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104 ゼビアンテス、要塞を防衛する(四天王side)

 それは勇者たちがラスパーダ要塞に攻めかかる数日前に遡る……。



「勇者が来るのだわ」

「「はあッ!?」」


 ラスパーダ要塞内部。

 防衛のために四天王全員が配備されていた。

 その中でも風属性を司るゼビアンテスだけは自由に、遊びたい時は姿を消してどこぞで遊び呆けている。


 それでも最近は、定期的に着任して防衛任務を果たしてくれるのでマシな方ではあったが……。

 そのゼビアンテスがある時またどこぞから遊び還ってきた途端非常事態を告げてきたので、同僚であるドロイエ、ベゼリア素直に驚く。


「勇者が攻めてくるだと!? ここ最近とんと音沙汰なかった勇者が!?」

「いや、そっちの勇者じゃないのだわ」

「そっちって!? どっち!?」


 勇者が増えたという情報自体まだ得ていなかったドロイエは混乱の極み。

 ゼビアンテスからの要領をえない説明を三度も聞き返してやっと納得する。


「……なるほど。人間どもは一度に複数勇者を派遣してきたということか。新しいアプローチだな」


 魔王軍四天王『沃地』のドロイエ。

 同じく『濁水』のベゼリア。


 この二人は真面目に防衛任務をこなしているため要塞から離れることがなく、従って情報も収集しにくい。

 そうでなくとも敵勢力である人間側の情報を入手するのは至難の業であったが……。


「凄いなゼビアンテス! 時々いなくなると思ったら、そのたび重大情報を手土産に帰ってくるとは!」

「はっはっはっは、もっとわたくしを讃えるがいいのだわ」


 得意満面にふんぞり返るゼビアンテス。


 そもそも彼女がもたらす有用情報のすべてが例外なくダリエル提供で、ゼビアンテスはいわば伝書鳩のようなものに過ぎないのだが、そこは隠して全力で手柄を誇る。


「知らせるだけじゃ手柄にならない」


 そう棘のある言い方をするのは、水属性を司る四天王ベゼリア。

 バシュバーザが死んだ今、女性二人に囲まれ唯一の男性四天王になってしまった。


「四天王は伝令兵じゃなく指揮官だ。指揮官の仕事はもたらされた情報を元に作戦を練り、実行に移すことだ。それができなければ四天王でいる意味はない」

「わかってるのだわー。いちいちケチつける男なのだわー」


 ゼビアンテスは一瞬だけ不機嫌そうになりながらも……。


「もちろん! 迎撃についても秘策ありなのだわ!」

「迎撃?」

「攻めてくるからには迎え撃つのが当然なのだわ。これについては話し合うまでもないと思うのだけど……?」


 念を押されてドロイエもベゼリアも頷くより他なかった。


 ゼビアンテスが提唱する勇者迎撃プランは、当然ながらダリエルが立案したものだった。

 彼が魔王軍在籍時代、先代四天王の下で何度となく勇者一行と争い、身につけた経験と知恵がフルに発揮される。


 ゼビアンテスを通して要塞に敷かれる堅固な防御態勢。



 そして数日が経ち……。


「来やがったのだわ」


 要塞の手前にまで到達した新勇者たちを早速発見した。

 手前といってもまだ肉眼では捉えられないほど離れている。


 しかし、ゼビアンテスがあらかじめ魔法で使役した野鳥を四方に放ち、視覚を共有することで苦もなく見つけ出せたのであった。


 かつて四天王バシュバーザが高リスクを伴いながら魔獣を使役せんとしたが、それと違って小型の鳥獣程度なら操作魔法は一般的な扱いだった。


「三人の勇者がそれぞれパーティを率いているのだわ。四人パーティが三つで……合計十五人なのだわ」

「十二人だよ」


 ゼビアンテスの計算間違いを聞いてベゼリアが『コイツマジかよ……!?』と戦慄した。


「こちらが気づいたことに、あちらは気づいたか?」

「全然だわー。アイツら、レーディちゃんと同じ勇者とは思えない緩みっぷりだわー」


 四天王たちとて、こうして遥か遠方にいる攻め手を常に必ず察知できるわけではない。

 今回は、特に警戒を密にしていたため即座に発見できた。


 ダリエルが、三勇者の出発した日にちから、おおよその到着タイミングを割り出したことによる。


 これをもまたゼビアンテスを通して要塞防衛陣にもたらされ、彼女の神秘的直感として実用された。


 とにかくも、相手に気づかれる前に相手の動向を察知できるという圧倒的優位に立つことができた魔族側。


「さて、どう迎え撃つ? 動きがわかるとはいえ相手の人数は過去最大だ。簡単に片づけられるとは思えないけど?」

「あ、ちょっと待つのだわ? アイツらまとまらずにバラけていくのだわ。それぞれ別方向から攻めてくるみたい」


 攻め手の三勇者たちが協力する意思なく、それぞれ手柄を競い合う形で攻め上ってくることまで四天王たちは把握できない。


「各個撃破のチャンスが生まれて有利になったと考えるべきか? 我ら三人まとまって出撃。パーティ一つ一つを時間差で片付けていくというのはどうだ?」

「一戦に手間取ればそのまま追い詰められる戦法でもあるね。要塞の堅固さを頼りに守勢に徹する手もあるけど……」


 ドロイエとベゼリアが案を出し合う中、ゼビアンテスが必殺の笑みを浮かべる。


「大丈夫なのだわ。そこにも秘策は既にあるのだわ」

「おお!」


 もちろん、それもダリエルから授けられた考えだったが、ゼビアンテスは善良で自分の手柄にした。



「準備オッケーなのだわ! ベゼリア、言われたとおりにやるのだわ!」

「へいへい……」


 ゼビアンテスの指示を受け、ベゼリアは魔法詠唱を口ずさむ。


『濁水』の称号を持つ彼が得意とするのは当然水属性の魔法。


 かざした手から発生する湧水。

 そこへゼビアンテスが魔法で風を送り込む。


 水と風の融合。


 そして出来上がるのは……。


「おお……」


 風によって拡散され、細かい飛沫となった水滴が空気中へと広がっていく。

 微小水滴が無数に飛び交い、光を屈折させ空間を真っ白に塗りつぶしてしまうその現象は……。


「霧……!?」


『濁水』ベゼリアと『華風』ゼビアンテスが協力して起こした霧は、さらに風に乗って無限に広がっていく。


 要塞を起点に、人間族勢力圏の方向へ。


「これで敵は、霧に視界を塞がれることになるのだわ。敵地で方向を見失い。下手をすれば遭難することになるのだわ」

「凄いな、攻撃力もない霧などで敵に致命的な妨害を与えることができるのか?」

「それだけじゃないのだわ」


 ゼビアンテスは得意げに説明する。


「この霧はただの霧じゃないのだわ。魔法で生み出した水には特殊な仕掛けが施されてあるのだわ」

「元々は『探知水』ってヤツでね」


 ベゼリアが説明を引き継ぐ。


「水に触れたものの感触が、術者に即伝わってくるのさ。水属性の優秀な探知魔法で、コイツから存在を隠し通すことはまず不可能とされている」


 たとえば風の隠密魔法で足音を殺したり、光の屈折率を操作して姿を隠そうと、設置された水に触れるだけで存在がバレてしまう。


「本当は、床一面に水を張って、相手が踏むのを待ち受けるみたいな使い方をするんだけどね。まさか霧状にして散布するとは……!?」

「霧になっても『探知水』の機能はしっかり生きているはずなのだわ。ベゼリア、探ってみるのだわ」

「ん……!」


 促されてベゼリア、両眼を閉じ、五感以外のさらなる感覚を開いて明確にする。


「……凄いな、本当にわかる」

「なんと!?」

「霧の中を進む人間族の動きが手に取るようにわかるよ。右翼側の森を突っ切る一団。正面から迫ってくる一団。高台で様子を窺うような動きをしている一団……」


 ベゼリア自身、ここまで克明に敵の動きがわかることに戸惑いを覚えているようだった。

 単なる霧を発生させる魔法なら、風属性にも水属性にもある。

『探知能力を持った霧』を発生させるために風と水が協力する必要があった。


 これは魔法教本にも載っていない裏技のようなもので、それを思いついたのはもちろんゼビアンテスではない。


 彼女の前に四天王に就いていた『暴風』トルネーラ、『霊水』コルデリーザが共同で編み出した。

 過去、彼女らが使う裏技魔法を補佐役だったダリエルが目撃し、次代のゼビアンテスに伝えたのである。


 敵の視界を塞ぎながら、敵の位置を正確に察知できる強力な魔法で、ドロイエら守城勢はさらなる優位に立つことができたのである。


「でも、優位に立つことと勝つことは似ているようでまったく違うのだわ」


 ゼビアンテスが勇ましく言った。


「優位を勝利に確定させるためにすべきことは行動しかないのだわ! 勝利への第一歩を踏み出すのだわ!」


 ダリエルが彼女に教えたことは、まだまだたくさんある。

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