第20話 人と竜と鬼の連鎖 其の一
寝台で微睡んでいた療は、違和感を覚えて目を開けた。
先程までは特に何もなかったというのに、胸の奥が重い気がしたのだ。それは鈍痛となって、まるで胃までもが重く、痛くあるようだった。
そして妙に身体が気怠いのだ。
何か自分は、胸や胃に悪いことをしただろうか。
昨日はあまり夕餉を食べることが出来なかった、月の養分も取り込むことも出来なかったからだろうか。
清潔な匂いのする上掛けを身体に巻き付けるようにして、療はそんなことを思いながら、身体の向きを変える。
(……ああ、もしかして)
抑えのきかない、覚醒したばかりの真竜の神気を浴びたからだろうか。
未覚醒の頃に比べて力が格段に違うと気付いた時点で、少し離れた別の部屋に移動すればよかったと、療は後悔する。
以前までは、疲れるだけだった神気が、身体に影響を及ぼすまでになるとは、想像も出来なかったのだ。
鬼族にとって、真竜は天敵だ。
人にとって、鬼族が天敵であるのと同じように。
神気は鬼族の体を、内側から瓦解させる毒の様なものだ。
すぐに症状が現れることはないが、長い時間をかけて蝕んでいく。
そうして弱らせておいて、やがて動けなくなった鬼を、竜は喰らい、その血肉を己の力へと変換させ、人を護るのだ。
鬼は人を喰う。
竜は鬼を喰らい、人に加護を齎す。
人は、彼らを使役する術を持ち。
使役を終えた鬼と竜は。
褒美に人を喰らう。
古より続く、人と竜と鬼の連鎖だ。
決して侮っていたわけではない。
油断していたわけでもない。
覚醒した真竜も、身を灼く様な神気の苛烈さも知識として知っていた。だが実際に経験してみると、情報は所詮、情報だけなのだと思い知らさせる。
(……オイラも香彩のこと、笑えないや)
上掛けを、ぎゅっと握り締めて療は思う。
香彩が自身のことを、まだまだだと嘆いたのは、つい先日のことだ。
情報に翻弄されることは、生死に直結するため流石にない。
だが情報だけ『知っている』ことで対処出来ると思う安心感が、経験不足と相俟って、後悔することはある。
小さくため息をついて、身体を横にしていた療は、ふと妙な違和感を感じて、ゆっくりと身を起こした。
胸の辺りの鈍い痛みが続いていた。
徐々に呼吸が苦しくなり、何だかおかしいと思った次の瞬間だった。
刺す様な痛みを覚えて、療は自身を庇う様に身体を、くの字に曲げた。
それがいけなかったのだろうか。
「──っ!」
まるで刃物にでも刺された様な激痛だった。
療は着衣が皺になり爪が食い込む程、自身の胸部を鷲掴みにした。




