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双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第ニ幕 海容
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第1話 夢月狂~海容序章~


 春には不似合いな、ひどく滄溟に似た蒼々たる宵の空に、冴え冴えとした真月が上がっていた。

 煌々と光が部屋に差し込み、長い影を落とす中、まだ生まれて間もない赤子が気持ち良さそうに、安らかな寝息を立てている。


 産着は数少なかった母親の着衣から仕立てたもの。

 お気に入りだったそれを解いて、赤子のためにいくつも縫った。

 自分は一枚あればいいのだと笑って。


 赤子のそばには、まだ幼さの残る少年が座っていた。

 どこか虚ろなその目。

 まるで少年の心を見透かしたかのように、夜気の湿り気を含んだ風が、灯を揺らし、人影をもゆらりと揺らした。

 吸い込まれそうな深い森色の瞳は、赤子を見続けている。



 讃えているのは。

 慈愛と狂気。

 深い悲しみは愛憎に溢れ、やがて怨嗟を撒き散らす。



(全て、僕の罪だ)

(僕と結んだ契りは、貴女を黄泉への旅路へと導いた)



 少年は両手で掴む。

 やんわりと。

 急所とも言える、息の通うその場所を。



 序々に、確実に込められる力に、火の付いたように赤子が泣き出す。

 だが、愛憎に捕らわれた少年には、構う様子がない。



(罪だ、これは。僕の罪だ)

(要らない。こんなもの要らない。貴女さえいれば何も要らなかったのに)

(お前さえいなければ、お前が男児でさえなければ)



 罪には問われなかったというのに……!





 澄み渡った夜空に冴えた月の皓々たる光が、ぐったりとした赤ん坊と、息も絶え絶えに荒く吐いた少年の姿を、静かに照らしていた。

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