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双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第一幕 天昇
63/110

第62話 天昇 其のニ


 

 それは奇跡と呼ばれた力だった。

 彼らの一族からすれば、当たり前の癒しの力と成長過程でも、目の前で繰り広げられる、柔らかい光の奔流は、まさに神秘としか言い様がなかった。


 冬の早朝の様な、その神気と。


 ほのかに暖かい冬場の日差しのような、竜紅人(りゅこうと)(つよ)い光の気配に、香彩(かさい)はこれから何が起こるのか想像もつかないまま、ただ茫然とその様子を見ていた。


 時折、胸の奥から()せ返るような何かが溢れ、思わず咳払いをする。


 中庭へ足を踏み入れた途端に、感じたのは竜紅人の柔らかい神気と、ふたつの独特な天妖の気配だった。


 その塊が目の前でぶつかり合う様に、香彩は思わず庇うようにして、胸元から札を取り出し、小さな結界を展開させた。

 舞い散る火の粉のような妖気を直接浴びずには済んだのだが、そのわずかな物をどうやら吸い込んだらしく、胸の奥が酷く重かった。



 だがそれ以上に。

 目の前にいる鵺の言った言葉が、やけに心の中に返しの付いた棘のように刺さった。



『その(いん)の者がどれほどの(ごう)を背負っているのか、分からぬ貴殿ではありますまい』



 鵺は誰に向かって襲いかかろうとしていたのか。



(……自分は今、誰を、庇ったのか) 



 答えは出ているが、どうしても認めたくなかった。

 天妖ですら引き摺り降ろす程の業を、何故彼が持っているのかなど、考えたくもなかった。

 思わず後ろを向いて彼がどんな顔をしているのか、確かめたい気もしたが、もしも答えが顔に顕れでもしていたらと思うと、どうしても振り向けない。


 香彩は見ないように、考えないように、ただ前を、竜紅人を、(かのと)を見ていた。

 叶が(りょう)に向かって小さく何かを呟いていた。まるで何かから解放されたかのように、叶に対して膝を折っていた療が立ち上がる。

 療もまた茫然と、目の前の光景を見ていた。

 

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