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126 ダリエル、情報網を手に入れる

 こうして魔王軍の諜報員、暗黒密偵セルメトとの再会を果たした俺。

 俺が魔王軍から離れたあとの経緯も語って聞かせなければならなかった。


「……なるほど、よくわかりました」


 セルメトは案外すんなり俺の話を聞き入れた。

 けっこう受け止めきれないポイントとかあった気がするんだけどなあ?


「たとえ何者であろうと、ダリエル様は私たちの主。必要となさるなら何なりとご命令ください」

「本当にいいの? そもそもキミたち魔王軍の一機関だし、あまり俺の勝手で動かすのは……?」

「何度でも申します。我々は魔王軍のためでなくダリエル様のために存在します。ダリエル様が魔王軍から離れた以上、私たちには魔王軍への義理などありません!」

「あると思うけどなあ……?」


 しかし彼女らがそう思ってくれるなら、好意に甘えさせてもらおう。

 どの道今の俺には、彼女たちの情報収集能力が必要だった。


「ではキミたちに頼みたい。ある者の情報を集めてほしいんだ」

「先ほど言われた赤マントのことですね?」


 セルメトは密偵だけあって察しがいい。


「そう、非正規勇者たちによるミスリル強奪未遂事件。その黒幕には赤マントを被った謎の存在ということで間違いないらしい」


 セルメトに対して申し訳ないのは、相手を探し求めるために『赤マント』以外の特徴がないということだ。


「かなり漠然とした調査になると思うから、人間側で起きている不審なことを逐一俺に伝えてくれた方がいいだろう」

「ダリエル様は……、その赤いヤツが脅威になるとお考えに?」


 探るようなセルメトからの質問。


 たしかに現時点で、その赤マントに関するすべてが漠然とし過ぎている。

 ゼスターたちを乱心させた犯人なのはたしかだが、今のところそれ以外明確な被害はないし、関係ないと打ち捨てても何ら問題ないように思える。


「でも嫌な予感がするんだ……!」


 勇者たちを乱心させた洗脳魔法。

 それでいて数少ない目撃者の証言では『凄皇裂空』に似た技を使用したという。


 魔法とオーラによる武器の技。

 本来一人が併用することは絶対にない二つの技を使い分けたという珍事。


 実に不気味な存在に思えた。


「……わかりました。ダリエル様の予感が的外れであったことは一度もありません。その推察を事実に変えるため、我ら過去と同様に働きたいと思います!!」

「うん」

「……のですが」

「うん?」


 急にセルメトの言葉の歯切れが悪くなった。


「その、ダリエル様のために働きたいのは山々なのですが、先ほども申しました通り、私たちは魔王軍より解体を命じられました」

「正確にはバシュバーザからだけどね」

「当然活動費として支給される金銭もなく、活動は完全に滞っています。情けない話ながら『資金』という問題を解決しない限りダリエル様のお役に立つことは……!」


 断腸の思いでみずからの窮状を吐露するセルメト。


 それも仕方ないだろう、どんなことにも費用はいる。

 考えていない俺ではなかった。


「大丈夫だよ、これを使いなさい」


 そう言って彼女に革袋を渡す。


「おもッ!?」


 受け取った途端セルメトは革袋の重みに危うく落としかけた。


「この袋の中身……、もしや……!?」


 中身を確認して驚く。


「金貨ですか!? この袋の中全部!?」

「当面の活動費として納めておいてくれ。……安心して、ヤバい金じゃないから」


 ラクス村も最近相当儲かっているので。


 主産業のミスリル加工を軸に、ゼビアンテスの建てた豪邸や勇者であるレーディ自身など観光資源もできた。


 そうして得た金銭を村長として、ある程度自由に運用することができた。

 たった今セルメトに渡した金は、その中から捻出したものだ。


「ラクス村全体の利益のために使われる情報なら、皆納得してくれるだろう」


 赤マントのことのみに限定しない。村のために役立つ情報ならなんでも集めてきてほしい。

 ミスリル武器の生産が活発になっていけばいくほど、ラクス村も内外との関係性を考えなくてはならなくなる。


 様々な情報を、金を出して買うことは損にはならないはず。


「ダリエル様……! 了解いたしました!」


 セルメト、金の入った袋を持って立ち上がる。


「ダリエル様からの資金を持って活動すれば、これはもう名実ともに我々はダリエル様の機関です! ダリエル様のために粉骨砕身働かせていただきます!」

「うん、よろしく頼むよ」


 困窮していたセルメトたちも励ませて一石二鳥。


「……夢みたい、またダリエル様と一緒に活動できるなんて。……しかも魔王軍のためじゃない、完全にダリエル様のために!? 私の集めた情報でダリエル様に貢献し、どんどん勢力が大きくなって……、やがてはダリエル様が世界の支配者に!? その時隣にいるのは私……!!」


 なんか一人でブツブツ呟いておるセルメトだが。



「……あ、そうだ」


 ついでに紹介しておこうと思った。


「マリーカ、ちょっと来てー?」

「はいー」


 呼ばれてやってくるマイワイフ。

 その腕には当然のように抱かれている赤ん坊。


「コイツを見てほしい」


 マリーカから渡される我が最高の宝を示す。


「え? あの……!? ダリエル様それは……!?」

「ウチの子だ」


 そう。

 そろそろ生後半年近くたってなおさらワンパクになってきた我が息グラン。


 誰か訪ねてくるたびに見せびらかしたくてたまらない。


「子!? 子ども!? ダリエル様が生んだ!?」

「いや生んだのは俺じゃないけど……? 父親は俺だよ可愛いだろう?」


 グランくんも初めて見るお姉さんに興味津々で、セルメトへ向かって手を伸ばす。


「よかったら抱っこしてみる?」

「はあ……?」


 セルメト、何故か心ここにあらずという風でグランを受け取り、胸に抱く。

 そして我が息グランは当然のようにセルメトのおっぱいを揉み出すのだった。


 ……。

 そろそろ真剣に対策を講じた方がいいかもしれない。グランの女性のおっぱい揉み癖について。


「……ということはダリエル様? 結婚なされたということですか……!?」

「うんまあ、こちらが俺のカミさん」


 と傍らのマリーカを示す。


「夫がお世話になっています。どうかこれからも家族ともどもよろしくお願いしますね?」

「はあ……ッ!?」


 セルメト、どうしたのかグランくんを返すと足元がおぼつかなくなってフラつきだした。


「おおッ!? 危ないッ!?」


 俺はグランくんを抱っこしているために手が離せず、代わりに彼女を受け止めたのはレーディとゼビアンテスだった。

 さっきから傍にいたのは気づいていたが。


「ダリエル様が結婚……!? ダリエル様が結婚……!?」

「しっかり! 気をたしかにもって!!」「その気持ちたしかにわかるのだわ! 我々は同志なのだわ!!」


 なんだこの騒ぎは?



 その後改めてセルメトとの親交を深める意図での食事会となり、同席するレーディやゼビアンテスを紹介することになった。


 さすがに驚いていた。


 こうして俺は、物事を行うのに必要な情報を収集する手段を手に入れたのだが、早速それが功を奏する事態に出くわすことになる。

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