。


「あの実力者たちを簡単にあしらってしまうとは! 何と言う実力、何と言う妙技! まさにアナタこそ勇者となるために生まれてきた御方!!」


 はしゃぎ回る。


「アナタは見事このセンターギルド理事ローセルウィに認められました! アナタを勇者に推戴します! これより力を合わせて魔王討伐の偉業に! 共に!! 邁進いたしましょう!!」

「けっこうです」


 俺は速攻で断った。

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