121 ゼビアンテス、家を建てる
再開です。
今回からまた隔日更新でよろしくお願いします。
ゼビアンテスの女郎がいきなり言い出した。
「家を建てたいのだわ」
「ん?」
いきなりすぎて意図が伝わりづらかったから念のためにもう一度聞いてみる。
「何がしたいって?」
「家を建てたいのだわ」
聞き間違いじゃなかった。
そんな気楽に言われてもなあ。
「……建てたいなら建てればいいじゃない?」
認めたくはないことだがゼビアンテスは四天王の一人。
魔王軍の頂点に立つ者として権力もあれば財力もある。
家の一軒や二軒、建ててしまうことぐらい余裕だろう。
俺のような一般民から見れば羨ましくもあり妬ましくもあるが……。
だが、見方を変えれば喜ばしいことでもある。
「じゃあやっと帰ってくれるということなんだな?」
新しい家を建てるということは、そこに住むということでもあり、それ以前にも色々準備はあるのだろう。
そのために一度魔族領に戻るに違いない。
なんかラクス村に半定住みたいな感じになっているゼビアンテスだが、その不可解な状況がやっと転換されるということだった。
「何を言っているのだわ?」
そんな俺の期待は一蹴された。
「帰るわけがないのだわ、わたくしの家がここに建った時こそ、本格的な生活が始まるのだわ!」
「んッ!?」
その返事に俺はある可能性に思い当たった。
『家を建てる』とほざいているアレだが、まさか建てるのって……!?
「このラクス村に建てるつもりかッ!?」
「オフコースなのだわ」
当然じゃねえよ!?
なんで!? 魔族のお前が家建てるって言ったら本国である魔族領に建てるんじゃないのか!?
「何故ここなの!?」
境界に近いとはいえ、ここラクス村は立派な人間族の領域なんですけれど。
魔族のアナタが家建てる条件としてはオススメできませんけれども。
「本格的にここに住むためなのだわ」
「やっぱりそうでしたか!?」
なし崩し的にここで定住してるようなものですからねえ!
ケツをぶっ叩きまくって最近やっとラスパーダ要塞への通勤を始めたというのに。
この勢いで『いつ出てってくれるものか』と密かに心待ちしていたんですが、ついに真の定住準備をし始めた!
「わたくしも心苦しく思っていたのだわ」
ゼビアンテスは彼女らしからぬ殊勝さを前面に出して言った。
しかし、心苦しく思っているなら村自体から出てってほしいんだけども。
「こんな庶民の家に高貴なるわたくしが泊まり込むと、住人も有り難さよりも心苦しさの方が上に立つというものだわ。太陽に近づきすぎた鳥が焼き尽されるようなものなのだわ」
「…………」
「いったッ!? なんで叩くのだわ!?」
思い上がりに腹が立ったので。
「なのでこの村にわたくし専用の豪邸を建てて、そこに移り住むことにしたのだわ!! 執事やメイドをたくさん雇い入れて実家にいるような気分に浸りたいのだわ!」
なら実家に帰ったら?
そんな理屈の通じないゼビアンテスは、俺の許可を得なくても得たような気分になって新邸の建築に着手するのだった。
◆
言うてもこの四天王。
四天王なので金は腐るほど持っている。
金とか宝石とか世界中どこでも財として通用するものを人間族の貨幣に替えて、それで大工を雇い入れて建設させる。
「前々から人間族の家の建て方に興味があったのだわ」
トンカントンカン木槌の鳴る音。
建設現場を見守りながらザビアンテスが言う。
「わたくしたちみたく魔法でパーッと組み立てちゃうわけじゃないし。全部手作業でノロノロしてまどろっこしいのだわ。でもそこに味があると考えるのだわ」
魔族領じゃ首都(魔王城)に近くなるほど魔法による建築が主流になるから。
建築専用の土魔法で木石を操り、積み上げる。
そういったことのできない人間族は、その手で木材石材を切り出し、加工して、組み上げていく。
そこに匠の技が加わって、魔族領ではお目にかかれないハイセンスな建築物もあったりする……。
……のだそうな。
「わたくしも一度そういうところに住んでみたいと思っていたのだわ! 四天王になったら人間族を支配して、そういう技術を持った者をたくさん奴隷にしようと思っていたんだけど、手っ取り早く夢がかなったのだわ!」
「そんな野望を!?」
恐ろしい女だった。
しかし望んだものが得られるなら過程などどうでもいいらしく、財力にあかせて田舎村に建てさせた屋敷は順調に肥大化していき、そしてついに完成した。
◆
「出来たのだわー!!」
完成品を目の前にして一番はしゃぐのはゼビアンテス。
聳え立つ大邸宅。
まるで貴族様が住むような壮麗な造りで、規模と言い装飾と言い一級の屋敷だった。
これまでラクス村で一番豪華な家は俺の住む村長宅であったが、当然のようにそれよりも豪華。
田舎村に建てられると場違い感が凄まじい。
「おいゼビよ。本当にここに住むの?」
「当然なのだわ! これこそ高貴なるわたくしに相応しい邸宅なのだわー!」
ゼビアンテスの野郎が結局ノリノリであった。
言うて元々いいとこのお嬢様。
しかも『超』がつくレベルの。
滅茶苦茶育ちがいいからこそ四天王に抜擢されるぐらい魔力も磨かれたのだろうし、やっぱり俺たちとは住む世界が違う生き物なんだろうなあ、とすら思えてくる。
俺たちにとっては普通の生活でも、この超お嬢様にとってはストレスなことがけっこうあるのかもしれない。
だからこそ、あんな豪奢な屋敷を立てて移り住んだのか。
いや、そんなことするくらいなら魔族領に帰ればいいのに、という話でもある。
が。
どっちにしろゼビアンテスは、この村に自分の屋敷を建てて移り住み、俺の家つまり村長宅に寄りつくことはなくなった。
ウチもこれでやっと静かになる。
と思ったが……。
◆
数日もしないうちにゼビアンテスがまたウチに泊まり込むようになった。
「実家のような安心感なのだわー」
「何故こっちにいる!?」
あんなに大枚はたいて豪華な屋敷を建てやがったくせに!?
「だってあっちは一人で寂しいのだわ。わたくし以外誰もいないし」
「執事とかメイドとかは!?」
「募集したけど誰も来なかったのだわ。魔族は国境跨いで務めにくる者なんて誰もいないし、人間族を雇って使うのも面倒そうなのだわ!」
何故屋敷が出来上がる前にその可能性へ思い至れなかったのか?
「あんなだだっ広い場所に一人なんて落ち着かないのだわー! 一人は寂しいのだわー!!」
「わかる! わかるよゼビちゃん!!」
ゼビアンテスの孤独を汲み取ったレーディが固い抱擁を交え合った。
もうツッコむ気も起らない。
……。
そういう感じで。
ゼビアンテスの築き上げた豪華なお屋敷は見事無用の長物となった。
ただ廃屋として放置するのはあまりにも立派過ぎるということで、建築主ゼビアンテスの許可の下、村中で会議が行われた。
お屋敷の有効利用を決めるために。
一時はこれを新たな村長宅にして村長一家総ぐるみで引っ越すという案も出たが……。
あまりに他の家々と装いが違って、圧政を強いている悪徳村長感が出てしまうため却下となった。
結局は、規模の大きさ内装外装の美しさから宿屋として利用するのがよかろうとなって、我が村にて初の高級宿屋が開店した。
ホテルと言ってもいいかもだが。
金に糸目を掛けずに建てられた大邸宅は、まるで貴族が住むような豪華さで、その珍しさがたちまち評判となり、ホテルに宿泊することを目当てに周辺町村の小金持ちが続々と村を訪れるようになった。
期せずして我が村の新たな名物が誕生してしまった。






