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双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第一幕 天昇
29/110

第28話 雷鬼 其の一


 

 前方にとても強い妖気があった。

 土鬼達とは比べ物にならないくらい、洗練された気配とその(つよ)さ。

 妖気の持ち主が近づくにつれ、療の中には戸惑いが生まれる。

 姿を認めた時、心が鷲掴みになるような切なさが込み上げてきて、それを隠すように療は、今まで抑え込んでいた力を……妖気を開放した。

 竜紅人(りゅこうと)香彩(かさい)は、紫雨(むらさめ)が作った結界の中にいる。少しの時間ならば、そんなに影響はないはずだ。


 妖気の持ち主が駆けてくる。

 憂いを帯びたその表情を、どうにかしたくて、療は軽く笑んで見せた。

 自分は果たして上手く笑えたのだろうか。

 はっとした顔が、こんなにも近い。

 いつの間にか療の身体は、体格のいい青年の腕の中に、すっぽりと収まっていた。



「療……っ!」



 背に回される腕の力を感じて、療はおずおずと青年の背を抱き締める。


「……紅蓮(ぐれん)……義兄(にい)さんっ……」



 療のあたたかいぬくもりを背に感じたのか、紅蓮と呼ばれた青年が、療を力強く掻き抱いた。

 自分を救ってくれた兄者が目の前にいる。

 会いたくても危険に晒すことを恐れて、会えなかった青年が。



「……土鬼の気配を追っていたら、療の気配がして」



 気付いたら走り出していたのだという紅蓮に、心の中から感情が湧き上がってくる。

 だが療は敢えて何も言わなかった。

 言葉に出すことで、彼を縛り付けたくなかった。

 そっと、紅蓮が療から離れる。

 ぬくもりが離れてく名残惜しさを、療は感じていた。







「下がれ、白虎」



 紫雨のその言葉に、白虎は一陣の風と共に、その姿を消した。

 白虎が消えたことにより、結界が解除されたことを感じた療が、その力を影響の出ない程度に抑え込む。そして無言のまま、土鬼を、そして紅蓮と呼ばれた青年を見ていた。

 竜紅人と香彩、そして紫雨は改めて思い出すことになる。

 療が『鬼族(きぞく)』であるということに。そして『鬼族』の中でも大物に分類され、強大な妖力を持った『雷鬼(らいき)族』であるということに。



「……紅蓮」



 療が、おずおずと話しかける。

 紅蓮は療に微笑みかけると、その表情を一変させ、厳しい表情で右腕をさっと横に広げて下ろした。

 それが合図だったのだろう。

 片膝をついて頭を垂れていた土鬼が、療と紅蓮に一礼をすると、その姿を闇に紛れさせ消えて行った。

 土鬼の一礼の姿に、療は息を呑んだ。

 『鬼族』は属性ごとに主従関係が存在している。自尊心の高い『鬼族』は、たとえ自分より上の位の属性の者であっても決して膝を折ることはない。彼らが膝を折り頭を垂れ、一礼を取る相手は、ただひとり。



「紅蓮……まさか……」

「そう。今は私が……長を務めている」

「何故、貴方がっ……!」



 療は、冷水に触れたかのような、はっとした表情を見せた。



「あいつは……風丸(かぜまる)はっ……!」



 拳を握りしめ、ぎっと奥歯を噛んだ顔で、療は苦々しくその名を口にする。



 それは、時期長候補として有力だった療を陥れるための謀略だった。

 現長殺しの汚名を着せられ、紅蓮を始め療を慕う者達に助けられて、療は命からがら里を脱出することが出来た。だが追手を差し向けられ、護衛として追従していた親しき者も失い、もう駄目かと思ったその時に、麗国主と大司徒(だいしと)に助け出されたのだ。

 追手を差し向け、姦計を企てた者の名を風丸といい、療と同じ時期長候補だった。



「……風丸とその一味の謀略はすぐに明らかになった。私達が彼らを見つけた時には、彼らはもう毒を飲んで息絶えていた」

「──死んだ!?」

 

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