第53話 無限の回廊 其の一
初めに見たものは、何だったのだろうか。
とても白くて眩しい光。
護られている光と、傷付ける光。
それが目の前で、大きな光になって、弾け飛んで。
そして。
「香彩! 紫雨!」
とても遠いところで療の声を聞いた気がした。
ぼんやりとした視界の先に、紫雨の端正な顔立ちが見えたような気がして、香彩の意識は一気に浮上する。
紫雨に抱き込まれる形で、香彩と紫雨はは外廊下に倒れ込んでいた。
ゆっくりと香彩が身を起こす。
「大丈夫!? 香彩、紫雨」
療のその声に、紫雨もまた、おもむろに起き上がる。
「療……お前は無事か? 咲蘭は?」
「オイラ達は咄嗟に部屋に入ったから」
あの風から逃れることが出来た、と療が言う。
まさに『力』の塊がぶつかり合って出来た、奔流と衝撃だった。
元々身体に毒でもある妖気と、本来なら護りの力でもある神気。そのふたつが加減なしに衝突すれば、身を灼き、気管支を灼く毒に成り代わる。強すぎる力は人の身にとって全て毒でしかないのだ。
それでもなお。
「……ごめん、紫雨」
急に立ち上がった反動で起こる眩暈を、前を見据えることで堪えて。
外廊下の先へ。
爆発が起こったその場所へ。
療と紫雨の一瞬の隙を突いて、香彩が再び駆けだした。
後方で驚く療の声と、諫めるような紫雨の鋭い声が香彩の名前の呼び、追い掛けてくる気配がしたが、敢えて反応せずに前へ前へと駆ける。
居ても立っても居られなかった。
気配を辿ることしか出来なかったが、激突したのは叶と竜紅人だ。どうしてこのふたりが戦うことになったのか、側にいた葵という少年はどうなったのか、分からないことばかりで焦燥感だけが募る。
(……竜紅人……!)
余程何か切羽詰まった状況があったのだと、香彩は思った。
そうでなければ魔妖の王に対して『力』で応戦することがどういうことなのか、分からない竜紅人ではないからだ。
(……りゅう……っ!)
魔妖の王の神妖たる『力』は、恐怖よりも先にその強大さに畏怖の心が生まれる。譬え真竜といえども、荒れ狂う天災に立ち向かうようなもので、その『力』には適うはずもない。
(それでも、竜紅人は必死に抗おうとしている)
その事実に、やはり香彩の心の中に生まれるのは、焦りだった。
縺れる足を何とか前に踏み出して、香彩は進む。
何があったのか分からない。
(だけど……少しでも力になれたら)




