129 ダリエル、実力を示させられる
センターギルド理事ローセルウィは俺のことを知っていた。
俺とアランツィルさんとの血縁を。
どうやらゼスターのヤツから聞き及んだらしい。
『勇者の位を返上する』と言ってセンターギルドへ戻っていったあやつだが、まさかそんな速攻で秘密を洩らしやがるとは。
いや、『秘密にしろ』などとは一回も言ってないが。
ゼスターの男気にほだされて、つい身上を語ってしまったのは早まったことだったか。
「アナタに会えて光栄です!」
ローセルウィさんとやらは俺の両手を握って上下にブンブンしだした。
「アナタのことを聞いて半信半疑でここまで来たのですが、遠出の甲斐はありました! アランツィル様のオリジナル奥義『凄皇裂空』。それを自在に扱えることこそ親子の証! 話は真実だった!!」
「あの……、まさかそれだけをたしかめに、ここまで?」
わざわざ?
「もちろんです! アランツィル様の強さを受け継ぐ豪傑がいるというならば、この目で確認するのはセンターギルド理事として当然の務め! いや安心しました! ここまで有力な新勇者候補が挙がるとは!」
「はあッ!?」
その言葉にビックリ仰天。
まさかこの人……!?
「まだ新しい勇者を探しているのか!?」
本来一世代に一人のみの勇者。
それを同時期に複数用意するという試みが最近実施されたばかりだった。
しかしその試みは混乱をきたすだけで期待外れに終わった。
俺の住むラクス村にも相応の迷惑をこうむって。
だからもう企画としては終焉とばかり思っていたのに……!?
「まだ諦めていなかったのかッ!?」
そういえばこの理事。
ローセルウィという名前。
例の複数勇者擁立を主導してきた理事が同じ名前じゃなかったっけ?
誰かから聞いた気がする。ベストフレッドさんからだったか、三勇者当人たちからだったが……?
それはどうでもいいか。
「アランツィル様に生き別れの御子息がいるという話は聞いていましたが、ご当人がギルドの味方となって戦ってくれるとは感激です! これで魔王の命運は尽きたも同じ!!」
「いやいやいやいや……ッ!?」
なんか勝手に話を進めようとしておるよ?
「ローセルウィ理事、アナタまさか……ッ!?」
困惑する俺に代わってレーディが食い付いた。
「ダリエルさんを勇者にしようと言うんですか!? また新しい勇者を擁立する!?」
「これは必要なことなのです」
本来の勇者であるレーディから迫られても、少しも怯まない理事。
そういうところは重役の胆力であった面倒な。
「魔王を倒すことこそ勇者の目的、それはアナタとてわかっているはずです。いいえ実際勇者に抜擢されたアナタだからこそ!」
「それは……、まあ……!?」
さすがに勇者の口から『違う』とも言えないか。
「しかしセンターギルド創設以来。……いや勇者という存在が世界に現れてからまだ一度も、その悲願は達成されたことがない。アナタはそれでいいと思いますか? 現状を是としますか?」
「それはもちろんダメかと……!?」
そう言うしかないよね。
「だからこそ現状を変えねばならない。これまでのやり方で失敗したのですから、同じやり方を続けて成功を勝ち取れるなどありえません! だから私は新しい手段を模索しようというのです! ……そしてついに……!!」
彼の目が俺の方を向く。
ドン引きするぐらい瞳がキラキラ輝いていた期待で。
「もっともたしかな希望に出会えた……! すべてはゼスター殿による情報提供のおかげ……!」
やっぱりアイツか。
「ですが……、結論を急いではいけません。性急さはしくじりの糸口。私は人間族の悲願を達成するため、どのような方向で引っ張ろうとほつれることのない重厚な計画を織り上げねばなりません」
ローセルウィ、手を上げた。
何かの合図だろうか。呼応するように離れたところから人が寄ってきた。
全部で三人。
いずれも屈強の体つきで、カタギでないことは一目でわかる。
「冒険者……」
しかも手練れであることを気配が示していた。
「アロン、ブスタ、リーリナと言います。私が懇意にしている冒険者たちです」
ローセルウィが自慢するように言う。
「いずれもB級冒険者で、中でもリーリナは近々行われるA級昇格試験で合格確実と言われる実力者です。アナタの実力を計るにはもってこいの相手かと」
「アナタまさか……ッ!?」
俺に代わってレーディが荒ぶる。
「アランツィル様の正統な後継勇者となるのなら、この程度の戦力蹴散らして当たり前。『凄皇裂空』一撃のみでは確証になりませんからな。もっと詳しくアナタの力を見せていただきたい」
「無礼すぎます!」
レーディがついに激高した。
「そちらから押しかけておいて勝手を言って、ダリエルさんの都合も考えたらどうです!? あまつさえ試させろなど何様のつもりですか」
「どうか、お控えください勇者様」
勇者の激情を受け止め、なおかついなしたのは紹介されたばかりの冒険者たち。
たしかリーリナとかいう名だったな。
「我々が無理を言ってローセルウィ様に願い出たことでもあります。アランツィル様の血統を名乗る男の、それが真実であるかどうかを」
「ふてえ野郎だ! アランツィル様の息子を騙るなど!!」
冒険者の一人が気を昂らせる。
「お前は、アランツィル様がどういう存在かわかっていないようだな!? オレたち冒険者にとって!!」
「数多くの歴代勇者においても一際の強猛さと、覇気を伴ったアランツィル様! その存在は既に伝説! 我々はあの大勇者様と同じ時代を生きることに感謝しきれぬぐらいだ!!」
「それを貴様! 気軽にあの方の子息を名乗るなど! 身の程知らずもおこがましい!」
「あの御方に起きた不幸は、冒険者たちの一部では知られたこと! 世界にたった一人だけのあの方のご嫡男は……、魔族にさらわれ……!!」
「もはやこの世のものではないはず……!!」
口々に怒りの声を上げる屈強冒険者たち。
途中で何だか声が潤み出した。
「しかるに! あのお方の心に傷を抉るがごとき虚言! 許すわけにはいかん!!」
「どうせ自分に箔付けしようと、伝え聞いた話を利用したのだろう! しかし浅はかだったな! アランツィル様を侮蔑するような言動は、アランツィル様を敬愛する我々が許さん!!」
殺気全開で俺を睨みつける冒険者たち。
つまり熱烈なアランツィルさんのファンの人。
ゼスターだけじゃなかったのかこういう手合い……?
「それだけアランツィル様が偉大な勇者だったということですが……。彼らはちょっと度が過ぎているように思えますがね」
レーディも呆れるように眺める。
しかし相手のヒートアップは収まらず、まず三人のうちの二人が、残り一人に向けて言う。
「姉御! ここはオレたちに任せて下さらんか!?」
「昇格試験を控えたアンタにくだらん輩を近づけたくはない! ケチが移っては大変だからな!!」
そう言ってそれぞれ武器をかまえた。
『力を試す』、その続きなのだろう。
「これから貴様を力いっぱい殴りつけてやる! アランツィル様の才を受け継ぐというなら簡単に捌けるはず」
「逆に違うというなら、骨が砕け、手足を斬り落とされる惨劇を罰と受け取るのだな! 軽々しくアランツィル様の英名を利用しようとした不届きさの!」
「死ねええええ!!」
「死ねやああああああッ!!」
おもっくそ殺す気であった。
こちらの返事も待たず襲い掛かってくる二人のうち、一方はハンマーを振り上げ、もう一人は剣。
このまま何の対応も取らなければ、たしかに俺の体は砕け、両断されることだろう。
無論それらは望ましくない。
俺の体はこれからもマリーカとグランを養っていくために四肢満足で必要なのだから。
こんな連中によって指一本損なわせるわけにはいかない。
なので防いだ。
「「!?」」
ハンマーを右手で、剣を左手で。
素手のまま防いだ。
「バカな……!? オレたち渾身の攻撃を防いだ……!?」
「いや、ただ防いだだけでなく、盾も使わず素手で……!? そんなことできるわけが……!?」
俺は、凶器を向かえ防いだ手にさらに力を込めた。
それだけで武器は粉々の破片になって砕け、その持ち主である冒険者たちは体ごと吹っ飛ばされた。
「「うぎゃああああああ~ッ!?」」
ふむ、やはりゼスターやアルタミルに比べると格段に弱いな。






