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双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第一幕 天昇
38/110

第37話 紫雨と香彩 其の三



「……で? 色々とは?」



 少し物思いに耽ていた香彩(かさい)は、少し深みのある口調で言う紫雨(むらさめ)の声に、意識が引き戻される。



竜紅人(りゅこうと)のこと……なんだけど」



 話していいものかと悩んだが、自分の感じたものを共有し、意見がほしいと切実に思ったのも、事実だった。



「昨日ね、竜紅人を『()』たんだ……」



 意外な名前と、力の行使に紫雨が目を見張る。

 香彩は、昨夜感じた竜紅人の様子を、紫雨に話した。




 大きな光の力の奔流。

 それは香彩や紫雨にとって、術力の源となるものだ。

 引きずり込まれ取り込まれそうなくらいの、その毅さ。

 その中に見える、大きく広げた力強く羽ばたく竜翼。



「……初めて葵を見た時、違うものに見えたんだ」



 竜紅人がその腕に大切そうに抱いていたもの。

 あの時は結界を張ることに精一杯だった。だが竜紅人が少年を、とても大事そうに木の幹に寄り掛からせていた光景に、一抹の寂しさを覚えたのも事実だ。

 今まで自分のいた場所を突然取られたような、そんななんともいえない気分を、香彩は心の奥底に閉じ込める。

 

 

「何かね……竜紅人の中にあった、光の力の奔流の大きな玉に見えたんだ」



 それは一瞬の表情の変化、だった。

 香彩の話を聞いていた紫雨の顔が、強張ったかのように見えた。

 だが本当に刹那の出来事で。

 すぐに表情を隠した紫雨を、香彩は問うことが出来なかった。



(……この感じ、この前と同じだ)



 夢から目覚めた時の、『聞いてはいけない』という直感。

 それとまさに同じものを香彩は感じていた。



「……今はまだ隠れているけど、葵の中にはとても毅い光の力を感じる」



 ここまで話して香彩は喋ることを止めた。

 ふたりの間に沈黙が降りる。

 それぞれが自分の中で、様々なことを考え、巡らせる。

 柔らかい風が香彩と紫雨の間を、吹き抜けた。

 紅麗灯の暖かい色の灯が、大きく風に揺れて、立っている香彩の影もまた、ゆらりと揺れる。

 まるで心の中のように。



「……覚醒、か」



 沈黙を破ったのは紫雨だった。

 香彩は無言でこくりと頷く。



「多分……葵は、竜紅人の……」  






 香彩が話そうとしたその時だった。

 結界にわずかな衝撃が走り、紫雨が思わず立ち上がる。

 破られてはいない。

 だが。

 聞こえてくるのは、とても甲高い獣の咆哮。



「なっ……」



 匂い立つように溢れてくる、その独特の気配。

 その黒い影が、香彩の前を遮った。

 

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