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双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第一幕 天昇
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第14話 紅麗 其の四



「……で? どうするよ」



 竜紅人(りゅこうと)の言葉に、香彩(かさい)と療はきょとんとした表情で彼を見た。



「宿だよ、宿!」



 ようやく思い出したかのようなふたりの様子に、竜紅人は軽く目元に手をやる。

 まだ城を出てから一日とて経っていないのに、何故こう何日も城を離れたような疲労感がするのだろう。



「最悪取れなかったら、伝手(つて)を頼るしかねぇけど」



 あんまり頼りにしたくねぇしな、という竜紅人に、香彩と療は複雑な表情で頷く。   

 もし宿が取れなければ、麗城が近い関係上、そして仕事上、頼る場所はいくらでもある。

 だがなるべく仕事関係には頼りたくないというのが本音だ。


 特に魔妖関連の事で動く場合、あまり余計な詮索を入れられると、有りもしない噂を立てられることがある。

 それは決して竜紅人達や国主(かのと)にとって、友好的な噂でないことの方が多いのだ。


 三人は沈黙する。


 その深刻なまでの思案顔は、今から色街に繰りだそうとする陽気な人の流れとは、あまりにもかけ離れていたのか、流れの中の好奇心のある人は何事かと訝しんで彼らをじろじろと見つめた。店の売り子のかけ声すら彼らを避けるようだ。


 不意に。  

 香彩が視線を上げる。

 そしてつられるように、竜紅人そして療が視線を上げた。



「……おやおや」



 酒でほんの少し灼かれてはいるが、深みと色気のある高い声が、面白そうに言う。

 彼らの目の前には、大きく胸の開いた薄赤の衣を身に纏い、宝石のついた首飾りを幾重にも付けた女性が、にぃと猫を思わせる仕草で笑っていた。



「少年だねぇ。そんな深刻な顔をして、春画屋の前で一体何の相談だい?」



 春画屋、と聞いて三人が思わず後ろを振り返る。

 売り子の中年男性のにこやかな笑顔とぶつかって、三人は引き攣った笑顔を見せて 軽く会釈した。そしてついつい「売り物」に目がいってしまう。


 そこには天幕の張られた屋台があり、たくさんの売り物の「絵」が所狭しと並べられていた。

 「絵」は二種類の存在し、ほとんどが男女間の性の秘戯をあらわに描写した扇情的な絵画となっている。

 また一人絵といって、麗国で人気のある人物のあられもない艶美な姿を描いたものも存在する。こちらは女性の方にかなりの人気があって需要も高く、女性受けしやすいよう「春宵画」と名称を変えているのだという。

 視界に入った物の中に自分の春宵画を見つけてしまって、香彩はげんなりとした様子で先程の女性に振り返る。

 面白がって香彩のそれを見せようとした竜紅人の手を、ぺしりと療が叩いた。



「駄目だって竜ちゃん。お多感な年頃なんだからさ、変に落ち込んだらどうするんだよ」

「何をどう、落ち込むんだよ、たかが春宵画一枚で」

「自分の春宵画を女の人が買っていく時点でもなんとも言えない微妙な気分なのに、買うのは決して女の人だけじゃないんだよ。オイラだったらぜっったいに、見なかったことにしたいよ!」



 療が少し怒って、竜紅人に喰ってかかる。



「分かった、分かったって。だからそんなに喚くなって! それに……」



 言いながら竜紅人は香彩の方を見やる。

 香彩は大きくため息をついて、首を横に振っているところだった。

 『人物その壱』をからかおうとした『人物その弐』を止めるためにした行動が、結果的には『人物その壱』にとどめを刺してしまう、というよくある話である。

 

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