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双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第一幕 天昇
34/110

第33話 離れにて 其の三



「……すまない」



 竜紅人(りゅこうと)が握飯の乗った皿を押し返す動作をする。

 察した咲蘭(さくらん)が皿を竜紅人の目の届かない位置へと下げた。

 紫雨(むらさめ)の言い付けを守っているのか、療と香彩(かさい)が無言のまま、固唾を飲んでその様子を見ている。そんな顔をするなと言ってやりたい竜紅人だったが、今はそんな心の余裕がなかった。

 正面に座る紫雨は何も言わないが、確かに待っているのだ。


 竜紅人が話す、その時を。

 視線を真っ向から受け止める。



「……正直言って、話せることがない」



 竜紅人の言葉に紫雨が目を見張る。



「それはどういう意味だ?」

「そのまま、その通りだ。……俺には(あおい)が誰なのか、分からない。知っていると理解しているはずなのに、それが何なのか分からない」



 だから話せることがない。



「葵は……確かにあの時、俺の名前を呼んだ。呼ばれた瞬間分かったんだ。『葵』という名前と、旅の間、何度か呼ばれた気がしていたその声が」



 この声だった。

 竜紅人は香彩の方を見る。

 香彩も驚きの表情をしていたが、竜紅人に頷くと、視線を紫雨へと変えた。

 気付けば咲蘭も療も、紫雨を見ていた。

 竜紅人も再び、紫雨を見る。

 こういう時の今後を決める決定権は、紫雨にあることを全員が理解していた。



「……ここで情報のない者同士、雁首揃えていても仕方あるまい。今日は休んで、早朝城へ向けて出立する。奴に問いただす案件もあることだしな」



 紫雨の言葉に全員が返事を返す中、竜紅人だけが言承けもなく、じっとしていた。

 竜紅人は特に拒否したいわけではなかった。

 少年がいる以上、一度城に戻った方がいいに決まっていた。

 だが自分の中のがらんどうな心と記憶が、自分をここに留めたがる。



「……わかったな。竜紅人」



 その理由をと、問い正されても説明ができないと判断した竜紅人は、自分の中に沸いた疑問を押し込める。



「ああ……分かった」



 竜紅人の返答を聞いた紫雨は、ここにはもう用がないとばかりに無言で立ち上がった。



「……香彩」



 今まで話していた声色より、少し低めの声色で呼ばれた香彩は即座に応答する。

 紫雨は、ついてこいとばかりに香彩に向けて顎をしゃくった。

 香彩は立ち上がり、残された三人に明るくおやすみと言って手を振ると、紫雨に続いてこの部屋を出て行った。

 

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