ドリームキャッスル
二話ですが、基本的にこれだけで完結してします。
「はーい、みなさん。忘れ物はないですね」
「はーいっ」
先生の明るい声にぼくたちは口ぐちに大きな声で返事を返す。
今日は楽しい遠足だから、昨日から楽しみにしていたんだっ。
「なぁ、なぁ、おやつ何もってきた?」
「へへ、キャンディだよ。そっちは?」
「オレ、チョコレート」
「熔けちゃうよ?」
「平気だって」
くすくすくすと先生の話は続いているのについつい隣の席のシン君と別のことを話してしまう。
だって、何回行っても遠足は楽しいんだから仕方ないね。
新しいお友達も増えたりするんだよ。
「用意ができた人から出発ですよ」
「はーい」
先生の話しを聞かずにおしゃべりしてたけど、みんなやってるから怒られなかったよ。
セーフ?
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「みんな。時計の針が上を指す頃にここに集合ですよ」
「はーい」
先生の側にお弁当の入ったかばんを置いて大勢の友達と分かれてシン君と一緒にどこに行こうと話しながら走っていく。
いつもと一緒で従業員すらいない遊園地はぼくたちの貸切だ。
「どこから行く?」
「鏡の迷路?」
「あっちに、新しいのがあるみたいだ」
キラキラとライトが光り、音楽の流れる道を歩いて、どこがいい? あっちがとか相談するのが楽しい。
ぼくがきょろきょろして遅れていたら、シン君が片方の手を差し出してくれる。
テレちゃうけど、ぎゅっと手を繋いでもらって走っていく。
「あ、お城だ。お姫様のお城みたいだね」
「これ、新しいのかな?」
「んー、前の月はなかったから新しいのかも」
時間はいっぱいあるから慌てなくてもいいんだけど、新しいのは気になるよね。
繋いだ手を引っ張って一緒にお城の中に入っていく。
くるくる、くるくると小さな小人が動物たちと踊ってる。
あ、友達も小人と踊ってる。
危ないよ。けがしちゃうって別の子が一生懸命止めてるのに、くるくるって。
「きゃっ」
「あーっ、もう、落ちちゃったよ。だからダメって言ったのに」
「ごめんごめん。拾ってくれてありがとう」
「危ないことしちゃダメだからね」
あーあ、怒られてるっ。
でも、危ないこともしたくなるよね。ぼくたち子供なんだから。
「オレたちもしようぜ」
「広いんだら順番待ちしないで他のところに行こうよ。いいものが見つかるかも」
落ちたのが面白かったのか、次は自分って何人かのお友達が行っちゃったから大混雑だ。
一緒に並んで遊んでもいいけど、並んでいる時間は勿体ないよね。
シン君の手を引いてあんまり人のいない方に進んでいく。
くるくると踊るお姫様と小人たち。
明るい音楽が聞こえているけど、誰もいないから少し怖いかも。
「しくしくしくしく」
「うわっ、っ怖がらそうとしてもダメだからね」
「してないっ。オレじゃないし」
「しくしくしくしく」
「だ、誰。脅かしても、こ、怖くないんだからね」
強がってるけど、怖いよーっ。
でも、ぼくも男の子だし、シン君より先輩なんだから頑張らないと。
「誰?」
「そっちこそ誰っ」
えいって大きく盛り上がっていた布を取ったら箱の中に知らない男の子が座ってた。
見たことない子だから学校の子じゃないよね。
「僕……浅黄相馬……」
「えっえっ」
「オレはシンで、こっちはナナ。こんなとこで何やってんだ?」
ぼくがおたおたしている間にシン君が自己紹介してる。
ぼくの方が先輩なのにっ。
「……きもだめし……して隠れてたのに、誰もこなくて……怖くなって……」
「あー、それ、置いてかれてんじゃねぇの」
「ぷぷっ、シン君と同じ……」
「うるせぇよ」
かぁっと赤くなったシン君がつないだ手を放してぽかぽかと叩いてくる。
痛い、痛いって、本当のこと言っただけなのにっ。
「ねぇねぇ、ぼくたちここに遊びにきてるんだ。暇なら一緒に遊ぼう」
「あー、嫌なら嫌って言って怒られる前に帰った方がいいぞ」
「むぅっ、嫌じゃないよね。ぼくたちの友達になろうよ」
「こいつ意地悪だぞ。帰れ帰れ」
「シン君酷いっ」
ぶーぶーってぼくが文句を言ってる間も箱の子、えっと、相馬君? に帰れって言ってる。
本当に……優しいなぁ。
「……僕、一緒に遊びたい」
ぽつりとつぶやかれた言葉にあーあとシン君が呆れたようにため息を零す。
ちょっと酷くない?
「遊ぼ、遊ぼ、この建物探検しようっ」
えいってぼくとシン君が手を引っ張って箱から出してあげる。
三人で手を繋いで探検だ。
「ソウ君。暗いの平気?」
「……え、怖いよ。えっと、ナナ君は平気なの?」
「ぼくは平気。強いからねっ。でも、暗いの怖いならぼくが魔法を使ってあげるねっ」
えいえいえいってくるくるって回って魔法を使うふりでえいって隅に隠れているスイッチを押す。
パパパパパって明るい電気が光って、キラキラ輝く電気と音楽が鳴り響く。
こういう建物なんてどれも似たり寄ったりだから、何度も遊びにきているぼくに知らないことはないのさ。
「勝手につけたら怒られるぞ」
「いーのいーの。怒られる時は一緒だよ?」
「オレを巻き込むなよっ」
「いいのいいの。友達だもん」
あーあーとため息を付いても手を放してどこかに行かないシン君が大好きだ。
何人もお友達は増えたけど、ぼくとずっと一緒にいてくれるのはシン君だけなんだよね。
酷いよね。みんなお友達になってくれるって言ったのに、ぼくと一緒に遊んでくれないんだ。
「探検。探検」
「ぜったい怒られるからな」
「探検探検」
「オレの話し聞けよなっ」
「イタタタタタっ」
わざわざソウ君の手を放してまでぼくの髪を引っ張らなくてもいいと思うんだけど、抜けちゃうっ。
「ぷ、ふふ、二人とも仲良しだね」
「仲良くないから」
「友達だよ」
ぶーぶーっと文句をいうぼくに腐れ縁だって言いながらも髪を引っ張るのを止めてくれるシン君は優しいね。
「いいなぁ」
「いいでしょ? ぼくの友達なんだよ」
ポツリとソウ君が言うからついそう言い返してしまう。
当然だよね。シン君は特別なんだから、みんなと違って、ぼくと一緒にいてくれる友達なんだよ。
「僕も友達が……欲しい」
「えー、ソウ君もぼくの友達になってくれるんでしょ? 一緒にずっと遊ぼうっ」
ぎゅーって手を握ったら驚いた顔をしながらもソウ君が嬉しそうに笑ってる。
わーい、友達が増えたーっ。
「やめとけ、やめとけ、ナナは悪者だから。もっといい友達なんて探したらいっぱいいるぞ」
「悪くないよ。ぼくはすごいんだからね」
「へいへい。ほら、探検するんだろ」
シン君がソウ君の手を引いて歩いて行っちゃう。
ぼくがつなぐ手がないんだけどっ、仲間外れよくないっ。
うーろうーろとソウ君とシン君の周りをまわっていたら、ソウ君が手を繋いでくれたよ。わーいっ。
「お姫様でかくない?」
「この剣ぺらぺらー」
「勝手に触ったら怒られるよ」
お城の中はくるくる場面が変わって、気付いたらさらわれたお姫様が悪い怪獣みたいなのに捕まってるのを王子様が助けているシーンになってる。
このぺらぺらの剣でこんな大きなの倒せないと思うんだけどね。ぺらぺらーって剣をつついて遊んでたらなぜかソウ君が慌ててる。
誰もぼくたちのことなんて怒れないのにね。
同じ動きを繰り返す人形たちの間を縫って、服の中からぼくの一番使い慣れた斧を取り出す。
もうすぐ出口だからサプライズしなきゃ。
「もうすぐ出口だね」
「ああ……ナナ。ダメだからな」
「えーっ、だって、友達なんだよ。ね。ソウ君」
「うん。友達だよ」
ソウ君ともすっかり仲良くなって最初はずっと暗い顔をしてたのにソウ君もニコニコだ。
ぼくたちと一緒にいる方がぜったい楽しいに決まってる。
「ずっと、友達だよ」
えいっと、いつもみたいにうっかり失敗しないように、勢いよく首を切るように斧を斜めに振り下ろす。
ぼく、いつも失敗して何回も切っちゃうんだよね。
みんなニコニコしてたのが失敗したら泣いたり怒ったりするから、本当は一回で友達にできたらいいんだけど……
上手に殺せるようにがんばるから、ソウ君は友達になってね。
「えっ……」
「帰れっ……」
ドンッてシン君が目を丸くして立ち尽くしていたソウ君を出口の扉の向こうに突き飛ばす。
かわりに斧がシン君の腕に当たる。
ごろんって片方しかない手がころがっていく。
そして、出口から出ていったソウ君の姿はうっすらと透けて消えていく。
ああ、もう届かない。
「シン君っ。酷いっ」
「酷いのはお前だ。ほら、お前が切ったんだから早く拾えよ」
「えーっ」
ぶーっぶーっと文句をいいながらもごろりと転がるシン君の片方の腕を持ち上げて、切れ目にぺたっとくっつける。
粘土の玩具のように当たり前のようにくっつく腕をシン君がキモッていいながら軽く振ってる。いや、君の腕だし。
「一回で殺せるように首を狙ったのに邪魔するし。ソウ君帰っちゃったじゃないかっ。せっかく友達が増えるところだったのにっ」
「お前が一回で当てられるわけないだろ。へたくそ」
「ええーっ、ひどいっ」
ぶんぶんっと片手で斧を振り回す。
シン君の時も一回で綺麗に殺せなくて、うっかり落とした腕が今だに見つかってないんだよね。てへっ。
「普通自分を殺したような相手の友達になんかならないんだよ」
「シン君は友達になってくれたよ」
「オレは普通じゃないからいいんだよ」
毎月、月が無くなる夜に誰もいない建物に一人ぼっちで残ってる人がいる建物が集まるようにした特別な場所でぼくはずっと友達を増やしてる。
一人でさみしいと、だれか来てほしいと願っている人だけがいる建物を呼ぶようにしているのだからみんな喜んで友達になってくれると思って大人も子供も何人も友達になってもらったのに、みんな他の子とは楽しそうに遊ぶのにぼくとは遊んでくれないんだ。
一回で上手に殺せなくて、ちょっと切ったり刺したりしながら追いかけたかもしれないけど、まるで怖い化け物でもいるみたいに遠くでぼくを見るだけで話しかけてもくれないんだよ。
増やして、増やして、増やして、人はいっぱいになったのにぼくはずっと一人ぼっちだ。
仲間外れよくない。
だから、遊んでくれる友達をがんばって増やそうとしているのに、最近はシン君がじゃまするからあんまり増えないんだよね。
「この建物は誰もいなくなっちゃったから別の建物に行こうっ。今度は邪魔しちゃダメだよ?」
メッて、人差し指を立ててウインクしながら、かわいく斧を肩に置いてポーズしたら、なぜかぷにーっとぼくの頬が引っ張られる。
いひゃいいひゃい。
「だから、無駄なことしてないで、オレの腕探すのが先だろっ。お前が無くしたんだよなっ」
「拾う前に時間がきて帰っちゃったんだもん。ぼくのせいじゃないしっ。というか、シン君が死んだ建物ってまだあるのっ。なくなってたらここに来ないし、一人で誰かを読んでる子がいないとこないんだけどっ」
「うるせぇ。オレが知るかっ」
「理不尽っ」
えーっと言いながらも、斧をぽいっと投げて消す。
友達増やしてるとさすがにて探す時間足りないし、他の建物になっていても同じ土地ならきっと腕もついてくる……といいなぁ。
「絶対あるわけじゃないんだからねっ」
「ナナはすごいんだろ。がんばれよ」
「すごいけど、すごいんだけど、友達増やす暇なくなるんだけどっ」
友達は増やしたいけど、シン君片手で不便そうだし仕方ないかぁ。
仕方ないから、シン君の片方だけ残った手を掴んで別の建物に走りだす。
「あーあ、今日も新しい友達増やせなかったなぁ」
「……オレがいるんだからいいんだろ」
「友達は百人いるんだよ」
「オレがくるまで何百年ぼっちだったんだよ」
「ホントの事でも、人を傷つけることを言っちゃだめだと思いますっ」
酷いーっと喚きながら、ぼくが増やしたお友達になってくれなかったいろんな年齢のお友達がわいわいと楽しそうに遊んでいるのを横に見ながら、シン君と手を繋いで走っていく。
うん、百人いなくても別にいいかなぁ。
ぼくの手は二本あるけど、シン君の手はぼくの手でいっぱいだからぼくもシン君でいっぱいでもいいかもしれない。
シン君の手が増えるまでシン君一人で我慢してあげよう。
「どや顔ムカつく」
「痛いっ。痛い。へんな方に腕曲がってるからっ」
ぐりっとひねったら痛い……気がするんだからねっ。
ぶーぶーと文句を言いながら二人で走っていく。
次はどこに遊びに行こうかな。
ハイテンションホラー。