第40話 療と竜紅人 其の三
「あいつのやりそうなことだよな。今回のことも何か分かってて隠してる感じがするしな」
竜紅人の言葉に、療は少し困ったような表情を見せた。
「……でも結果的に、紅蓮に会って話をすることが出来て、よかったと思ってるよ」
療は少し遠い目をして思い出していたようだったが、気分を変えるかのように、しっかりと竜紅人に視線を合わせた。
「そんなオイラのことより、竜紅人の方が心配だよオイラ。覚えてないだなんて耄碌するにはまだ早いよ」
「あのなぁ……」
竜紅人が療に文句を言おうとしたその時だった。
空間の揺らめきを感じて、咄嗟に竜紅人が立ち上がる。
療もまたその『力』の発動に思わず、神経を研ぎ澄ませた。
見知った人物が織り成すそれは。
「……ったくはた迷惑な!」
ほっとした様子で、だが腹立だしそうに竜紅人が座る。
よく知った気配の『術力』が形成したのは、結界だった。
「聞かれたくない話、だったのかな?」
人を遥かに凌駕する聴力を持つ療と竜紅人だが、さすがに結界の中で話されては、その聴力を持ってしても聞くことは出来ない。
少し離れた場所にいるのは、きっと寝ていると思われている自分達を結界の気配で起こさないためか、それとも。
(結界を張って話をしたことを、気付かれないようにするためか)
紫雨と香彩にとって、この離れにいる竜紅人、療、そして咲蘭は、あまりにもあちら側すぎるという認識なのだろう。
「まぁ、大体想像つくけどな」
「 ? 」
「事情聴取」
竜紅人の言葉に一瞬きょとんとした療だったが、ああ、と納得する。
今回の旅を紫雨が知らなかった可能性は大いにあるのだ。そう、自分たちが勅命を受けた時、彼らは視察の為に数日前から城を出ていたのだから。
そして碧麗で会った。
これは果たして偶然なのだろうか。
そんなことを考えていた矢先の出来事だった。
隣の部屋が騒がしくなったのは。
療と竜紅人が顔を見合わせる。
何かが勢いよく倒れ、割れる音がした。
そして。
静けさを引き裂くかのような、甲高い獣の声が響き渡る。
隣の部屋は確か。
咲蘭と葵の部屋ではなかったか。
療と竜紅人は勢いよく、自分達の部屋から飛び出した。
 




