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今年1年の振り返り 2017ver.

作者: 鈴珀七音

“なにあれ……?”

私は目の前の光景に言葉を失った。私の妄想の中だけにいるはずの人が目の前にいるのだから。光が反射し、キラキラの輝きを放った水色の剣を持った彼女の姿に、私は終始見とれていた。横から聞こえてくる銃声と鞭が空気を切る音、そして彼女の仲間だと思われる人たちの掛け声が、私にこれは現実だと知らせてくるようだった。

“いったい彼女たちは何者?”

私の中にある好奇心に火がついた瞬間だった。


「あれぇ?部活で疲れすぎて幻覚でもみてるのかなぁ?」

私はいつものように家に帰っていると、近くにある建物よりもずっと大きな魔物のようなものと、それに立ち向かっている5人の軽やかな動きが目に飛び込んできた。私は思わずその場に立ち止まる。すると、隣に私と同じように幻覚をじっと見つめている女の子がいた。

「あなたにも見えているの?幻覚が。」

私が突然話しかけたから、彼女が驚いてとてつもなく大きな声を発した。

「ご、ごめんなさい!ちょ、ちょっと考えごとしてて……。」

「考えごと?」

「うん。考えごとっていうか……、まぁ……。」

彼女はコミュ障なのか、小さく縮こまって顔を下に向けてしまった。

「そりゃ、あれ見たら言葉出てこなくなっちゃうよね……。でもこれで分かった!あれは幻覚じゃない!同じ場所で、同じ幻覚を見るなんてそんなのありえないでしょ、たぶん!」

彼女はまた顔を私に向けてくれたけど、口を開けてポカーンとしている。

「あの人たちの正体を、2人で暴きだそう!」

「いや、ちょっと待って!私たち今会ったばかりでしょ?暴き出そうって言っても限界があるし、どうやって連絡をとりあうのよ!?」

私はスマホをパッと取り出し、画面を数回タップして彼女にそれを見せた。

「これでとればいいじゃない。」

私が見せたのは、TwitterのQRコードだった。彼女も急いでスマホを取り出し、操作し始める。

「ひびきさん?」

「そう!一花(いちか)さんでいいの?」

「はい。よろしくお願いします。」

彼女の緊張が解けたのか、やっと表情が少し柔らかくなった。


「ふわぁ、づがれだー!」

(かすみ)が伸びをして、体をボキボキと鳴らしている。俺も疲れていたみたいで、大きなあくびが出た。

「今回のディソナンスもなかなか手強かったもんなぁ……。」

そう言いながら、俺は変身するときにそこらへんに置いた荷物をまとめ始めた。俺以外のみんなも、ゆっくりと荷物をまとめている。

「そういえば、今日なんか誰かに見られている感じがしなかった?」

(はく)の発言に、みんなが注目して彼の方を向いた。

「え、そうかな?」

「でも誰かに見られていてもおかしくないよね?それに見られていて困るわけでもないし……。」

「うんうん。まぁ、そんなの気のせいでしょ!」

そんなことを言っていると、みんな帰る準備ができたみたいだ。

「じゃあ帰りますか。」

(あかり)先輩の一声で、俺らはみんなで固まって歩き始めた。空に浮かぶ、赤い夕焼けを目に焼き付けながら……。


家に帰って、私は一花さんにDMで連絡をしてみた。すると返事がすぐに返ってくる。あまりの早さに私は驚いた。

「私ツイ廃なんですよねーw」

ツイ廃という言葉の意味が分からなくて少し戸惑ったけど、それはおいといてとりあえずここまでの情報を整理してみることになった。

「戦っていたのって何人でしたっけ?」

「私が覚えているのは3人で赤と橙と緑の人。」

「確か、青と黄色の人もいたわ。じゃあ5人くらい?」

「たぶん……。こんな感じで、正体分かるのかな?」

「分かんないけど……。やるしかないでしょ!」

「そうだね!」

こう言って一花との会話が途切れた。少し時間が経ってから、私はこの会話を見返してみる。いつの間にか2人の間で敬語がなくなっているのに気づいて少し噴き出した。


「どうしよう?言えない……。」

私はスマホの前で頭を抱えた。そして大きなため息をつく。

“なんで私の妄想が目の前に出てくるの?そしてなんで私以外の人が見えているの?ほんと意味わかんない!”

私はイライラして近くのベットにダイブした。そしてこぶしを作り、ベットを強くたたく。それで少し落ち着いたので、私はさっきの会話を見返してみた。

“5人?あれ、私の妄想は1人だけじゃなかったっけ?”

この疑問が私の頭の中を支配していく。

「まぁいっか!」

私はこう独り言を言って、この日は考えるのをやめた。


次の日、私はいつものように部活の朝練に向かった。

「先輩、何かいいことあったんですか?」

荷物を置いていると、同じパートの1年生であるあかりちゃんが話しかけてきた。

「え?なんで?」

するとあかりちゃんの後ろから、ちかちゃんがひょこっと顔を出してきて、満面の笑みでこう言ってきた。

「先輩顔が笑ってますよー?何かあったんですか?」

「いや……。そんな……。」

顔が急に熱くなってきた。私は思わず顔を手で覆う。2人の笑い声が私の耳に届いてきた。練習になるとこの2人とは壁を少し感じるけれど、こういう練習以外の時間はこうやってたまにちょっかいをかけてくる。オンとオフの切り替えがちゃんとできる2人のことを、私は先輩だけど勝手に尊敬していた。

「それで、何があったんですか?」

「いや、実はね……」

こう言って私は2人に昨日の出来事を話してみた。近くにある建物よりもずっと大きな魔物のようなものと、それに立ち向かっている5人の話。それを聞いて、2人は思い当たる節があるのか、何かを思い出しているような素振りを見せた。

「先輩、それ見たことありますよ。」

「ちかと一緒に近くの公民館で練習していたんですけど、その帰りに何かおっきなものと戦っている2人の男の子を見ました。最初は拳銃を持った赤色の服を着た男の子だけだったんですけど、途中から鞭のようなものを持った黄色い服を着た男の子も出てきて……。」

「あれって何だったんだろうね?」


「え!?ほんと!?」

朝練が終わってから私は一花にこのことを報告すると、昨日と同じように一秒も待たなかったんじゃないかってくらいの早さで返事がきた。

「うん。だから、この辺とかでよく見れるのかもしれないね。そっちは何かあった?」

「うーん……。新しい情報ってわけじゃないけど、うちの学校で仲がいいって有名な5人組ならいるよ。」

「え、そうなの?」

「うん。私はその子たちと話したことないからよく知らないけど、よく話題にはのぼる。」

「へー。どんな人たち?」

「なんか、女の子が3人と男の子が2人で吹奏楽繋がりなんだとか。でも男の子2人は吹部に入ってないし、なにか裏があるんじゃないかって周りの人たちは言ってるよ。」

「そっか……。また何かあったら連絡するね。」

「はーい!」

この会話が終わった瞬間に学校のチャイムが鳴った。

“一花の学校にいる5人組の話、なんかひっかかるな……。”


はっくしょん!

珀の大きなくしゃみの音が教室に響き渡って、そこにいる人たちがこっちに一斉に注目してきた。

「ちょっと大丈夫?」

「大丈夫だよ、(なぎ)。風邪ひいてるわけでもないのに、誰か噂でもしてるんじゃないかな?」

「あ、そう……。」

うちはこう言いながら珀にティッシュを差し出した。珀はそれを一枚とって、思いっきり鼻をかむ。

「やっぱ風邪ひいてるんじゃない?」

「かもね。これもらっていい?」

「いいよ。」

「ありがとう。」

このやり取りが終わって、うちは自分の席に戻った。

“噂ねぇ……。この前の視線のこともあるし、誰かがうちらのことを嗅ぎまわっているのかな……?”


放課後、私は図書室でヒントを探してみることにした。静かに戸を開けて中に入る。すると、中には5人組の中の2人、確か(ほむら)くんと珀くんがいた。朝、ひびきとの話題にのぼっていたっていうのもあって、私は気になって彼らの近くに座って少し様子を見てみることにした。

「9月3日ねぇ……。それってほんとの話?」

「うん、ほんと。」

気になるやり取りが聞こえてきて、私は気付かれない程度に耳を彼らのところに近づけた。

「これって、霞たちにも伝えた?」

「ううん、まだ。でも早く伝えた方がいいよね。」

「うん、そうだな。ってなると、あと3ヶ月くらい?それまでに俺らはディソナンスとしっかり戦えるようにならないといけないってことだよな……?」

「そうだね。だから僕たちも頑張っていかないと。」

そう言って彼らは立ち上がってどこかへ行ってしまった。私はこのやり取りを信じることができない。とりあえず、一花に相談しなきゃ……。


一花からの知らせを聞いて、私たちは最初に出会った場所で待ち合わせることになった。私は自分のクラリネットのケースを肩に斜め掛けして、一花のもとに向かう。すると、待ち合わせの場所に一花じゃない誰かが立っていた。何かに怒っているのだろうか、黒い感情のようなものを感じる。すると、彼女が私の方を向いた。

「あなただったの?この前戦っているのを見たのは。」

彼女のきつい目線と刺してくるような言葉の鋭さに、私は本能的に後ろへ下がった。

「ひびき?何してるの?」

彼女の後ろから、一花が歩いてきて私に声をかけてくる。

「一花、ここから逃げよう!ここにいたらいけない気がする!」

「そうはさせるか!グラマー ソンブル!」

すると私が持っていたケースがガタガタと震えだした。そしてケースが開き、中から私のクラリネットが巨大な魔物になって現れる。一花が私のところに走ってきて、一緒に抱き合って震えあがった。彼女の方を向くと、私たちの方を見てにやにやと笑っている。あの5人が助けに来てくれたら……。

「「「「「グラマー 」」」」」オー!フー!アイレ!トネール!ルーメン!

私が後ろに振り向くと、この前の5人の姿があった。そして5人はそれぞれあの魔物に立ち向かっていく。そのうちの1人、青色の剣を持った女の子が私に話しかけてきた。

「大丈夫。私が絶対にあなたの楽器を返すから。」

そして彼女は魔物の方へと走っていった。私は彼女の背中を見ながら固まっていた。

“さっきの彼女、魔物を出した人と同じ顔じゃなかった?”


“どうやって倒す?持ち主の彼女もいるし、できるだけ傷つけたくない。”

私は目の前にいるディソナンスを睨んだ。でも、ディソナンスは私たちを倒そうとする素振りを見せない。むしろ、早く姿を戻してほしいと訴えているようだった。

「ちょっと!なんで攻撃しないの!?早く倒しなさい!」

澄の慌てた声が後ろから聞こえてくる。でもディソナンスは無視して私たちを優しく見つめてきた。

“そっか、そのクラリネットはずっと人に大切にされてきたんだね。人を愛しているのね。”

「ちょっと待っててね!もとの姿に戻してあげるから!」

そして私たち5人は話し合って、明先輩の光の力でもとの姿に戻してあげることにした。珀が鞭をディソナンス全体に巻き付けていく。そして明先輩がその鞭の持ち手を掴んだ。鞭が光を放ち始める。すると少しずつディソナンスがもとの姿に戻っていった。


彼女がひびきのクラリネットを手にして、私たちのところにやってきた。

「大丈夫だった?びっくりしたよね。」

彼女の笑顔と優しい声に、私のハートが撃ち抜かれたような感じがした。そして自然と笑顔になる。

“やっぱり、私の妄想とは関係なかったのかな……?”

こう思っていると、彼女はひびきにクラリネットを手渡した。

「これからも、このクラを大切にしてあげてね。あ、これケースに入れてあげようか?」

彼女の提案に、ひびきは目を見開いた。

「ほらほら、ケースを開けて!」

ひびきは言われるがままにケースを開けて、地面と平行になるようにケースを持ち上げた。そして彼女は慣れた手つきでクラリネットを解体していく。そして丁寧にケースの中に入れていった。

「私もね、クラ吹いてるんだ。クラリネット楽しいよね!またどっかで会いたいな!」

そして少しずつ彼女の服が変化していく。私は目を疑った。

「同じクラスの霞さん?」

「そうだよ!確か、一花さん?話したことなかったよね、そういえば……。」

こんな身近なところにいたなんて、驚きで言葉を失ってしまった。後ろから霞さんの仲間たちの声が聞こえてくる。その人たちも、私と同じ学校の制服を着ていた。

「何話してるんだ?霞。」

「あれ?友達?」

「うん!今友達になった!」

霞さんの能天気な発言に、私たちは一斉に笑い出した。


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