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114 ガシタ、活躍する(勇者side)

 一方、ダリエルが吹き飛ばされたあとの主戦場。


 そこでは主に二つの戦闘が同時進行で繰り広げられていた。


 一つは『剣』の勇者ピガロvs槍使いセッシャ。


 ミスリルをさらに食らってパワーアップを目論むピガロとそれを止めようとするセッシャ。

 手助けせんと仲間たちは急ぎ駆けつけようとするが……。


「くッ!?」


 勇者レーディは、またしても自分の足元に矢が突き刺さったので走行を止めた。

 走ろうとすれば、その鼻先に矢が飛んできて止められる。

 何度もそれを繰り返し、レーディはセッシャの救援に行けない。


「アルタミル! 何故邪魔をするの!?」

「そっちこそ、いい加減脇見をせずに私だけを見なさい。アナタは私と戦うのよ」

「見ろったって……!?」


 既にレーディの視界から、アルタミルの姿は消え去っていた。


 ミスリル輸送のために通る街道。

 その両脇には鬱蒼とした森が広がっている。

 彼女はその中に潜って身を隠しながら、レーディへの正確な射撃を行っているのだ。

 弓矢使いの教科書通りの戦い方だった。


「何故私たちが戦わなければいけないの!? 私たちは同じ目標を持った仲間同士でしょう!?」


 魔王討伐という共通目標を持った。


「そうよ! でもアナタは私たちと競おうとしなかった! 私たちと共に行こうとしなかった! ならアナタと直接戦って決着をつけるしかないじゃない!」

「滅茶苦茶ですね……!」


 レーディの傍について防御に専心するサトメがぼやいた。


 アルタミルの矢はオーラで自在に軌道を変えて、どんな方向からでもレーディを射抜きうる。

 死角を守るためにガード役のサトメはレーディの傍から離れることはできなかった。


「あの補欠勇者……、言うこと滅茶苦茶ですよ! 元からあんなキレッキレの性格でしたっけ!?」

「彼女は操られているのよ……!」


 レーディは悲痛に言う。


「さっきダリエルさんが言ってた。アルタミルたちの真っ赤な瞳は洗脳魔法をかけられている証。そのせいであの子は正常な判断ができなくなってるのよ」

「魔法……、ってことは魔族が裏で!?」


 そこまではさすがにレーディにもわからない。

 しかし前半生を魔王軍で過ごしたダリエルが、魔法の痕跡を見誤るとも思えなかった。


「洗脳魔法は、同じ魔族や人間のような知性体を操るための魔法だと聞いたことがあるわ。小動物を操る使役魔法とはちょっと違うんだって」

「どう違うんです!?」

「トリさんやネズミさんと違って、魔族人間には知性があるでしょう? そこを突いて洗脳魔法は、ある一種の感情を肥大化させ暴走させる。そうすることで正常な判断力を奪い、言うことを聞かせる。……らしいわ」


 レーディは人間族として魔法は門外漢であるが、魔族と戦うための対策として多少は魔法の知識を持ち合わせていた。


「ただ感情のバランスを崩すだけだからこそ、術者の思った通りに動かすには魔法とは別の技術がいる」


 人心掌握や詐欺の手口が。


「今アルタミルは、洗脳魔法で感情が暴走しているからこそ異様な執着を示しているんだと思う。術者の思惑を無視して」


 魔法で対象人物の感情を乱し、判断力を低下させたところで言葉巧みに誑しこみ、言うことを聞かせる。

 魔法と話術の組み合わせが本的使用法だった。


 だがだからこそ洗脳魔法は対象を完璧に操ることはできない。

 乱れた感情が、執着する先を見つければ、術者の命令を無視して暴走することも充分ありうる。


 ゼスターやアルタミルが、それぞれの敵を見つけて挑んできたのもそうした理屈によるものだろう。


「アイツ、レーディ様に執着してるってことですか!? 恋でもしてるんですか!?」


 サトメは意外と口が悪い。


 戦況は圧倒的に不利だった。

 近接戦闘者と長距離戦闘者の戦いの場合、間合いの広さがそのまま勝敗の要因になりうる。


 木々の間に隠れて見えないとことから矢を射ってくるアルタミルの戦術は、敵を絶対に間近まで寄せない。

 これを保つ限り彼女の負けはなかった。


「正気を保ってないくせに堅実な戦い方ですね! ムカつきます!」

「……」


 レーディは、できればこのままアルタミルとの戦いに全力を注ぎたかった。


 彼女は、ラスパーダ要塞で敗北を喫したという。

 その悔しさ、ショックはどれほどのものか。

 それが洗脳魔法に屈してしまった要因だとするなら、レーディは彼女を捨て置くことなどできなかった。


 しかし、捨て置けない出来事が同時に起こる場合などいくらでもある。


 今この瞬間も、セッシャが『剣』の勇者ピガロと一騎打ちしている。


 ミスリルを食らい驚異的にオーラ量を上げたピガロに、A級冒険者のセッシャと言えどもどこまで食い下がれるか。

 邪魔者がいなくなれば、力を執拗に求めるピガロは輸送中のミスリルを食らい尽くすに違いない。


 ラクス村の経済や生活のためにも絶対許してはならなかった。


「アルタミル! 少しだけ待って! ピガロを何とかしたらいくらでも勝負してあげるから!」

「アナタはそう言っていつも逃げる! もう騙されないわ! ここで必ず決着をつける!」


 木々の間から姿なくして声のみ木霊す。

 洗脳魔法に思考を乱されたアルタミルは、まさにレーディに対する執着のみで動いていた。


「あの子を倒さない限り、セッシャさんを助けに行けない……! まずあの子を倒す以外にないの?」

「迷ってたらその分遅れますよ! まずは全速力でアルタミルを倒しましょう!」


 サトメの提案こそ真理だった。

 しかし最善といっても簡単ではない。


 正常な判断を欠いたといえど相手は勇者なのである。

 森に隠れながら精密な行射。居場所を特定しない限りレーディはアルタミルに攻撃もできない。


 弓矢使いの教書通りの戦い方に、険しい長期戦が予想された

 ジリジリと焦りが募るレーディに……。

 転機は急に訪れた。


 アルタミルが木々の陰より放つ矢がレーディに迫る。

 しかしその矢は、的に届くことなく途中で撃ち落とされた。


「はッ!?」

「えッ!?」


 射たアルタミルも、射られたレーディも何が起きたかわからず驚く。


「遅くなりましたっす!」


 街道に響き渡る野太い声。


 それはガシタの声だった。


 ダリエルと共に現場に駆け付けた、ラクス村出身の冒険者。

 それがいつの間にか、街道の両脇に並び立つ木々の、一番高い天辺へよじ登っていた。


「一番高みの、絶好の射的スポットを確保するのに手間取ったす! でももう我慢は必要ないっすよ!」

「ガシタくん!? そんなところで何やってるの!?」


 ガシタが、使用武器である弓矢を引き搾る。

 奇しくも目下の強敵アルタミルと同じだった。


 またもレーディに迫る凶矢。

 しかしまたしても途中で撃ち落とされて阻まれる。


 ガシタが、飛んでいる矢を狙って自分の矢を放ったからだった。


「矢で矢を撃ち落としてる!?」


 驚くに値する神業だった。

 ただ的に当てるだけでも技術と集中力が必要だというのに、ガシタは細く小さく、それでいてハヤブサのように疾駆する矢に矢を当てた。


「信じられない……! 何て技術なの……!?」

「ラクス村のバケモノはダリエルさんだけじゃなかったんですか!?」


 驚き呆然とするレーディとサトメ。

 しかしチャンスであった。アルタミルの射撃をガシタが完封してくれるなら、二人は気兼ねなくセッシャの下へ行ける。


「走るわよサトメ!」

「了解!!」


 疾走する二人。

 そんな二人の周囲に、折れた矢がいくつも散り振る。


「マジで一矢残らず射落としてますよ!? 何者なんですかあの人!?」

「ガシタさんは、ダリエルさんからみっちり指導を受けてるんだもの。これぐらいできて当然よ」


 同じようにダリエルの指導を受けるレーディの確信は強かった。


 レーディがラクス村を訪れるよりも前から、ダリエルを慕って教えを乞うようになっているガシタであった。

 生意気盛りで、実力よりもプライドの方が先行していた頃の彼とは違う。


 高所から戦場を俯瞰する彼は、相手側の矢の軌道を精密に読み取ることができ、予測地点へ百発百中させることができた。


 次第に、相手側の矢は射ってすぐさま撃ち落とされるようになる。

 居場所を特定されつつある。


 やがてガシタは、相手の矢が放たれるより先に自分の矢を放ち、その矢は森の奥へと消えていった。


 すぐさま「ぎゃんッ!?」という悲鳴が上がったあと、アルタミルの体が枝葉の中から現れて、力なく地面へと落ちていった。

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