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双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第ニ幕 海容
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第4話 麗城にて 其の三



「ですが、どうしました? 先程もおかしいと言ってましたね」



 (ねい)の言葉に玉三郎(たまさぶろう)は無言で頷く。



(かのと)様からはあまり言わない様にって言われてたんだけど、実はねぼく、何度か影武者したことがあって」



 何やら爆弾発言を聞いたような気がしたが、玉三郎の真剣に話す様子に、寧はさらりと流す。



「今まであんまり見破られたこと、なかったんだけど、さっきの寧の言葉を聞いて、やっぱりって思っちゃって」



 先程の言葉と聞いて、寧は思い返す。

 それは。



 完全に一致していたものが少しずつ揺らいで、擦れていく……。



 戸惑いの表情を見せて寧は、玉三郎を見た。



「まさか」

「──妖力がね、安定しないんだ」



 玉三郎は叶の猫だ。

 比喩でも何でもなく、玉三郎はその昔、叶に膝を折り従属の契約を結び、所有物となった。

 慈悲深い魔妖の王は、玉三郎を決して『力』で縛ることはなかったが、玉三郎は『力』の影響を受けやすくなった。



(……玉三郎の妖力が安定しないということは)



 魔妖の王、叶の『力』が揺らいでいることと同意だ。



「玉三郎? 叶様は今どこに?」



 首を横に振る玉三郎に、寧は思わず息を詰めた。

 叶が不在なことと、大宰(だいさい)から連絡がないことは無関係ではないのではないか。

 それは特に根拠のない直感に近かったが、寧も縛魔師だ。

 当たってほしくはない直感だが、一度感じ取ってしまえば、そうなのだと断言出来ていてしまえるくらい、縛魔師の直感は真実に近いところで閃くことが多い。




 狙い澄ましたかの様に。

 鋭い鳥の鳴き声に、考えることを中断させられる。

 主君館の開かれている、楼台の飾窓から翼音を立てて入ってきたのは、一羽の小さな鳥だった。

 鮮やかな色彩をしたその鳥は、真っ赤に色付けされた長くて綺麗な尾羽を持っていて、部屋の中を旋回する。

 寧が右手を差し出すと、鳥は器用に止まり、その形状を平たく、大きな紙のようなものへと変化させた。


 式だ。


 縛魔師が札に術力を込め、意図に適った能力を具える鳥獣へと変え、使役する時に使うものだ。

 連絡用には、長い距離を速く飛ばせる鳥を使うことが多い。



紫雨(むらさめ)様から?」

「……ええ」



 玉三郎の問いかけに寧は、紙の上に書かれた文字を追いながら答える。

 寧にとって待っていた上司からの連絡だった。

 だが一行ごとに読み進めて行く度に、寧の手に力が入る。持っている紙が、くしゃりと皺が寄る程に。



「……寧? どうしたの?」



 玉三郎に答えることなく、寧はひたすら文字を読み返す。

 何度やっても同じだ。

 内容が変わるわけじゃない。

 そう思っていても、何かの間違いではないのかと思い、読み返してしまう。



「寧!」



 玉三郎の鋭い声に、寧はようやく我に返ったが、それでも心の中の動揺は隠せずにいた。



 ──本来ならば心配をかけるだけの連絡など、しない方がいいと分かっているのだが……。

 ──長期の不在になる。何とか持たせてほしい。

 ──決して動くな。

 ──生命に関わ……。



 




 ──香彩(かさい)咲蘭(さくらん)が……に、連れ去られた。



 

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