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110 ダリエル、強盗が現れたと知らせを受ける

 今日もラクス村は平和だった。

 冒険者ギルド支部を覗いてみると、ガシタが訓練などをしていた。


「殊勝だな」

「あっ、アニキ! しゃっす!」


 ガシタはラクス村でも一番古株の冒険者で、唯一の生え抜きと言っていい。

 俺ですら一年前に新規加入してきたクチなので、真のラクス村出身冒険者は彼のみと言っていいだろう。


 そんな彼も出会った頃は自分が一番だと言って譲らない問題児であった。

 俺など対抗心剥き出しで目の敵にされたものだが……。


「人は、成長するものだなあ……!」

「何すかアニキ!? 急に泣き出して!?」


 自分本位の塊でしかなかったガシタが、今ではラクス村ギルドのトップ。

 村の発展と共に拡大したギルド、仕事を求めて外部からやって来た冒険者たちのまとめ役を務めている。


「どれだけ失敗しても成長しないヤツを見たことがあるだけに、ガシタの成長が貴重なものに思えて……!」

「よしてくださいよ……! 昔を思い出すと今でも顔から火が出るように恥ずかしいんすから……! ホントなんであそこまで自信たっぷりだったんだろ、当時のオレ!?」


 生意気盛りの当時を思い出し、ガシタは本当に赤面していた。


「でも、アニキからご指導いただいたおかげで……!」


 ちなみに現在ガシタは特定のクエストも受けず訓練中だったようだ。

 遠距離攻撃系の冒険者が訓練するための屋外射的場で、ガシタは地面から小石を拾う。


「多少は進歩したように思ってますよ」


 ガシタはその小石を、天空に向かってヒョイと投げる。

 けっこう力を込めて投げたのか、小石は空高く上がって、上がって、ある地点で止まって、重力に従って落ちた。


 その間ガシタはメインウエポンたる弓矢を引き搾り、放す。

 放たれた弓矢は、落下中の小石へ向かって飛び、見事命中して粉々に砕いた。


「おおーッ!?」


 凄くない?

 あんな小さい石を、しかも止まっているのではなく落下中の動きを予測して当てやがった。


「アニキからご指導していただけたら、これぐらいできるようにならないと申し訳ないっすよ……!」

「ガシタ、キミもうラクス村最強冒険者を名乗っていいよ」

「やめてくださいよ!」


 かつて自称していた称号をガシタは断固固辞。


「だからあの頃イキッてた自分は黒歴史なんすよ! オレなんてまだまだっす! これからも修行あるのみっす!!」

「謙虚さまで備えて……!!」


 この素直さをバシュバーザも持ち合わせていたらなあ、と過ぎたことを思わずにはいられない。

 恩人グランバーザ様から託された御子息をあんな最悪な形で終わらせてしまい『俺は人を育てる才がないのだろうか?』とガチヘコみしていたこともある俺なのである。


 そんな俺にとって立派になったガシタは救いであった。


「ありがとうなガシタ……!」

「いや、例を言うのはオレの方っすけど?」


 セッシャさんなどから言わせると、現在のガシタはもうA級冒険者で通用するレベルらしい。

 でもA級を取るにはセンターギルドまで行って審査を受けねばならないためガシタは渋っている。


『オレの等級なんかよりもラクス村の方が大事っすよ! オレが長いこと留守にしてどうなるっすか!?』


 などと。


「D級だった頃E級の俺を見下しまくってたキミはどこへ行ってしまったの……?」

「遠い過去っすかね?」


 ガシタが『もう触れてくれるな』という表情で泣きそうになっていた。


「ああもう! アニキがそんなオレの過去でイジッてくるなら訓練終了っす! 新しいクエストが出てないか見てくるっす!」

「ごめんごめん、いじけるなよぉ」


 拗ねてしまったガシタを追いかけ、俺もギルドロビーへ。

 そこには受付があって、日夜クエストを冒険者に斡旋する職務がなされている。


 ガシタもここで新しいクエストを受注しようというのだろうが。


「あれ? 何かあった?」


 妙に慌ただしい。


「ダリエルくん! こんなところにおったのか!?」

「あれ、お義父さん?」


 ギルドマスターで先代村長、ウチの妻マリーカの父親で従って俺の義父でもある人が駆け寄ってきた。


「何か慌ただしいですね? 緊急クエストですか?」

「そうなんだ! 強盗が現れた!」


 強盗?


 またえらく頓狂な強盗だな。

 ただ今復興盛りとはいえ、まだまだただの田舎でしかないラクス村から盗めるものなんてロクになかろうに。

 ……いやある。

 ラクス村にある盗むほどに価値のあるもの……!


「ウチの息子!」

「違う! ミスリルだよ!」


 ツッコミを受けて『ですよねー』と反省。

 お義父さんも『いや、ウチの孫もたしかに盗み出したいぐらい可愛いけど……』とフォローを入れつつ……。


「ミスリル鉱山からこっちに輸送中を襲われた。護衛の冒険者が対応しているが苦戦しているようでな。つい今しがた救難信号が届いた」

「わかりました、お任せします」


 俺も村長として何かしたいところだが、冒険者の管理運営はギルドマスターであるお義父さんの仕事。

 かつて村長を兼任していたこの人が、その役を俺に任せてギルドマスターに専念するようになったのだから迂闊に口出ししてはいけない。


「ギルマス、オレ行くっす」

「おう、ガシタはいつも頼りになるな。それと……」


 お義父さんが俺を見る。


「ダリエルくん、すまんがキミも行ってくれないか?」

「何かあったんですか?」


 村長に就任し、冒険者としては一線引いている俺に頼み込むというのは何かあってのことだ。


「襲われた輸送隊の中で、とりわけ足の速いヤツが報告に来てな。襲撃者の特徴はわかっている。三人だそうだ」

「三人?」


 随分と数が少ないな?

 少数精鋭なんて盗賊の流儀じゃあるまいに?


「それで人相とか体格とかを詳しく聞いていくうちに、隣で聞いてた勇者さんの顔色が変わって……」

「レーディが? アイツ居合わせてたんですか?」

「偶然な? それですぐさま飛び出して行ってしまった。勇者さんが血相変える事態だ。だから念のためにダリエルくんにも動いてほしいと……!?」


 レーディが反応する三人組。

 たしかに気になる。


 俺もその襲撃者について詳しく聞こうかと思ったが、どうやら事態は一刻を争うようだ。

 現場で直で見た方が早かろうと俺は駆け出す。


「行くぞガシタ!」

「了解っす!」


 今やすっかり精鋭となったガシタを伴い、俺も襲撃中といわれるミスリル輸送隊の下へ向かうのだった。



 ラクス村とミスリル鉱山を結ぶのは一本道なので、そこを駆け登れば現場にぶち当たるのは自明の理。


 実際に駆けつけて、俺は驚愕した。


 既にその場には勇者レーディと、そのパーティメンバーである槍使いセッシャさんに盾使いサトメがいた。

 その彼らが対峙しているミスリル強盗たち……。


「護衛隊は……、遅かったか!?」


 元々輸送隊に付き添っていた護衛役の冒険者たちは、勇戦虚しく撃破されてしまっていた。

 地面のあちこちに武器を握ったまま倒れている者数名。


 彼らを倒した犯人は、今や守る者誰一人ないミスリルの積まれた荷駄に寄り添っている。

 ソイツらは……。


「……あッ!?」


 俺も一目見て驚いた。

 レーディも慌てるはずだった。

 輸送ミスリル襲撃の犯人は、俺たちの見知った相手だったのだから。


『剣』の勇者ピガロ。

『弓』の勇者アルタミル。

『鎚』の勇者ゼスター。


 この三人が輸送隊を襲い、ミスリルを奪おうとしている犯人だったのか。


「……チッ、もうやってくるとは」

「アナタがグズグズしているからよ。ザコを嬲りすぎなんだわ」


 ラスパーダ要塞にて四天王に惨敗し、以後行方不明だったはずの彼らとよりにもよってこんなところで再会!?


「……ピガロ、アルタミル、ゼスター……! 無事だったことを喜んでいいのか……!?」


 レーディも、報告者から告げられた強盗の人相を聞き思い当たったのだろう。

 だから息を乱すほど全力疾走でここまで駆けつけた。


「見え透いた嘘はよせ。どうせオレたちが負けて『ザマ見ろ』と思ったのだろう」

「そんな……ッ!?」

「競争相手が労することなく自滅し、脱落していったわけだからな。しかし安心するのは早いぞ。オレたちは逆転の目を残している!」


 相変わらずヒトを見下すような態度のピガロは高らかに言った。


「オレたちはミスリルを奪って強くなるのだ! その方法を、あの御方が教えてくれた! あの御方こそ我らの指導者! 我らを最強者の領域へ引き上げてくれる神なのだ!!」

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