第44話 招かざる珍客と檻の主 其の三
どう、すごいだろうと言いたげに胸を張って座っているその姿に、かわいいとはしゃぐのは、香彩と療である。
「流石に子守はお手の物、ですね。竜紅人」
「やかましい!」
考え事の邪魔をされたことに機嫌が悪かったのか、咲蘭の言葉に竜紅人はつんけんに返す。
「……そうだな。子守は昔からお前の方が上手かったな、竜紅人」
「そこで乗っかるなよ、おっさん」
げんなりとした様子で、竜紅人が紫雨に言い返す。
「お前におっさん呼ばわりされるとは心外だな。邪険に扱われた相棒に加勢して何が悪い」
「げー」
紫雨の言葉にさらにげんなりとして竜紅人は、とても何か言いたげな目をして香彩を見る。
香彩は首を横に振った。
「駄目だよ竜紅人。紫雨の最近のお気に入りは、咲蘭様だから」
「何を言う、一番大切なのはお前だ、香彩」
「うん、知ってるー」
有無を言わせないにっこりとした笑みを浮かべてそういう香彩に、周りの者が唖然とした後、大きく溜息を付いた。
「はいはい、ごちそうさまです」
咲蘭の言葉に、療が吹き出し、笑い出す。
その笑い声の中に混ざる、少年の声。
「ごめんなさい、あまりにも面白いものだから」
少年の笑い声に誘われるように、鵺の子供の一匹が少年の膝の上に顎を乗せてくつろいでいた。少年はそっとその頭を撫でる。
竜紅人は少年の側に座り、頭を下げた。
「すまない葵。お前のことが、わからない。覚えているの、名前だけなんだ」
竜紅人の言葉に戸惑いの表情を浮かべた葵だが、ふるふると首を横に振った。
竜紅人の伽羅色の髪によく似た色の髪が、さらさらと揺れる。端から見ると二人は兄弟か、親近者に見えるくらい、よく似ていた。
紫雨と咲蘭は顔を見合わせ、香彩と療に目配りをする。
四人は無言のまま、そっと部屋の中から出て行ってしまった。そして鵺の子供のもう二匹が香彩に付いて部屋を出る。
部屋の中には竜紅人と葵、そして鵺の子供一匹が残される。
余計な気を回されたのだと気付いたのは、少し経ってからだ。




