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双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第ニ幕 海容
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第21話 人と竜と鬼の連鎖 其のニ



 痛む部分を、押さえて掴んで。

 やけに冷たい汗が額を、背中を伝う。


 いつまでそうしていたのだろうか。

 少しずつだが、胸の痛みが消えていくのが分かって、(りょう)は掴んでいた手の力を緩める。

 ほっとしたのか大きく息を吐いた、その時だった。

 空気を通る喉の辺りに、僅かな引っ掛かりを感じた。

 徐々に噎せ上がってくる息苦しさは、やがて激しい咳となって療を襲う。



「──……っっ!!」



 今度は両の手で口を押さえ込む。

 幾度となく続く咳は、いつ終わるのか、いつ落ち着くのかわからないまま、ひくつく喉が再び咳を誘発する。



(……息が……!)



 ようやく落ち着いて空気を取り込む為に激しく呼吸をすれば、それが要因となって再び咳き込んだ。

 その息苦しさに、療の目から涙が流れる。

 幾度となく迫り上がってくる何かを我慢しながら、転げ落ちる様にして寝台から板間へと移動する。

 限界、だった。


 

 ごぼりとした、水音は。

 ぱたぱたと、板間に落ちる。

 滲む視界の端に見えるのは、鮮やかな:(あか)



 自身の掌にも、べったりとついたそれに、療は驚愕する暇もなく、再び激しく咳き込んだ。



 ──弱らせておいて、やがて動けなくなった鬼を、竜は喰らう。



 激しく息をつきながら、療は今そんなことを思い出していた。

 咳や喀血が続けば、体力は奪われ、全身の怠さや痛みにやがて動けなくなるだろう。



(……生来の竜はこういう時、待ってるんだろうか?)



 じっと。

 苦しむ自分がやがて動けなくなるまで。

 見ているんだろうか。

 ……じっと。



 ぞくりとした悪寒が走るのは、汗の冷たさだけではない。

 それは本能的な恐怖だった。

 竜紅人(りゅこうと)は決してそんなことはしないと分かっている。

 調子が悪いならそう言えと怒鳴りながらも、気付かずに済まなかったと謝ってしまう、そんな人だ。



(……わかって、いるのに)



 蒼竜を目の前にした時には感じられなかった『恐ろしい』という感情に、療は自分の身体を抱き締める。

 浅くて荒い息と、口の中に残る血の味が、再び喉の奥を刺激して、酷く(しわぶ)いた時だった。

 激しい息遣いに上下する療の肉付きの薄い背中を、さする手があった。

 感じ取れなかった気配に、思わず身体を強張らせた療だ。

 だがその手の温かさと、大丈夫かと自身を気遣う声色に、ほっとして力を緩める。



「……らさめ、どうし……」



 視線を背後へ向け、口を開こうとした療が、再度咳き込んだ。

 骨張った手が、幾度も幾度も療の背中をさすると、ようやく療の呼吸が落ち着き始める。



「むら……さめ……?」

「まだ、喋らない方がいい。療」



 

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