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双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第一幕 天昇
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第26話 愚者の森の攻防 其の三


 

 白虎はうなり声を上げて、前方の土鬼(つちき)を威嚇する。

 土鬼もまた牽制するが、動けずにいた。動けば白虎の風の刃が土鬼を吹き飛ばし、切り裂くことを経験で知っていたのだ。

 風が土を抉り、土埃を舞い上げるように、土属性は風に弱い。

 土鬼相手に戦うのなら、白虎はまさにうってつけだ。

 白虎が今度は天に向かい高らかに咆哮する。

 するとどうだろう。

 白虎を媒体に流れ込む術力が、先程香彩(かさい)が張っていた結界と同じものを形成していく。風属性を媒体にしたその結界は、土鬼相手にはとても有効だろう。

 竜紅人(りゅこうと)と香彩は呆然とその様子を見ていた。

 白虎がここにいるということは、術者もいるということだ。

 この術力の気配を、そして白虎を、ふたりはとてもよく知っていた。



「……たかがこれだけの土鬼に結界が破られるとは。まだまだ、だな。香彩」

「……むら……さめ?」



 三人が走ってきた方向から現れる長身の影があった。

 その姿に、気配で分かっていたとはいえ、香彩と竜紅人は驚き、戸惑う。本来ならば旅の途中で、しかも愚者の森の中で会えるはずのない人物だったからだ。『鬼族』が作り出した幻影か否かと思う気持ちもあったが、彼にしか扱えない式神が目の前にいる。


 悠然とした態度と足取りで、紫雨(むらさめ)と呼ばれた人物は、竜紅人と香彩の前に現れた。

 歩を進める度に、結い上げられ背中に綺麗に揃えられた太陽の光のような金の髪が、さらりと揺れる。竜紅人と香彩を見るその目は、意志の強さの現れか、それとも三人に対する苛立ちの所為か、鋭さがあり、彫りが深く粗削りな顔立ちと相俟って、見る者に強く迫るかのような力強さがあった。



「おっさん……なんでここに」



 竜紅人の言葉に、紫雨が呆れたように短く息を付く。



「お前におっさんと言われたくないな。籍田皇(せきでんこう)の視察だ。碧麗(へきれい)で日も暮れたというのにわざわざ森に入っていくお前達も見たのでな。気は確かかとこうして追いかけてきたわけだ」



 籍田皇の視察、と聞いて竜紅人は納得する。



 籍田皇は国政の財政を管理する大司農(だいしのう)の中でも、城主直轄地の財政管理を行う役職のことだ。


 街道沿いにある紅麗(くれい)、碧麗が主な城主直轄地に当たる。このふたつの街は人の流れも金銭の流れも大きい為、半月に一度、大宰(だいさい)自らが大僕(だいぼく)を引き連れて不正がないか、視察に訪れる。城主の懐刀と言われている大宰と大僕を視察に向かわせることで、紅麗と碧麗の長に牽制をかけているのだ。


 

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