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107 四天王、全勝する(勇者side)

 ピガロがゼビアンテスとの戦いで散々な目に遭っていた頃。


 別の場所でも重大な局面が発生し、そしてつつがなく収束しようとしていた。



 まずラスパーダ要塞前面。


 もっとも男らしく正面突破を図ろうとした『鎚』の勇者ゼスターは、最悪の障害に阻まれていた。


 魔王軍四天王の一人『沃地』のドロイエ。


 今や魔王軍の中核とみなされる筆頭四天王が真っ先に、彼の前へと立ちはだかったのである。


「『破山撃』!!」

「『土涛壁』」


 戦いは既に始まっていた。


 ドロイエが魔法にて作り上げる土の壁を、ゼスターは容易くハンマーで打ち砕く。

 そのため彼女は跳躍し、相手の攻撃範囲外まで後退しなければならなかった。


「どのような巡り合わせでこうなったか知らんが、運がなかったな!!」


 ゼスターとて、レーディに遅れながらも勇者の称号を得た。

 屈指の実力者である。


 魔族側の最強者、四天王と当たったとして黙ってやられることはない。


「貴様の使う土属性の魔法は、ヒット(打)のオーラと相性が悪いと聞く! よりにもよってこの『鎚』の勇者ゼスターと戦うハメになったのは、天から見放されたようなもの!!」


 先に勇者レーディがラスパーダ要塞の攻略に行き詰ったのは、この四天王ドロイエを倒せなかったから。

 その報告をセンターギルドから聞いていたゼスターだった。


 そしてレーディが、ついにドロイエ打倒を果たせなかった最大の原因が、土魔法に優位性を持つハンマー使いをパーティに加えていなかったこと。


 ゼスターの得意武器こそハンマー。


 天恵と思うほどに噛み合った相性のよさにゼスターは勝利を確信した。

 正規の勇者レーディが果たせなかった、土の四天王打倒を果たせる。


「……運ではない」


 ジリジリ後退しながら、それでもドロイエが毅然と言った。

 その言葉にゼスターは攻勢を緩める。


「どういう意味だ……?」

「私がみずから選んだのだ。三人いる新規の勇者から、お前を敵として。他の二人には我が同胞、四天王がそれぞれ抑えに向かっている」


 その通告に少なからず衝撃を受けるゼスター。


 敵側が、そこまで自分たちの動きを正確に把握していたことも衝撃だが、それならば何故ドロイエは彼を、ゼスターにぶつかることを選んだのか。

 それがなお困惑で衝撃だった。


「……では貴様は、相性の不利があるとわかっていて、あえてそれがしと戦うことにしたのか?」

「そうだ」

「何故そのような……?」


 愚かしいことを、とそこまでは口に出せなかった。

 しかしドロイエの行動が不条理であることは変わらない。

 敵の動向を完全に把握しているならば、確実に勝てる采配を振るえるはず。

 できるのに、それをしないことは勝利のために最善を尽くさない、戦闘者として愚かな行為でしかなかった。


 そんな愚行を、レーディすら退けた強豪四天王が何故。


「私は日に日に思い知る、自分の未熟さを……!」


 ドロイエの言葉に、ゼスターは益々困惑する。

 勇者を的確に阻んでいる四天王が、反省を、と……。


「栄えある四天王に選ばれながら、我々はその責務に全力で向き合わなかった。司令官であり最強者である、その双方を満たさなければいけない四天王の水準に、我々はまだまだ達していない」

「まさか……、貴様は自分を成長させるために……!?」

「そうだ、魔族最強四天王たる者、相性の不利程度で突き崩されるような惰弱では務まらぬ。ゆえに他の二人に頼み込み、お前と戦うことを許してもらった」


 あえて相性不利の相手とぶつかり、勝利することでドロイエは四天王として成長する。


「そうして偉大なる先人に一歩一歩近づくのだ。『鎚』の勇者とやら、我が成長の礎となってもらうぞ」


 この謙虚でストイックな姿勢に、ゼスターの目にある人物が重なった。

 彼らの中で最初に勇者となったレーディが。


 勇者となってなお自分に足りないものを認め、完璧に近づこうともがいている。

 一市井民に頭を下げることも厭わず、ダリエルに師事するレーディの直向きさが、この魔族と重なる。


「これが強者の条件ということか……!?」


 ゼスターのハンマーを握る手に力がこもる。

 適切以上のはみ出す力が。


「いや……! 圧倒されてなるものか……! それがしも登り詰めるのだ。アランツィル様のあとを担うためにも……! 最強の一角にそれがしも並ぶ……!」


 振り上げられるハンマー。

 その頭部から輝くオーラが溢れ出す。


「……ッ!」


 その強大さにドロイエも警戒し、みずからも魔力を集中する。


「大きのが来るな。切り札か……!?」

「見るがいい! 我が究極奥義にして勇者の証! 『凄皇剛烈』!!」


 ハンマーから放たれる巨大なオーラ塊。


 広範囲を押し潰す怒涛の剛波に、逃げ場はどこにもない。


「……!」


 それをドロイエも悟ったのだろう、蓄積した魔力を解放し、彼女もまた究極の殲滅魔法を繰り出す。


「『タイタン・パウンド』!!」


 地面の土が魔力を伴い盛り上がり、巨大な一塊となって飛ぶ。

 その重厚さはまさに巨人が繰り出す拳のようだった。


 オーラの塊と、魔力の伴う土石の塊。

 双方は中心に手ぶつかり合い、そして決着は即座についた。


 ドロイエの必殺魔法が、ゼスターの切り札に押し勝って砕き散らした。


「ぐはあああああッ!?」


『凄皇剛烈』を破られたゼスターは、余勢を駆って迫る土石塊に飲まれ吹き飛ばされた。

 勝負が決まった瞬間だった。


「一手を間違えたな」


 勝利者となったドロイエが言う。


「ハンマーからオーラの塊を飛ばすその技。見た目は派手だが、進むたびに拡散し、重さと密度を失っている。我が最強攻撃魔法『タイタン・パウンド』大質量に押し負けてしまうのは自明の理だ」


 ダリエルから指摘されたことを敵からも言われてしまう。

 それでもなお最後の切り札に『凄皇剛烈』を選んだのは、ゼスターが勇者を目指した原点を捨てきれなかったから。


 彼はアランツィルに憧れすぎたがゆえに。

 アランツィルにはなれなかった。



 そしてもう一方……。


「さて……」


 三つ目の勝負はすぐさま終わった。

『弓』の勇者アルタミルは、状況を探るために上った小高い丘を丸ごと崩され、土砂に飲み込まれるパーティメンバーも救えないまま何とか一人だけ駆け下りることができた。


 そこへ襲ってきた四天王『濁水』のベゼリアによって苦もなく無力化され、地を這っている。


「無駄な労力は控えたまえ。私の『囚牢粘液』はもがけばもがくほど粘度を増す。頭まで潜れば最悪窒息死もあるから動かないのが最適解だ」


 まるで泥のように粘ついた液体を掛けられ、引き剥がそうとしても引き剥がせず、その上滑るので立つこともできない。

 弓を引いて矢を放つなど、なおさら無理。


 一瞬の隙を突かれて、何もできないまま捕まるという勇者にあるまじき醜態。

 アルタミルも悔しさに涙がこぼれた。


 せっかく勇者になれたというのに、改めてレーディと肩を並べられる立場になったというのに。

 最初の一歩のあまりの無様さに涙が止まらない。


「さて、キミのこれからの処遇だけど安心したまえ。ウチのメンバーは優しい子が多いから命までは取らない方針で固まってるんだ」


 ベゼリアは特に恩に着せる様子もなく、むしろ嫌味たらしい口調で言う。


「誇り高い勇者様にとっては生き恥を晒す方が辛いかもだけどねえ? とりあえずドロイエが埋めたお供くんらを掘り出して、一緒に牢屋に入ってもらう。然るのちに、キミらの親玉センターギルドに高い身代金払って引き取ってもらうのが順当だろうねえ?」


 そんな醜態を晒したら、間違いなく勇者の称号は剥奪されてしまう。


『そんなのは嫌だ、何とか逃げねば』ともがいても粘液は彼女にまとわりついてその場から逃がさない。

 万事休すかと思われたその時……。


「ん?」


 ベゼリアの声に緊張が走った。

 アルタミルに対してではない。彼女の無力化は完璧でこれ以上注意の払いようがない。


 そしてアルタミルも気づいた。


 人がいた。

 ベゼリアでもアルタミルでもない三人目の人物。

 フード付きのマントを目深に被り、姿隠され何者なのかまったくわからない。


 魔族なのか人間なのか、男なのか女なのか、若者なのか老人なのかも。


「アレ誰? ここに来てまだ仲間がいるなんて侮れないね勇者くん? 用心残し過ぎじゃない?」


 ベゼリアは、勇者の仲間が救援に駆け付けたと思ったが、違う。

 アルタミルにはまったく心当たりがない。


 では一体、この闖入者は何者なのか。


 ベゼリアもアルタミルも戸惑うのを尻目に、謎の人物はマントの内から取り出す。


 剣。


 鋭い直剣を掲げ、謎のマント人物は放つ技の名を呟いた。


「……『逢魔裂空』」

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