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101 『剣』の勇者ピガロ、武器を買えない

 こうして勇者の人たちを村に案内する。

 彼らはレーディに会うことだけが目的だったので特に村の中は歩き回らなかったらしい。


「へー、勇者?」

「なんで? 勇者ならもうレーディちゃんがいるじゃない?」


 村人たちの反応は概ねこんなものだった。


 勇者が一度に複数選抜されるなどという過去前例のない状況に、一般人はピガロ、アルタミル、ゼスターの三人を、レーディと同じようには見ない。


「なんか不審者として見られているような……」

「無礼な連中だ……!」


 その視線に当人たちも居心地悪さを感じるのだった。


「でもミスリルねえ……、普通の村のように見えて、そんな凄いものを扱っているのね」


 列に加わり移動しながらアルタミルは言う。


「レーディが居着いちゃう気持ちがわかってきたかも……。ねえレーディ、この村一体何なの? 滅茶苦茶強い村人はいるし、実は何かの重要拠点?」

「そ、そんなことないと思うけど……!?」


 苦笑するレーディだった。


 とにかく今は『剣』の勇者ピガロの要請に応じて鍛冶場へ向かう途中だ。


 専用武器を製造せよ、ということで鍛冶職人に直接の交渉が必要だろうということ。

 彼らもまた勇者である以上はセンターギルドからの便宜も行き届いているだろう。

 レーディの時のように『金に糸目はつけないから優先して武器を作りなさい』というお達しも来るに違いない。

 今はまだ来ないけど


 だから無碍にすることもできないのだ。


「……キミたちも作る? ミスリル武器?」


 俺は気づいて、同行する二人にも確認してみる。

 アルタミルとゼスター。

 彼らも一応勇者なら、戦い抜くためにもより強力な武器が必要だろう。


「私はいいわよ。今のままで」


 アルタミルは、みずからの所持する弓を示しながら言った。


「弓の主原料は木材だから。矢を遠くまで飛ばすには木のしなやかさが一番なの。この弓は厳選された木材を複数重ね合わせた特注品なんだから」


 なるほど。

 弓は金属より木材か。


「それがしも今は武器の性能より『凄皇剛烈』を完成させる方が先決」


 とゼスター。

 じゃあ武器を欲しがってるのは正真正銘ピガロだけか。


 ……チッ、村が潤うチャンスだと思ったのに。


「くだらんお喋りはやめて早く案内しろ。オレは一刻も早く最強剣をもって魔王を殺さねばならんのだ」


 センターギルドから『剣』の勇者都の称号を貰ったピガロは、やっぱり使用武器は剣らしい。


 まあ、お金を払ってくれればお客さんだ。

 報酬のために今は下手に出ておこう。



 そして鍛冶場に到着。

 中では相変わらず多くの鍛冶師と共に、その代表サカイくんが活き活き働いていた。


「あッ、村長! それに勇者様! ちょうどよいところへ!!」


 そしてサカイくんは何やらいつも以上にテンションが高い。

 なんかあった?


「完成したんです! ついに勇者様専用の武器! 剣が!!」

「えッ!?」


 サカイくんが差し出す刃の分厚い片刃剣。

 それを受け取るのは勇者レーディだ。


「これが……、私のための剣……!?」

「試作品のコンセプトをそのまま引き継ぎ、刃毀れしてもすぐさま修復する自己修復合金で鍛え上げました。最高の斬れ味を常に保てるだけでなく、過剰なオーラ注入にも耐えられるはずです!!」


 随分早く仕上がったな……!?

 これまで時間かけてグダグダしてたのに……!?


「不死刀と名付けてみました!」


 再生し続けるがゆえに死ぬことのない剣か。


「マサリさんのお陰ですよ! 彼女が思った通りの合金を連勤してくれるから作業がサクサク進みます!」

「ダーリンの腕がいいからよ」

「ハニー!」


 隣に控える女錬金術師と、情熱のままにハグし合うサカイくん。

 コイツらもうそんなに……!?


「ほう、素晴らしいではないか!」


 呼ばれてないのに強引に割って入る『剣』の勇者ピガロ。


「鍛冶師! お前に命じるがオレのために最高の剣を作れ! 今レーディに渡したものよりも優れた。そこの村人の持つ武器よりもずっと優れた剣をだ!」


 そう言って俺をズビシと指さす。


 サカイくんは面食らって戸惑う。


「えッ? 誰? 何です?」


 俺を指さすってことは『そこの村人』とは俺のことで、俺の持つ武器というのはヘルメス刀のことだろう。


「なんだかよくわかりませんけどヘルメス刀以上の武器ですか? 無理ですよ作れません」

「なんでだ!?」

「ヘルメス刀は僕の師匠であるスミスの最高傑作です。それを超えるにはまだまだ僕の腕は未熟すぎます」

「なら、お前などどうでもいい! その師匠とやらを出せ! ソイツにオレの専用武器を作らせる!!」

「それも無理」

「なんだとッ!?」


 ピガロ勝手に逆上。


「オレは勇者だぞ! 勇者の要請を聞けないなど鍛冶師はいつからそんなに偉くなった!? お前らは『はい』とだけ言っていればいいんだ」

「でも勇者はレーディ様で、何アナタが勝手に名乗って……!?」


 サカイくんから戸惑いの視線を向けられ、俺は黙って被りを振った。


「……どっちにしろ師匠はもう武器を作りませんよ」

「だから何故だ! 勇者が命じているんだぞ!?」

「死者に仕事はできません」


 サカイくんが視線を上げる。その先の壁には肖像画が立てかけてあった。

 在りし日のスミスじいさんの肖像画。

 師の教えを忘れぬように飾ってあるのだとか。


「死んだ……!? いない……!?」

「だからこそ村長のヘルメス刀は、師の遺作にして最高傑作なんです。僕も鍛冶師である以上、いつかは師を超える名品を作り出したいという野心はありますが、何年も先の話ですよ。いや、何十年先かな……!?」

「この役立たずが……!!」


 ピガロはギリギリと歯を軋ませる。

 どんどん冷静さがなくなっていく。


「ならお前でかまわん! オレ専用の剣を作れ。お前に作れる最高の出来栄えでだ」

「それが仕事ですから作れと言われたら作りますが……、もちろんお代はいただきますよ?」


 報酬あっての仕事なのである。


「当然だ、お前ごとき貧乏鍛冶師が見たこともない大金を出してやる。……アルタミル!」

「はいはい、これセンターギルドから預かってきた書状だけど……」


 アルタミルが懐から封書を取り出す。


「他のヤツは粗末に扱いそうだから私が一括管理してるのよ。ここにセンターギルドのお墨付きが記してあるわ。『請求は後程センターギルドが立て替えるので、勇者に最大限の便宜を図りなさい』と……」

「えーと……?」


 アルタミルから受け取った書状に目を通し、サカイくん返答。


「これじゃダメですね」

「なにいいいいいいいッ!?」


 ピガロは思ってもみなかったのだろう、拒絶の返答に荒ぶる。


「だって見てくださいよここ。センターギルドが後払いする金額に上限が設けられてる」

「はい?」


 俺も気になって見てみると、書状にはたしかに『……以下の金額を保証する』という一文が書き記してあった。

 つまりそれ以上の金額は保証できないと?


「希少鉱物のミスリルを材料に一点ものとして作り上げるんだから、この金額じゃ全然足りませんよ。そちらの既製品からお求めすることをお勧めします」

「勇者が量産品など使えるかッ! 何故だ、何故そんな金額の上限などッ!?」


 レーディの時には、そんな上限なかった気がするが。


「あのサカイくん……? 私の不死刀の代金は……?」

「大丈夫ですよレーディ様。それはもう全額頂いていますので」


 そう返答を受けて心底ホッとした表情のレーディだった。


 よく考えてみたら、勇者に最大限の便宜を図るのは人間像側の伝統とは言え、それが複数に増えたら、さすがに手厚さも分散してしまうか?


「今まで一人の勇者に与えていた補助を、一気に四人分も増やしたらさすがにセンターギルドの家計も持たないか……」

「愚か者どもがッ!!」


 ピガロ絶叫。


「魔王討伐という偉業を成し遂げるのに資金をケチってどうする! おい鍛冶師、金などどうでもいい! オレのために武器を作れば、それでオレが魔王を倒してやる! そうすればお前の鍛冶師としての名声は永年に残るぞ!!」

「スミス師匠から、金槌の打ち方より先に教えてもらったことがありましてね」


 サカイくん、鼻で笑うように言う。


「『冒険者の出世払いは信用するな』って。デカいクエストを達成して報酬を払ってやるって言っても、結局作ってやった武器と一緒に死体になって帰ってくる。作り損になるから報酬は必ずブツと引き換えでってね」


 サカイくんも、ピガロの態度が腹に据えかねていたのだろう。

 日頃からは考えられないくらいに冷淡だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字の報告です。 「マサリさんのお陰ですよ! 彼女が思った通りの合金を連勤してくれるから作業がサクサク進みます!」 連勤 → 錬金
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