118 生き残った勇者たち、厳重注意を受ける
……そんなわけで。
突如として起きたミスリル輸送隊襲撃事件は、無事犯人の捕縛(一人死亡)という形で解決した。
輸送隊に関わっていた人員は、護衛役の冒険者が怪我を負ったが幸い命に別条はなく、人足たちも全員逃げて無事だった。
人的被害が最小限だったことが一番の幸いだったが……。
……だからと言って何もなかったで済まされるわけもない。
◆
「……わかるね?」
「はい……!」「申し訳ありません……!」
ラクス村に戻って始めたのは、逮捕した襲撃犯の取り調べ。
すなわち『鎚』の勇者ゼスターと『弓』の勇者アルタミルである。
「前回はキミたちを客人として迎え入れたが、今回は違う。何しろ村の大事な財産を強奪しようとした盗人だ。同じ扱いを受けられると思わないように」
「「はい……!」」
その申告を実証するかのように、ゼスター、アルタミルの二人は地面に直に座らされていた。
もはや反抗の意思はないと見て拘束まではしていないが、武器も没収、見張り役もありと、それなりにけじめを持った対応をする。
「まず確認をするが……、体は大丈夫か?」
「はい?」
「怪我の具合ってこと? ちゃんと手当てしてもらったし、大事はないですけど……!?」
戦闘中に負った怪我のことを心配されてる、と感じたようだが俺の意図は違う。
「二人ともミスリルを食っただろう。その分オーラ量も上がったが、他に何か影響はないか?」
「い、いえ……、特に何も……?」
「そういえば、あの時上がったオーラも元に戻ってるわね。自分で金属を食べたなんて信じられない。あの時のこと全部、今思うと悪い夢だったみたいだわ」
洗脳魔法も解けて、瞳の赤光も消えうせた二人はまさに理性的で、取り調べもスムーズに進んだ。
同じようにミスリルを貪り食って、ピガロは自滅した。
二人がそうはならなかったのは、やはり摂取の量が大きく関係しているのだろう。
ピガロが浴びるように貪り食っていたのに対して、二人が摂取したのはほんの一口程度だった。
それが増えすぎたパワーに押し潰されるかそうでないかの分かれ道になった。
「しかしそれでも金属なんか食って体にいいわけがない。後遺症などには充分気をつけるように」
「ダリエル様!!」
なんかゼスターが泣きながら平伏してきた。
「我らのような愚か者に何という心遣い! 罪を犯した我らなど市中引き回しの上獄門に掛けられても文句は言えぬのに、その慈悲の心はまさしくアランツィル様の御子息!」
「えッ!? 息子!?」
言い触らしてんじゃねえよ。
隣でアルタミルが驚いてるじゃないか、口封じるぞ。
「そこはどうでもよくて……、せっかく正気に戻ってくれたんだ。聞きたいことがいくつもある」
ピガロからも聞き出そうとしたが、アイツは答えることすらなく自滅して消滅しちゃったからな。
二人に尋ねるのが最適解だろう。
「まず一つ、何故こんなことをした?」
「「…………ッ!!」」
悪戯を咎められた子どものように二人は押し黙った。
それもそうだろう、特に動機を持たず悪戯してしまった子どものように、二人もこの行為に確たる動機を持っていないのだ。
だから俺はこのまま続ける。
「二人とも、誰かに操られていたんだろうな」
「操られる……!?」
「犯行中のキミたちの目には赤い光があった。魔族が使う洗脳魔法の特徴だ」
洗脳魔法は、小動物を操る使役魔法と違って人間や魔族などの知性体に掛けるための魔法だ。
高い知性と判断力を持った生物に、本能を支配する使役魔法は通じない。
その高い知性を逆手にとって知性体だけが持つ感情を肥大化させ暴走させる。それによって正常な判断力を失わせ、術者の思い通りに操るのが洗脳魔法。
「キミたちに洗脳魔法をかけたヤツがいるはずだ。ソイツこそが、この事件の黒幕」
そして思い浮かぶのが、彼らを拉致したというマント装束。
ラスパーダ要塞で敗北したゼスターたち三勇者。
本来なら魔族側に捕まって捕虜となるべき彼らを奪還し、連れ去ったのがマントで全身を隠した謎の人物だという。
「前後の状況から考えて、キミらに洗脳魔法をかけてミスリルを強奪するように仕向けたのは、そのマントだ。何か覚えてないか?」
「それが……」
問われてまずゼスターが難しい表情。
「……記憶にないのです。記憶にポッカリ空白のようなものがあって……!」
「私も……、途切れる前の直近の記憶は、たしかに四天王にやられて動けなくなったところ……!」
やはりな。
予想していたものの、期待からは外れた返答に俺はため息をついた。
「……洗脳魔法は、かけられた前後の記憶を飛ばしてしまうからな。掛けられている最中の記憶も曖昧になるし」
黒幕のマントは、そこまで計算してゼスターたちに洗脳魔法をかけたのか。
「状況から言って、ミスリル食ってパワーアップなんてゲテモノ法をキミらに吹き込んだのもマントだろう。そんな裏技を知っていて、一体何者なんだ……!?」
非常に気にかかる、危機感すら感じるほどだが、これ以上聞き出せることはないし謎は謎のままだ。
「今回の事件は、これで仕舞いとするほかないだろう」
「いえ! 終わりにはできません!」
ゼスターが声を荒げていった。
「どんな理由があったとしても、勇者の称号を賜った我々が盗みを犯すなど絶対に許されないこと。どうか我々に、アランツィル様の御子息たるダリエル様の手で厳罰をお与えください!」
だから事あるごとに言うのやめろ。
「私も……」
アルタミルが神妙に言った。
「……本当なら盗んだものを返却し、しかるべくして罪を償いたいけれど、食べてしまったものは戻らないわ。その分重い罰を課していただかないと申し訳が立たない」
ミスリルの損失分はしっかりセンターギルドに請求するから大丈夫だよ?
キミらを勇者に任命した人たちにも責任あるからね?
「だがどちらにしろ、キミらは勇者の称号を剥奪されることになると思う」
ただでさえ前例のない複数勇者任命の試みで、ここまでの不祥事を出したのだ。
『試みは間違いだった』という結論が出てしまうのもしゃあないだろう。
「かまいません、むしろ望むところです」
ゼスターが言った。
望むの?
「それがしは、この一件で思い知りました。自分の至らなさを、そして真の勇者というべき水準を! 今はただ、自分自身を高めるために精進していきたいと思います!」
「そうか」
「肩書など関係ありません! そんなものが人を惑わすというのが今回得た教訓です! 心と実力が勇者に見合うことこそ重要だと、肝に銘じてダリエル様を目指して精進していきます!!」
何故俺?
俺の出自が判明してからのゼスター俺へのリスペクトが留まるところを知らない。
なんかあまりに真剣だったので絆されてバラしちゃったけど、秘密のままの方がよかったかな?
「私も……、もう勇者はこりごりだわ」
アルタミルが言った。
「実際なってみてわかった。私はそれほど勇者になる望みを持ってなかったみたい。勇者になってしたいこともない」
「我らはセンターギルドに戻ろうと思います。そして勇者の称号を返上し、罪を償ってから、一から出直したく思います」
「せっかくの複数勇者選出プロジェクトも、これで頓挫ね。やっぱり勇者は唯一無二でいいのよ」
二人は頷き合った。
彼らが勇者の位を返上し、ピガロも死んだ今、言う通り勇者を二人以上送り出すというセンターギルドの試みは失敗に終わるのだろう。
魔王様を討伐しようと焦り急ぐ機運は薄れ、平和にのんびり停滞してくれたらいいんだが。
……。
……だが。
気がかりは他にもある。
この一件で黒幕のように振る舞っているヤツの存在が知れただけで正体は何も掴めていないというのが大層気味悪かった。
マント装束の謎人物か。
ゼスターたちを連れ去るために四天王に一杯食わせる。
一応は勇者にまで選抜された強者の心を乱し、洗脳魔法にはめてしまう。
そしてミスリルを食することでオーラ量を何倍にも上げる外法を知っているなど。
この黒幕の振る舞いにはただならぬ点が多すぎる。
そして何より不気味なのは……。
「何がしたかったんだ?」
ということだ。
この一件における黒幕の目的がハッキリしない。
ミスリルが欲しかったのか?
しかしそれなら奪ったその場でピガロたちが食っちゃったんだから意味がない。
もしくはミスリルを食らい、パワーアップさせた勇者たちをさらなる何かに利用したかったのかもしれないが、それも俺が阻止したことでわからずじまいになってしまった。
ううむ。
何か気持ち悪い。
黒幕マントは、この終幕をどんな気分で見詰めているのだろうか?






