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108 ダリエル、報告を受ける

「それからどうしたの?」


 穏やかなる我が家にて俺は報告を受けていた。

 ゼビアンテスからの。


 予想通りピガロ、アルタミル、ゼスターの三勇者はラスパーダ要塞に攻めてきたそうだ。

 俺があらかじめ授けておいた策通りに進み、無事撃退はされたようだが……。


「わからないのだわ」

「わからないって……!?」


 要塞から帰還してきたゼビアンテスの報告は、どうも要領を得ない。


 三勇者を倒して、それからどうなった。


「消えたのだわ。そうとしか言えないのだわ」


 どのようにして消えたのか?

 ゼビアンテスの語るところではこんな感じだったらしい。


 とりあえず勇者たちと戦い、撃破するところまでは順調だったそうだ。

 無力化し、動けなくなった勇者らを拘束しようとしたところ……。


「変なヤツが出てきたのだわ」


 そいつはフード付きのマントを被り、顔も体格もまったくわからない身なりであったらしい。


「そいつが急に攻撃してきて慌てて防御したのだわ、その一瞬注意がそれて、気づいたらソイツも勇者もいなかったのだわ」

「おいおい……、仮にも四天王がそんな簡単に獲物を逃して……!」

「いやいや! 仕方ないのだわ! それだけマントのヤツが繰り出してきたのは凄い攻撃だったのだわ!!」


 トップクラスの魔法使いである四天王すら慌てさせる攻撃。

 それこそ『凄皇裂空』クラスでなければ容易には適うまい。


 その目晦ましによって隙ができピガロ、アルタミル、ゼスターは連れ去られた。

 三人すべてをまんまと。


「でも三人は別の場所で戦ってたんだろ? それを的確に回収していくとはやるな……」

「ドロイエちゃんやベゼリアの話では、現れたのはまったく同じマントのヤツだったそうだわ。わたくしのところに出てきたのもそうだったのだわ」


 まったく同じ身なり。

 ソイツが『ゼビアンテスとピガロ』『ドロイエとゼスター』『ベゼリアとアルタミル』の戦場にそれぞれ現れたと言うことは……?


 ……同一人物?


 いや、マントで全身を追い隠していたというなら違う人物ということもありえる。

 でも重要なことはそこじゃなく……。


「一体誰が、何のために勇者たちを回収していったんだ?」

「そこなのだわ!」


 ゼビアンテスが鼻息荒く迫る。


「わたくしが思うに、やっぱりあのマントは人間側の勢力だと思うのだわ!」

「ピンチの勇者を救出したってことか?」


 たしかにそう考えるのが一番ゴチャゴチャしない。


 仮にも人間族の希望の星、勇者が魔族の虜囚となったりしたら大ごとだ。

 面目丸潰れ。


 それを避けるために密かに同行していた誰かさんが、あるべきタイミングで出撃し勇者を助け出した。


 その誰かさんは、たとえばセンターギルドの意を受けた隠密さんとか? 影の者とか?

 まあ、ありそうな話のような気もするなあ。


「そこのところどうなの?」

「どうなのだわ?」


 俺とゼビアンテスが目を向けたのは、同じように話に加わっている勇者レーディ。


「うぇッ!? 私ですか!?」

「そりゃセンターギルドの事情を聞くなら勇者が一番じゃない」


 情報収集するアテが揃い過ぎている我が家であった。


「……いや、いないと思いますよ、そんな監視役みたいな人。そんな人がアルタミルたちに付いてたってことは、私にも付いてるってことでしょう?」

「そりゃそうだな」


 レーディこそ正規の勇者として、突発的に選ばれた他三人より大事に扱われるべき人。

 監視役がつくというなら、それこそ三、四人張りついていてもおかしくないはずだ。


「でも私、そんな人の気配感じたこともないですし。ダリエルさんやゼビちゃんだってそうでしょう?」

「う~む……!?」


 ここ最近共同生活しているようなものの俺やゼビアンテスですら気づかない。

 ってことはありえないよなあ。


 俺もゼビアンテスもレーディも、気配を探ることには一通り覚えがある。

 その全員から存在を察知されない隠形の使い手がいるとしたら、それこそ勇者以上の実力者。


「ソイツが魔王様倒せって話だよなあ……!」

「でもでも、マントのヤツが人間側だって根拠がもう一つあるのだわ!」


 ゼビアンテスが果敢に食い下がる。


「そいつは剣を使ってきたのだわ!」

「剣?」


 たしかに武器を使うのは人間族の冒険者だけ。

 魔族は、攻撃するなら攻撃魔法を使うので武器は必要ない。


「その剣でわたくしたちに攻撃してきたのだわ! その技も紛れもない人間族の技だったのだわ!!」


 マントの男……、いや男かどうかもわからないらしかったのだが。

 ここは便宜的にマント男と呼んで、ソイツが言うには……。


『逢魔裂空』。


 という技を放ったらしい。


「なんだそりゃ、まるで『凄皇裂空』みたいな……?」


 それも『裂空』の派生技か?

 レーディに目配せすると全力で被りを振られた。『知りません知りません』とばかりに。


「実際撃ってきたのも『凄皇裂空』にそっくりだったのだわ。オーラが塊になって飛んできて、巨大で、何でもスパッと斬れそうだったのだわ!」

「それは『凄皇裂空』そのものじゃないか」

「でも違うところもあったのだわ! マント男の出したオーラの塊は、真っ赤だったのだわ!!」

「赤?」


 色付きのオーラ斬撃。

 たしかに『凄皇裂空』とは違うな。


 オーラにはそもそも色の違いなんてなく、大抵は日光のような白もしくは黄色っぽい曙光みたいな色だ。


「いやー、本当に不気味な色だったのだわ。血のように赤かったのだわ……!」


 思い出して不気味な気分になったのか、ゼビアンテスはウェッと舌を出した。


 その不気味すぎるオーラ斬撃に驚いてゼビアンテスもドロイエもベゼリアも防御するので精いっぱいだった。

 そしてほんの一瞬注意が逸れた隙に、マント男も倒れていた勇者もいなくなっていたと言う。


 状況から考えたらマント男が連れて行ったと思うべきだ。事実もまず間違いなくそうだろう。


「人間族が連れて行ったに違いないから『ズルいことすなーッ!』ってレーディちゃんに抗議しようと思ってきたのだわ。でも当てが外れたのだわ」

「それ私に抗議されても……!?」


 当惑するレーディだった。


「しかし、思わぬ展開になったもんだな」


 俺としては新規に選ばれた三勇者が攻略失敗し、魔王討伐への行き過ぎた機運が消沈してくれたらと思っていたのだが。


 …………。

 何が起ころうとしている?


「それよりも私、心配です……!」


 レーディが、それこそ心配そうに呟いた。


「ゼビちゃんの話を聞くに……、それってアルタミルたちの行方がわからないってことじゃないですか?」

「……あっ」


 たしかにそうだ。

 正体不明の人物ってことは、ソイツがどこにいるかもわからない。


 そんな人物に連れ去られた勇者たちも行方知れずってことだ。


 指摘されるまで気づけなかった俺も迂闊だが、俺自身あの三人とはほぼ接点がないし。


 やはり勇者の座を競い合ったライバル同士として、レーディこそが彼らのことが気がかりなのだろう。


「どうしましょうダリエルさん……! このことセンターギルドに知らせた方が……!」


 もちろんその方がいいが、情報の入手経路を問い質されたら厄介だな……。


「ゼビアンテス」

「はいなのだわ?」

「勇者に率いられていた冒険者たちは無事なんだろう?」

「ええ、土砂に埋まったり割れた地面に挟まってたりしたのを救出して、牢に放り込んであるのだわ」

「じゃあ、ソイツらをとっとと解放しちまえ。勇者が消えたって言う情報を持たせてな」


 捕虜なんて抱えていてもいいことないし、伝書鳩代わりに使うのもいいだろう。


「ゼビちゃんできる?」

「うーん、せっかく捕まえた捕虜を無条件で解放するのは難しいかもだけれど、やってみるのだわ」

「やったあ! ゼビちゃん大好き!」


 こらこら敵同士。


 ともかく、勇者たちは一体どこへ連れ去られたのだろう?

 これが悪いことの前触れでなければいいのだが……。

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