第47話 神妖 其のニ
麗城は縛魔師の筆頭、大司徒の強力な護守と呼ばれる結界で守られている。それは四つの城門に宿る大司徒の式神の力を借りて形成されていた。
結界は妖力の強い『大物』の魔妖を対象としており、大司徒の許可がなくては結界内に出入りできない強力な物だった。
ただ、それはあくまでも表向きの理由であり、副産物に過ぎない。
実際は、魔妖の王の妖力を抑え込み、城へ閉じ込めるためのもの。
人は魔妖からその身を護るために、魔妖の王を国主に戴いたが、警戒を怠ることはしなかった。
彼君は天にいる時から魔妖の神であり、人を魔妖から救う神でもあったが、妖であることに変わりはなかったからだ。
(……どういうことだ。おっさんは何も言ってなかった)
たとえ大司徒が式神を連れていたとしても、城門にいなくなるだけで結界が揺らぐわけではない。仮にそこから出ることが出来たとしても、必ず結界の反発が来る。それは大司徒にも伝わるはずだった。
叶が右腕を前方へと上げ、手のひらを葵の方へ向けた。
葵の息を詰める様子が伝わってくる。
手の内に集まっていく妖力に、竜紅人は葵を庇って前に出る。
「何故庇うのです? 竜紅人。あなたにとってそれは、いらぬものでしょう?」
「……何だと」
「現にあなたはこれだけ接触しているのに思い出しもしない。ならば、もうこれは不要のものでしょう?」
「さっきから……何を!」
何を言っているのかと竜紅人が叫ぶ。
その声に叶が発達した犬歯を覗かせて、にぃと笑う。
「それが必要ならば、思い出すがいい」
がらりと、叶の声色が変わる。
右手に集まっていた妖力が爆発する。
その衝撃は竜紅人と葵を庭へと吹き飛ばした。
竜紅人は咄嗟に受け身を取り、体勢を立て直す。
そして次に見たのは。
身を起こそうしている葵に向かって、叶が鋭く長い爪を突き立てようとしている姿だった。
「──葵っ!」
竜紅人が、葵と叶の間にその身を滑り込ませる。
突き立てられた爪は、竜紅人の腹を深く抉り。
その身体は崩れ落ちた。




