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双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第一幕 天昇
52/110

第51話 兆し 其のニ



「──気持ちは、落ち着いたのか?」



 香彩(かさい)が再び獣に構い出したのを見計らったのか。視線は香彩と咲蘭(さくらん)に向けたまま、声を落とした紫雨(むらさめ)の言葉に、(りょう)の表情が硬くなる。

 何のことを言っているのか、分からない療ではなかった。

 何故なら今日、自分が目の前にいる紫雨に救われたその瞬間を、鮮明に思い出す出来事があったからだ。

 最後まで自分に付き添い、追手と戦いながらその命を散らした同胞に対する痛みと、麗河の冷たさ。河瀬に叩きつけられた痛みと、息苦しさ。

 命の終わりという。

 仄暗い川底から忍び寄って、腕を伸ばして掴んでくる冷えた手の様なものが、逃さないとばかりに雁字搦めにする。

 その底無しの恐怖が。

 とても温かい腕と、洗練された『力』に救われた。

 天敵である療に対し、最後まで戦い抜いてくれた紫雨と。

 その場にいて滅多に見ることのない『力』を振るった(かのと)に。



(……だから、かな)



 執拗なまでの追手とその数を、実際に見て戦った者だから分かるその違和感を。竜紅人(りゅこうと)には話すことが出来なかった確証のない焦燥感を、紫雨には耳に入れて置くべきだと思ったのは。

 黙り込んだ療の頭に、そっと手が置かれた。

 大きくて温かいそれはすぐに離れたが何故か、つきりと胸が痛むような気がして、療は視線を足元へ落としたまま紫雨に告げる。



「……紅蓮は、彼奴が死んだって言ってたけど」



 紫雨の息を詰める気配が伝わってくる。



「オイラ……どうしても思えないんだ」



 用意周到に自分を追い詰めた相手だからだろうか。謀略がすぐに明らかになったからとは言え、大きな力を持っていた者が潔く服毒して、自ら命を絶つだろうか。



「療……」



 紫雨が療に対して何かを言おうとした、その時だった。

 

 始めに敏感に反応を示したのは、鵺の子供達だった。

 次に瞳に動揺の色が隠せないまま、すっと立ち上がったのは咲蘭だ。

 そして横にいた香彩が、紫雨と呼びかける。

 同じ様にして療もまたその気配に気付き、紫雨を見上げた。






 それは見知った、天妖の気配だった。

 ただいつもと違うのは、抑制されていた力が解放されていたこと。

 紫雨は、あやつめと質の悪い笑みを浮かべ、懐から小さな護符を取り出すと、香彩と咲蘭に渡す。



「手遅れかもしれないが、飲まないよりはましだろう」



 ふたりは無言で頷くと、舌の上に置くようにして護符を口に含む。

 暫くした後、嚥下することによって身体の内側から、自身にとって悪しき『気』のようなものに対する抵抗力を増幅させるのだ。

 効果はさほど長くは続かないが、妖気によりまず始めに侵される気管支を護ることが出来る。

 護符とはいえ、異物を嚥下し、ほっと息をつくのは咲蘭だ。

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