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12 ダリエル、昔の職場を訪問する

 疑問に思うかもしれない。


 魔族の戦いは魔法によって行われる。

 だから人間族のように武器を必要としない。


 なのになんでミスリルを求めて、人間族から鉱山を奪ったのか? と。


 無論、魔族にとってもミスリルは重要な意味がある。


 ミスリルは、魔力の吸収率がとても高い鉱物なのだ。


 その特性を利用して、魔法の補助に使われる魔導具が大抵ミスリル製。

 未熟な魔法使いの魔力安定を助ける道具。あらかじめ魔力を溜め込んでおいて必要な時に放出する道具。

 色々な種類の魔導具があるが、その素材はほぼミスリル。

 高級なものならなおのこと。


 そんなわけで、ミスリル鉱山は魔族の重要拠点の一つとして厳重に守備されてきた。


 ラクス村の近くにあるとは露知らず。

 でもまあ、あると知ったら訪ねてみるかな? という気持ちが湧いてきた。


 訪ねてどうしようという意図もないのだが。


 俺が去ったあとの魔王軍がどんな具合になっているか、ちょっと気になったり?

 あとは、ほんの少しでも採掘したミスリルを横流ししてくれたら、ラクス村の潤いになるかなあとか卑しいことを考えての結果だ。


 さすがに俺の前歴を明かすわけにもいかないので、マリーカらには「森の見回りに行ってくる」と称して出発。


 道順もそれとなく聞いていたので、迷わず目的地に到着できた。



「……本当にあったよ」


 見渡す鉱山地帯は、たしかに見覚えがあった。


 話を聞いただけでは『状況がよく似た別の場所かな?』という疑いが最後まで捨てきれなかったが、この目で見て確信した。


 ここは俺が四天王補佐だった時代、魔族の重要拠点として担当していた。


「いやー、世の中狭いもんだなあ」


 というかラクス村って、魔族領と人間領の境界辺りの位置にあったんだな。


 この鉱山もちょうど境目辺りにある。

 だから人魔両族による壮絶な奪い合いがあった。


 俺も、魔王軍をクビになって失意の放浪を続けたが、結局のところ魔族領をちょっと出たぐらいしか進んでなかったんだな。

 所詮そんなもんか。


 という風にラクス村周辺の地理が脳内に鮮やかに組み上げられていく。

 それができただけでも、ここまで来た価値はあったな。


 さて。


 ではもっと本格的に鉱山を覗いてみよう。

 もう魔王軍の関係者じゃないから、見つからないように慎重にね。



「…………」


 鉱山都市部に侵入できました。

 何だろうこのザルぶり?

 ビックリするぐらい簡単に入れたんだけど。


「警備が緩くなってる……?」


 少なくとも俺が鉱山を出入りしていた頃には考えられない緩さだ。

 俺がいた時にこんな杜撰な状態だったら首が飛んでる。俺の。


「何かあったのか……?」


 違和感は、ほどなく色濃い疑惑へと変わる。

 さらに異常の確信に至るまでそう時間はかからなかった。


 あまりにも寂れている。

 荒廃している。


 本来ならここは、黄金にも匹敵するミスリル鉱石を掘り出す大鉱山ではないのか?

 もっと熱気があって、賑わっていてもいいはずなのに、さっきから誰とも擦れ違わない。


 まるでゴーストタウンだった。


 戸惑いながら進んでいるうちに、ついに坑道入り口まで来てしまった。

 鉱石を採掘するために掘られた穴。

 鉱山でもっとも重要な地区。心臓部と言っていい場所だ。


「こんなところまで難なく侵入できてしまうなんて……!?」


 もう完全におかしい。

 何かあったに違いない。


 俺はもう身を隠すとか、そんな配慮も忘れて坑道の深い穴へ叫ぶ。


「おおーい! 誰かいるかーッ!?」


 いるかー?

 いるかー?

 かー?

 かー?


 坑道に反響する声。

 これならかなり奥にも届くはずだ。


「…………」


 程なくして、坑道の真っ暗な奥底にチカチカと明かりが見えた気がした。

 いや、気のせいじゃない。

 ちゃんと明かりがある。

 カンテラらしき明かりが段々と近づいて、やがて明かりを持つ者の顔までくっきり見えるほどに近づいた。


「ノッカーたちか……!」


 坑道から出てきたのは、小人だった。

 背が小さくて、手やら足やらが棒のように細い、眼球がくぼんで、代わりに異様に鼻が尖っていて……。

 そんな明快な特徴を持った者が、一人ならず何人も。

 全員まったく同じ外見。


 彼らはノッカーという亜人種。古くから魔族に服従している。

 光が苦手で洞窟に好んで住まう。

 その習性を利用し坑道での採掘作業を任せることが多い。


 ここミスリル鉱山でも魔王軍主導でノッカーが大量に送り込まれて、鉱石採掘の仕事に従事していた。

 それが彼らだ。


「……ダリエル様?」

「ダリエル様だ!?」

「本物け? 夢じゃないだか!?」

「夢でも幻でもねぇだ! ダリエル様だ! うりぇーーーーッ!?」


 ノッカーたちは、俺の姿を確認すると雪崩を打って俺の下へ駆け寄ってきた。

 かつて魔王軍所属として鉱山運営に協力していた俺は、彼等と顔馴染だ。


「久しぶり、皆……!」


 彼等とは、担当が代わって任地から去って以来のことだ。

 見た感じ変わりなくて、俺も安心したが……。


「なあ、この鉱山で何があったんだ? ここに来る途中、誰の姿もなくて廃墟みたいだったんだけど?」


 この荒廃ぶりは、何か異常があったに違いない。

 答えを教えてくれそうな相手にやっと出会えたのだ。俺は質問を急いだ。


 だが、ノッカーたちは見る見る表情を歪め……。


「うわあああーーーーーんッ!」

「んひぃん! んひぃいいいいんッ!!」

「あばばばばばばばばばば……ッ!」


 皆揃って泣き出した。

 号泣の大合唱。


「ええええッ!? 何!? どうしたの!?」


 元から困惑している俺はさらに困惑。

 結局俺は、ノッカーたちが泣き疲れるまで根気よく慰め待たなければならなかった。


 根気よく待って……。



「四倍ッ!?」


 ノッカーたちから話を聞いて、俺は仰天した。


 何が四倍なのか?


 決まった期日までに納めるミスリルの量が、俺が担当だった時期の四倍に上がっているのだ。

 暴利。


「一体なんでそんなことに!? 誰がそんなバカげた指示を出したんだ!?」


 我がことのように憤慨すると、ノッカーたちは同情が嬉しかったのか、再びワンワン泣き出す。


「ダリエル様がいてくれた頃が一番よかったですだ! 無理は言わないし、気を使ってくれるし……!」

「担当が代わってもしばらくは普通にやってこれたんです。でも最近になって急に……!」


 要求が無茶になったという。


「もっとたくさん掘り出せるはずだとか、お前らサボッとるだろうとか難癖つけられて……!」

「定期のノルマがどんどん上がっていって……! 気づけば倍、その倍に……!」

「節約だ言うて警備の兵士も引き上げちまうし、夜逃げする者もあとを絶たんで、どうしようもなかったですだああーッ!!」


 そりゃあノッカーたちも泣きたくなるだろう。


 ミスリル鉱山荒廃の原因はわかった。

 しかし益々わからないのは、そんな無茶苦茶な指示を誰が出したかと言うことだ。


 魔族勢指折りの重要拠点だぞここは。

 何よりも大事に扱わなければいけないのに、おのずから崩壊させるようなバカ指示を出したバカはどんなバカだ!?


「かなり偉いお人からの命令だあ聞いとります。……なんつったっけかの?」

「ばかばっか? ばかですか?」

「いんやぁ、もっとハイカラな響きだったべよ。ばす……、かす?」


 ノッカーたちの要領を得ない発音を俺なりに解釈した結果。

 浮かんだ名は……。


 バシュバーザ。


 新たに四天王となった『絢火』のバシュバーザ様。

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