表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第ニ幕 海容
80/110

第11話 前触れ 其の三



 (りょう)は視線を落とすと、自身の手を何気に見つめる。

 成体の鬼族に比べると、まだまだ子供の手だが、鋭爪も形良く伸びつつあり、少しずつだが成長しているのだと分かる。

 鬼族にとってこの爪は立派な武器だ。妖力が上がれば、自在に操れるようになる。



(オイラは……鬼族(きぞく)だ)



 だというのに、この感情は何だというのだろう。

 竜紅人(りゅこうと)が黙り込んでしまった療に対して、同様に沈黙を保つ。

 やがて、おずおずといった様子で、療が話始めた。



「……蒼竜を見た時、何故かオイラ、思っちゃったんだ」



 虚しいって。


 話の内容に、寝そべっていた竜紅人が起き上がり、療を見る。

 視線を感じながらも、療は敢えて竜紅人とは目を合わさずにいた。


 それは寂寥感に近い感情だった。


 寂しくて虚しくて、やりきれない何かが胸を締め付ける様で、いま立っている場所から踏み出せば、足元から崩れ落ちて行きそうな気がして、留まるしかない。助けを求めたくても、分からないのだ。


 何から助けて欲しいのか。


 息が苦しいと感じるのは、竜紅人から充てられる神気だけではなく、療の心の中に眠る何かが叫んでいるからだ。



 満ち足りないのだと。

 懐かしいのだ、と。



「今までそんなこと考えたことなかったのに……蒼竜を見てから、駄目なんだ」



 部屋に沈黙が降りた。

 自分の手をじっと見つめていた療は、黙ってしまった竜紅人が気になり、視線を移す。

 竜紅人はある一点を見つめて、意識を思考の海に沈めているようだった。

 少し聞いていいかと切り出したのは、竜紅人だ。



「お前の母親って、鬼族?」 

「き、鬼族、だけど……」 



 何故こんなことを聞かれるのか、困惑しながらも療が答える。



「じゃあ、父親も、鬼族か?」

「……」



 療が顔に朱を注いで、口籠もる。



「え」 

「……ゆ、ゆきずりだったって……」



 療の口から発せられた言葉に、療同様、竜紅人も思わず顔を赤らめた。



「で、でもとても尊い人だったって……」

「と、尊い人かは置いといて、種族は?」

「……」

「混血の可能性もあるわけだな?」

「何のだよ! それにオイラからそんな気配しないだろ?」



 竜紅人が、何かを探る様にして、じっと療を見据える。

 一体彼には何が見えているのだろう。

 お前さあ、と竜紅人が話始めた、その時だった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ