113 『凄皇剛烈』、完成する
「アランツィル様の……息子……!?」
その宣言に、ゼスターはときめくように震えた。
「まさか……!? では幼い頃に生き別れたという……!?」
「俺自身もつい最近知ったことだ。それまでは孤児で、俺を拾って育ててくれた方の隠し子だと思ってたぐらいだからな」
そこへアランツィルさんがレーディを訪ねてやって来て、互いの過去を照らし合わせて『あれ? これ似てなくない?』となった。
「それに加えて、余にも珍しいオーラ全性質への最大適性タイプ。こんな共通点があっては、血縁を決めつけられても否定できない」
「いや……、いや……! これでようやく腑に落ちました。貴殿から伝わる最大級の畏怖……! まさに最強勇者の血統を継ぐ者に相応しい。だが……!」
ゼスターは鉄槌をかまえる。
「アナタはアランツィル様ではない。アナタはアナタとして恐るべき敵だ。……そうですよね?」
そうだ。
教えを忘れなかったご褒美に、もう少しヒントをやろう。
「打撃の要所は、重さだ」
ハンマーの頭部の重さ、それを振るう自分自身の重さ、加速によって生まれる重さ。
「すべての重さが破壊力と変わって、叩いたものを粉砕する。打撃は重さこそが命。そこが同じ攻撃系オーラ性質でも、スラッシュ(斬)やスティング(突)ともっとも違うところだ」
「ダリエル様、いくら何でもそれがしを舐め過ぎでは?」
いつの間にか『様』付けになっとる。
「ヒット(打)はそれがしが長年得意としてきたオーラ特質。その基本をそれがしが知らぬとでも?」
「思っくそ忘れてそうだから、わざわざ講釈したんじゃないか」
この基本を忘れてないヤツが『凄皇剛烈』などという欠陥技を編み出すはずがない。
「何処までも厳しい……! そういうところはまさにアランツィル様の血統よ……!」
一度閉じられた目がカッと見開かれ、同時に超高密度のオーラが噴出する。
「では受けていただこう! 欠点を改善し、新たに生まれ変わった『凄皇剛烈』をご照覧あれ!!」
「おう来い」
ヘルメス刀をかまえながら言う。
対してゼスターは、巨漢ながらもまた見事なバネで跳躍。俺の頭上へと躍り出る。
ここまでは前の試合で見せた『凄皇剛烈』のプロセスのままだ。
「このまま同じならさすがに怒るぞ」
しかし、既に彼は全身から発する気迫が違う。
これで終わるはずは絶対にない。
「重さが威力……! ハンマーの基本中の基本すら忘れてしまったそれがしの未熟。その象徴こそ『凄皇剛烈』だった。驕りを捨て怠惰を捨て、今それがし自身が真の必殺技に大成する!!」
凄まじい量のオーラがハンマーの頭部に集約される。
これまでならば『凄皇裂空』と同様に。集中したオーラ塊を飛ばしてくるはずだ。
だが彼は……。
ゼスターは……。
オーラ塊を飛ばさずに……。
「だりゃあああああああああッ!!」
自分ごと飛んできた。
「そうだ、いいぞ……!」
これまでオーラのみを飛ばしてきた『凄皇剛烈』は進むごとに拡散、薄っぺらくなり威力を失っていった。
スラッシュ(斬)やスティング(突)のように集中する特性がないヒット(打)ではどうしても依り代を持たない限り拡散してしまうのだ。
だからゼスターは、依り代となる物体ごとオーラを飛ばすことにした。
依り代となる物体とは、武器であるハンマーか?
違う。
ハンマーを持つ自分諸共オーラの砲弾に変えたのだ。
重さは威力。
打撃武器の基本鉄則に従って、自分自身の重みを加えて、少しも拡散することなく目標目掛けて駆け下りる。
「それがしのおおおおッ! 全身全霊をおおおおッ! 受けよおおおおおおッ!」
「いいだろう認めてやる」
その攻撃は、キミの全身全霊を懸けていると言うに相応しい。
「『凄皇裂空』ッ!!」
俺は対応として、極大のオーラ斬撃を天空目掛けて飛ばす。
ゼスターが丸ごと落ちてくる天空へ目掛けて。
本家本元オーラそのものを飛び道具にする絶技。
極大オーラ斬撃と、ゼスターそのものが打撃となった二強撃が空中でぶつかり合う。
「くかああああああッ!? ごおおおおおおッ!!」
そもそもゼスターが『自分ごと打撃となって飛ぶ』という発想をいつ得たのだろうか?
確信をもって言うがたった今だ。
俺が与えたアドバイス『打撃は要点は重さ』『尊敬の念に縛られるな』。
その二つからゼスターは『凄皇剛烈』に足りない重さをどこから補完するか、自分で考え出した。
それ以前の彼ならば考えられなかっただろう。
「ぐおおおおおおおおッ!?」
空中でのぶつかり合いは今も続いている。
天駆け登る『凄皇裂空』を、ゼスターは自分の体ごと『凄皇剛烈』となって弾き飛ばそうとしている。
以前の彼なら『凄皇剛烈』はオーラだけを飛ばすもの、という発想から抜け出せなかったはずだ。
何故なら真似ようとした大元の『凄皇裂空』がそういう技だからだ。
アランツィルさんを尊敬するあまり、その得意技をも真似しようとしたのが『凄皇剛烈』の始まり。
コピー元の本質を曲げようなどという考えは、尊敬に縛られる心からは生まれない。
新たな発想に至ったことこそ、自分を縛る常識から抜け出し、新たな段階に踏み入った証。
空中では、激しい火花が太陽のように輝き散っていた。
二種のオーラがぶつかり合って飛ばす火花。
ゼスターは、俺の『凄皇裂空』とぶつかり合いながら一歩も引かない。
「凄いな……」
彼は、自分自身を砲弾に変えて、『凄皇裂空』の刃と直接ぶつかり合っている。
少しぐらいビビらないものなのか!?
「それがしは、なるのだ……! 自分自身に……!」
……。
ゼスターが、押し勝ち始めている……?
「勇者ゼスターに、なるのだああああああああッ!!」
パキンと、ガラスの砕け散るような音をたてながら、俺のオーラ斬撃が砕け散った。
粉々に。
「……!」
押し負けたか。
ゼスターの渾身に。
歴代最強先代勇者の奥義を、彼は破った。
真っ向正面から堂々と、非の打ちどころがなく。
「勝った! 勝ったぞ! 我が『凄皇剛烈』が『凄皇裂空』に勝った!」
無論、そこで終わって満足しては勇者じゃない。
敵の切り札を破って、次には敵本人を潰さなければ真の勝利ではない。
その鉄則に従い天空にいるゼスターは、俺目掛けて降り注ごうとした。
「王手ですぞダリエル様! 素っ首頂戴いたッ? ……す!?」
その時ゼスターは見ただろう。上空から。
地上にいる俺が噴出させる超極大のオーラを……。
「なんだあれは……!? オーラの、巨大な剣……!?」
そう見えただろうか。
ヘルメス刀から金属の代わりに、純粋なオーラの刀身が伸びる。
しかも尋常な大きさではなく、超特大。
魔獣すら一刀にて両断できるほどの長いオーラ刀身が、既に迎え撃つ準備を終えていた。
「『絶皇裂空』」
アランツィルさんが直々に付けた名前。
かつて四天王バシュバーザを塵も残さず消滅させたこの技で……。
『凄皇剛烈』そのものとなって落下するゼスターを……。
小バエのように叩き落した。
◆
勝負はついた。
俺の『凄皇裂空』を破ったゼスターは、己の技を完成の域まで高めたと言える。
「それでも届かなかった……」
全身から煙を上げながらゼスターは地面に転がっていた。
粉々になったハンマーの破片があちこちに散らばっている。
あれが所有者の代わりに砕け散ったおかげでゼスターは命を拾ったのだろう。
まあ俺もそれなりに手加減したし。
「それがしは……、まだまだヒヨッコなのですな」
全身にダメージを負って、引きつった声でゼスターは言う。
「アランツィル様の血統と技を受け継いだ貴殿は、さらにその先まで踏み込んでいたということですか……!?」
「『絶皇裂空』。アランツィルさんみずからが『凄皇裂空』を超えると評した技だ」
それを聞き、涙ぐむように咳き込むゼスター。
「所詮それがしには資格がなかったということか……!? 盗みを働き、邪道に染まってまで力を求めながら、頂点には届かないというのか……!?」
その涙声に、俺は言葉をかけてやることをしなかった。
力を求めるあまり勇者の道から外れたことも事実だ。
彼は再び、自分が何者であるかを根本から考え直さないといけない。






