第2話 お風呂タイム(ただし一人です)
ドアに飾られたプレートには『風呂場』としか書かれていないが、部屋の中は脱衣所と風呂場にきちんと分かれている。その脱衣所でリーティアはメイド服だけでなく、下着にまで液体が染み込んでしまった為に脱ぐのに手間取っていた。
「んしょっ……よ、ようやく脱げた……」
着ていた物を全てカゴの中へと放り込み、リーティアは凹凸のない裸体を晒け出す。カゴにある物は本来ならば彼女が洗い、外に干さなければならない。しかし『それでは時間がかかる』とゼロの魔術によって、それら全てを飛ばして畳む事だけが洗濯での唯一の仕事になっている。
「うう、ベトベトする……早く洗おう」
ドアを閉め、タオルを持って風呂場へと入るリーティア。風呂場とはいえ、お湯が張られた浴槽があるわけではない。あるのはシャワー、鏡、それとゼロが実験の片手間に作った石鹸と呼ばれる物だけ。
シャワーというのは本来、貴族や王族しか使えない。その理由は火の魔石と水の魔石が必要だからだ。魔素と呼ばれる空気中に漂う粒子を取り込んだ不思議な鉱物、魔石。人々の生活を大変便利にしてくれるが、入手が困難な為に平民が手を出す事は到底不可能な代物である。
「とにかくまずは流してっと……」
リーティアはハンドルを回してお湯を出す。水の魔石だけでは水しか出てこないが、火の魔石が加わる事で温められ、ちょうど良いお湯が出てくるという仕組みだ。
「ふぅ〜」
頭から足の先まで勢いよくかけられるお湯により液体は流れていくが、完璧ではない。試しに触ってみてヌルッとした感触が残っている事が証拠である。故にリーティアはシャワーを一度止め、濡らしたタオルに石鹸を擦り付けた。しばらくすると泡立っていき、鼻に気持ちのいい香りが漂ってくるのが分かる。
「あっ……ゼロ様、石鹸変えたんだ。前のも良かったけど、こっちも好きかも」
石鹸を元の場所へと戻し、体を洗い始める。いつものように上から下へと洗っていく途中で、リーティアは自分の胸へと視線を移す。そこは確かにゼロが『まな板』と言ってもおかしくない程に薄い。例えれば、ぺたーん、である。
「はあぁぁぁ……どうしてボク、こんなちっちゃいんだろ……」
長い溜め息を吐き、両手で持ってみようとするも掴めずに滑るだけだ。揉めば大きくなる、その事を知って試してみようとした時にゼロからそれは迷信だと告げられて落ち込んだのはつい最近の事である。
「……そういえば」
リーティアは自分の姿を鏡に映す。出ていない所が多く、実年齢よりも幼く見えるのは彼女にとって大きなコンプレックスであった。それに他者から好まれる体でもないだろうとも。
しかしそれ以外にもう一つ、致命的な点があるというのになぜ自分がゼロに選ばれたのか。他に選ばれてもおかしくない人達がいたにも関わらず、どうして自分だったのか。それがリーティアには未だに理解できていなかった。
その答えを出す為にリーティアは初めてゼロと出会ったあの日────正確には自分が買われた日の事を思い出した。