128 ダリエル、珍客を迎える
色々経って、我が息グランも随分と大きくなった。
生後半年といったところか?
この時期の赤ちゃんは一日一日が進化の連続であり、一日と空けず親の目を驚かせてくれる。
最近もそうだが、特に驚かされたのはハイハイを始めたことだった。
手足を使って家の中をところかまわず這い回る。
「だあだあ」
「はぉうぁ~、グランは今日も元気だなぁ~」
息子のあまりの可愛さに変な声が出た。
ウチの子は可愛い。
恐らく世界一可愛い!!
そして日々の成長によって機動力まで手に入れた我が子は室内を縦横無尽に駆け回るのだった。
「だあだあだあだあだあだあだあだあだあだあだあ……!」
「速いッ!?」
割と凄まじい速度でハイハイし回る赤子。
高機動だった。
目敏くドアの隙間を突破しようと試みるのでこっちも阻止に全力。
気が気ではない。
しばらくはこの好奇心の獣との攻防が続きそうだった。
「あなたー、グランと遊んでないで仕事してー?」
「子どもの安全を必死で守っていたのに!?」
マリーカの物言いは時々酷い。
「それよりアナタにお客様よ。村長として出迎えないわけにはいかないんじゃない?」
「客?」
おかしいな。
今日の予定では外から誰かくるなどという話は入っていなかったが。
唐突な来客は大抵トラブルの始まり。
俺は用心しながら客とやらを出迎えた。
◆
「センターギルド理事のローセルウィです」
偉い人だった。
理事といえばセンターギルドのトップの役職。
人間族が運営する冒険者ギルド。各町村に一つはあって全体的には無数にあるギルドをまとめる存在がセンターギルドで、そのセンターギルドのトップが理事会だ。
つまりトップの中のトップ。
魔族に照らし合わせれば、それこそ四天王の地位に相当するだろう。
そんな偉い人の一人が、何故こんな田舎村に?
「……」
ちょうど一緒に遊んでいた時分なので、勢いでグランくんも連れてきてしまった。
俺の膝上から真正面に相対していたので、客人のことを見据えつつ『……なんだ男かあ、ちッ』という表情をした。
以降、客人からは完全に興味を失いむずがるのでマリーカへパスする。そのままどこぞへと連れていかれてしまった。
「……アナタがダリエル殿でよろしいでしょうか?」
「はい? そうです俺がダリエルですが?」
何やら唐突な印象のある確認だが……。
俺がダリエルだとしたら一体何なのだろう?
「………………ッ!?」
「なんです?」
「あッ? いえいえいえ…ッ!?」
何だろう?
このセンターギルド理事さんの俺を凝視してくる視線が何故か暑苦しい。
こんなの我が息グラン以外でもドン引きして退出したくなる。
「……いや、しかしここは実によい場所なのでしょうなあ……!?」
「?」
漠然とした評価で俺、困る。
唐突に『いい』とか『悪い』とか言われても主語すらハッキリしていないのじゃ、どう受け止めていいのやら。
「……この村では、多くの勇者が修行の場に選んでいるようですから」
勇者ってレーディ一人しかいないはずですけどね?
「レーディに御用ですか? なら呼んできますが?」
「いやいやいやいやいやいやいやッ!?」
なんか猛烈に止めてきた!?
本当に一体何なんです!?
「私が言いたいのはですな……! この村には、多くの勇者が腰を落ち着ける理由があるのではないか! ということです。たとえばそう……、優秀な指導者がいるとか……!?」
「?」
何を言おうとしているのか益々わからない。
「いや、そうだ……!? たしかに勇者の動向は気になりますな。彼女の修行風景などを見学させてもらえませぬか」
「見学? 修行を?」
こちらへ呼ぶのではなく?
益々理事さんとやらの意図が理解できず、不審になる。
一体この人は何を狙ってラクス村へやってきたのだろうか?
◆
そうは言っても偉い人の要請。
無視するわけにもいかずローセルウィさんとやらをレーディの下へ案内する。
彼女はいつものように村外れで修業に勤しんでいた。
「おやつ後の腹ごなし運動なのだわ。えーい」
何故かゼビアンテスも一緒にいた。
レーディと模擬戦形式で訓練しておられる。
「今日も私が勝ち越すわよ!」
「はぁーッ!? 勝ち越してるのはわたくしの方なのだわ! 風評被害はいけないのだわ!」
仲良く一緒に訓練しておる。
レーディは四天王を突破するため、ゼビアンテスは勇者を阻止するための修行というべきだが。
それを当の宿敵を練習相手にするのはどうかと……!?
『訓練とは血を流さない実戦である』とか誰かが言ったらしいが、まさにそんな感じだった。
仲のいいこと……!?
「あの……ッ!? 勇者と互角の戦いを繰り広げている、あの絶世の美女は一体……ッ!?」
しかしあの光景、部外者から見れば異様極まるもの。
センターギルド肝煎りで選出した勇者相手に一歩も引かない、しかも明らかに冒険者のものでない戦い方をする(つまり魔法)。
あの貴婦人は何者か?
「…………」
追及されると厄介なのでゼビアンテスはこの場から退出してもらうことにしよう。
「おーい、ゼビよ」
「何なのだわ?」
「マリーカがお菓子拵えてたぞ」
「!?」
その言葉は効果覿面。
「お菓子!! それはぜひ食べたいのだわ! ママさんのお料理は素朴で野趣があって絶品なのだわー!!」
その語彙、賞賛の意味合いなんだよな?
お菓子より優先されるものがないのは女の子の常。
マリーカがいるであろう村長邸へ向けて、風魔法で文字通り飛んで行ってしまった。
「お菓子!? じゃあ私も……!!」
「待ちなさい」
レーディも一緒に駆け出しそうになったので慌てて止めた。
甘味は女の子を誰彼かまわず一掃するのか。
「キミは行ってはいけません、お客さんだぞ」
「お客さん?」
それでやっと彼女とローセルウィさんを引き合わせることができた。
「センターギルド理事!? 何故そんな大物が!?」
俺も聞きたいよ。
「まさか……!? また私のことを急かしに? 今度は理事直々に!? 私が修行のために魔王討伐を休止していると言っても急かし過ぎじゃないですか!?」
レーディは、度重なる催促にうんざりする様子で言った。
彼女は勇者としてはとても真面目なたち。
その彼女が腰を据えて準備しようというなら、それが本当に必要だということだった。
その彼女の判断を、周囲からあれこれ言われるのは不快なことだろう。
度重なればなおさら……。
「いえ、私の用件は別で……。むしろそちらはどうでもよく……」
どうでもいい?
ギルドにとって最優先事項であるはずの勇者関連がどうでもよくて、ではこの人は一体何のために来たというのか、ここまで?
益々困惑していると、さらなる混乱のきっかけが空より舞い戻ってきた。
「こらー!」
ゼビアンテスだった。
得意の風魔法で空を飛んでくる。
「ママさんお菓子なんて作ってなかったのだわ! むしろ晩御飯用の煮っ転がし作ってて味見させられたのだわ! それはそれで美味しかったけど、既に甘いものモードになっていたわたくしの舌に混乱をきたしたのだわ!!」
速攻ウソがバレた。
しかも案外お怒りのご様子。
「アナタ最近わたくしのことを舐め過ぎなのだわ! わたくしの恐ろしさを忘れたというなら思い出させてあげるのだわ! この魔王軍四天王『華風』ゼビア……、ぎゃーッ!?」
それ以上は言わせないよ?
俺は即時に『凄皇裂空』を放って空飛ぶゼビアンテスを撃ち落とした。
重要人物の前であまりに不用意な発言だったため、ついの必殺技だが、破壊力を抑えて吹っ飛ばす力を優先させての威力調整なので、まあ怪我はするまい。
何せアイツも四天王の一人だし……。
「お見苦しいところをお見せしました。あちらはかまわず好きなだけお話を……」
「お、おお……ッ!?」
なんだ?
ローセルウィさんの様子がおかしい?
「今のはたしかに『凄皇裂空』!? 最強勇者の代名詞と言える技! それを使うアナタはやはり……!」
さらに言った。
「先代勇者アランツィル様のご子息!?」
……。
どうやら俺も相当不用意だったようだ。






