第10話 前触れ 其の二
「……ったく! ただでさえしばらく近付くな、今のお前達は毒の塊だって、追い払われたっつーのに」
だから機嫌が悪かったのかと、療は納得する。
香彩が熱で倒れたの原因は、叶の甚大な妖気と鵺の妖気、そして竜紅人の神気だ。
竜紅人も普段は抑えているが、叶に攻撃を仕掛けられたのなら、解放するしか抵抗する術などない。
近くにいる保護対象の香彩のことなど、きっと気に掛けている余裕などなかったはずだ。
自分が原因の一端を担っているというのに、香彩に会うことが出来ない。身体の様子を見ることも出来なければ、看病も出来ない。寧ろ近くにいればいるほど、香彩の容体は悪くなる。
どうしようもない状況だったにせよ、竜紅人の心の中には焦りと苛立ちがあるはずだ。
守れなかったのだ、と。
療は小さく息をつく。
「毒の塊って、上手いこと言うね紫雨」
「どこが上手いんだよ、まんまじゃねぇか!」
竜紅人の感情の昂りだけで増す神気に、療は露骨に嫌な顔をして見せた。
「本当に、きかないんだね、調整」
「うっせぇ!」
ふいっと、療から視線を外した竜紅人が、卓子の上に置かれていた、湯呑みを掴むと、香茶を喉へと流し込む様にして飲む。
竜紅人の動作に合わせて流れて来る神気は、まるで身体に良くない物が混ざった煙みたいだと、療は思った。
胸の辺りが苦しくて、身体も少し重く感じる。
鬼族の身体は、人に比べると遥かに丈夫に出来ているので、すぐにどうにかなるわけではないが、微量の毒をじわりじわりと、自ら進んで浴びているような気分にさせられる。
だが。
(何で……懐かしいって思うんだろう)
苦しいだけのもの、だというのに。
「──で? 今度は何だよ」
「えっ?」
畳で片膝を立てていた竜紅人は、仰向けに寝転がる。片腕を枕にして、視線だけを療へと向けた。
「え、じゃねぇよ。お前の様子が変だったのは、俺も香彩も知ってる」
「あぁ……うん」




