00 解雇通知
「解雇……ですか……!?」
わけがわからずに聞き返した。
言われたことをそのままに。
「四天王補佐の職を解かれるというのですか?」
「違うわ。鈍いなバカ者が」
目前には、我が直接の上司たる魔王軍四天王の面々が勢揃いしている。
その中でもっとも堂々とした『絢火』のバシュバーザ様が言う。
「四天王補佐ではない。魔王軍自体をクビだと言っているんだ。それぐらいもわからんのか?」
益々耳を疑った。
何故?
俺の日々の仕事に落ち度はなかったはずだ。
「まだ理解できないのかい? 鈍いねえ? そんなことだからクビになるんだよ?」
四天王『濁水』のベゼリア様が言った。
「だから下等血族は嫌なのよ。わたくしたち四天王の横に立つのはもっと華麗な者の方がいいのだわ」
四天王『華風』のゼビアンテス様が言った。
「…………」
四天王『沃地』のドロイエ様は何も言わなかった。
そして再びバシュバーザ様の発言。
「よく考えてもみろ。ダリエル、お前は暗黒兵士。魔王軍最下級のクラスだ。そんな最底辺が我らの補佐をすること自体おかしいことなんだよ!」
「それは……!」
「知ってるよ! お前は魔法が使えない。だから最下級のままなんだ。無能者は魔王軍には必要ない! それがお前をクビにする理由だ!!」
「それ以上の理由もないよねえ?」と隣でベゼリア様がケラケラ笑った。
「…………ですが、私には先代様より言付かった使命が…………!」
「そうだ、所詮お前が四天王補佐に就くなど父上の気まぐれでしかない。そうでなければお前のような最下級が、無能が、どうして称揚される?」
暗黒兵士――、最下級。
魔法が使えない――、無能。
バシュバーザ様の指摘は何から何まで正解だった。
「しかし父上はもう引退した。今はボクたちの時代だ! 輝かしい新時代に、お前のような過去の遺物は必要ない!」
「気に入らなかったんだよねえ? 先代の頃から留任したキミが近くにいるとさ? 先代から見張られてるみたいで?」
「我ら新四天王の傍らには、もっと新鮮な者を置きたいの。アンタみたいにカビ臭いオッサンの吐く空気なんか吸いたくないのだわ」
四天王は、魔王軍の最高意思。
さらにその上に立つ魔王様から全権を委ねられ、彼らの決定に異を唱えられるものは魔王軍の中にはいない。
「……わかりました」
俺は観念した。
「暗黒兵士ダリエル。これにてお暇を頂きます。長い間お世話になりました」
「仰々しい挨拶などいらん! 失せろ! お前がいなくなって初めて魔王軍は完璧! 正常となるのだ!!」
これ以上留まっていられず、俺はその場を去った。
魔王軍の本拠、魔王城からも。
そして二度とここへ戻ってくることはないだろう。
俺の名はダリエル。
魔王軍最下級の暗黒兵士……。
だった。
今はただのダリエルだ。