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双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第一幕 天昇
35/110

第34話 離れにて 其の四


 

 誰とも言わず、多分この場にいた全員が大きく息をついたのが分かった。

 顔を見合わせた咲蘭(さくらん)(りょう)が、くすくすと笑う。

 その場にいるだけで、見る者に強く迫るかのような威圧感を感じることもあり、紫雨(むらさめ)のいなくなった部屋はそれだけで空気が違う。

 特に緊張したつもりなどなかったはずなのに、肩に力を入れていた自分が可笑しくて、竜紅人(りゅこうと)も笑った。

 それを見ていた療が、ほっとしたように口を開いた。



「しかし……香彩もすっごいよね。ほぼ四六時中、一緒なのによく平気だなっていつも思うんだ」

「あいつらは……似てないようで、似てるからな」

「それに……また違うんでしょうね。私達と一緒だと」



 全く持ってその通りだ。

 たとえ纏っている雰囲気が変わらないとしても、お互いの前でしか見せられないものもあるのだろう。

 竜紅人は残っていた香茶を飲み干す。どうやら喉も乾いていたらしかった。



「おかわりはいかがしますか? 療、あなたは?」



 自分の手元に置いていたのだろう、茶器の一式を机の上に置き、咲蘭が問う。療は喜んでお願いしますと、湯呑を渡した。

 竜紅人もそっと湯呑を咲蘭に渡す。



「香茶もお願いしたいんだが……もうひとつ頼まれてほしい。咲蘭」

「おや? 珍しいですね。あなたが私に頼み事など」



 咲蘭が湯呑を渡しながら言う。

 仕事柄、咲蘭とは接点はある。

 咲蘭は大僕(だいぼく)参謀官という任に就き、国主の補佐を行うと同時に、その身辺警護も行っている。大僕参謀官の別名を大司馬将軍といい、軍事、警備を取り仕切る大司馬の統括であり、宿衛兵(しゅくえいへい)である療の上司だ。

 大僕は、六つの大司官の統括でもある、大宰(だいさい)と仕事をすることも多い。

 大宰には弟がいて、竜紅人にとって直属の上司である大司冠(だいしこう)の任に就いている。

 会話する機会はたくさんあった。

 竜紅人は国主に預けられている身でもある為、仕事以外でも国主の横にいる咲蘭と話すことも多かった。

 だが、頼み事したりされたりする程の間柄ではない。

 それでも。



「……一晩、葵のこと、頼めるか?」



 咲蘭が目を丸くしたかと思うと、くすりと笑った。



「おや? 心配で気になるあまり、同室にするのかと思っていましたよ」



 受け取ったばかりの湯呑を、そのまま落としそうになって慌てる竜紅人を、療が驚いて見ている。

 げんなりとした顔をして、竜紅人は溜息をついた。



「あのなぁ……」

「流石にあなたとあの少年が同室では、面白がる統括もいることですしね」



 構いませんよ、と咲蘭が言った。



「ひとりにしておくのが、心配なんでしょう? 彼が目醒めたら真っ先にお知らせします。竜紅人、まずは何も考えずゆっくりとお休みなさい」



 気遣うような優しい表情で笑む咲蘭に、竜紅人が息を呑んだ。

 その笑みに、腕に添えられた手に。



「……すまない」



 心の中の張り詰めていた糸が緩まされたような感覚に、目頭が熱くなる。

 竜紅人はそれを、俯くことで遣り過ごした。



「療? 竜紅人を連れて行きなさい」



 咲蘭の言葉に、療が短く返事をした。

 竜紅人を支えるように体に手を添え、立ち上がらせる。

 頼みましたよ、と声を掛ける咲蘭に、療はこくりと頷いて見せた。 


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